12 タイムリープしないとしても、するとしても
と、ここまで思った時、
(――って、僕もマジになり過ぎだよな。果たして、本当にタイムリープするのかどうかも、まだ分からないのに。あした起きたら、十五歳に戻ってる? そんなこと、可能なのかー?)
あの小さな女性が人間ではなく、超常現象的な存在であることは、認めざるを得ないとしても、だ。
とはいえ、タイムリープの話だけはデタラメということも、十分にあり得る。
(考えてみりゃ、あの妖精だって、誰かがイタズラで、プロジェクターで立体映像を照射しただけかも。今の科学技術じゃ難しそうだけど、タイムリープよりは、まだしも信じられるよな……)
寝転がって、つらつら考えているうち、つい、そのまま眠りに落ちそうになり、
「ぬおっとオ!」
慌てて、マサトは飛び起きる。
(あした、タイムリープするのなら、部屋を片付けて、整理して、きれいにしておかなきゃな)
と気づいたからである。
しかし、それは勘違いであった。
「――あっ、違う違う! 別に、死ぬわけじゃないんだ。僕が消えたあと、この部屋に誰かが入ってくるわけじゃない。この部屋とか全部、あとかたもなく、無くなってしまうんだ。だから、ほったらかしでいいんだ」
マサトは独り言をつぶやいた。
(いや、この部屋に限らないんだよな。全ての……)
地球、人類、宇宙、全部だ。
リープした先の、その時点以降の、全ての出来事が、一旦、なかったことにされてしまう。
もう一度巻き戻されるだけなんだと分かってはいても、想像を絶する重大さ、恐れ多さだ。
マサトが今まで見た漫画や映画では、主人公が作中で何回もタイムリープする話も多かった。
真面目に考えたなら、その都度、宇宙全体が巻き戻され、リセットされていることになる。
(それも、すごい話だよなあ)
プッと吹き出す。
「――バカバカしい。やっぱり、あるわけねえよ。タイムリープなんて、起こりっこねえ!」
マサトは、大きめの声を発した。何だか、スッキリした。
(さて、明日も仕事だ。目覚まし時計をセットして、と)
赤い時計を、枕元に置く。
(仮に、万が一、タイムリープが本当だったとしても、一応、最低限の対策、準備はしたんだし、もう十分だろ)
反対に、
(もし、タイムリープが起こらなかったら、夜中まで準備しても無駄だし、寝不足で体調を崩したら、一番、アホらしいよな)
そして、常識的に比較検討すれば、後者の方があり得るのだ。
四十代の社会人としては、損得を考えれば、ここが妥当な線引きであると思われた。
「よっしゃ、もう寝よう。あした起きたら、今日の続きだったとしても、万が一、十五歳だったとしても」
部屋の明かりを消して、今度は本当に就寝した。
いろいろ考えるなどして、疲れ切っていたのだろう。
「――」
マサトは、あっさりと眠りに落ちた。
【続く】
と、ここまで引っ張っておきながら、
だが、結局タイムリープは起こらず、その後もマサトは、特に楽しくもつまらなくもない人生を送った。
時折、あの妖精は何だったのだろうと思い出す。夢だったのかもしれないな、とも思う。しかし、人生とは、これくらいのスパイスがあった方が、張り合いもあるに違いない。
などという結末にしようかと迷いもしつつ、しかもそっちの方が斬新で面白いんじゃね? とも思いつつ。
仮にも、全国屈指の小説サイトで「タイムリープ」というタグを付けて連載を始めた以上、そりゃ誠実さに欠けるでしょうと。
誰もいない森で木が倒れた時、その音は存在したと言えるのか、みたいな話かもしれないけれど。
ネットに載せる以上、全世界へ公開してるんだ、という気概と責任は忘れたくないのです。




