11 悪意は出さない。勇気も出さない。
マサトは布団に寝転ぶ。
(――そうだ、クラスメイトの未来をネット検索して、覚えておくか? アドバイスしたり、弱味を握ったり出来るかも)
だが、ネットで調べたところで、実名でヒットする人は少ないはずだ。
大人になってからの、その後のネット検索によって、二人ほど、市議会議員と、大学の准教授になった者を知ってはいるけれど。
また、中学時代、マサトは特にイジメなどにも遭わなかった。男子同士の、小競り合い程度ならあったけれど。
つまり、過去へ戻っても、差し当たって、誰か復讐したい相手がいるわけでもないのだ。弱味を握っても、使い道がない。
(クラスや学年の美少女の弱味を握れば、あんなことや、こんなことも……)
マサトも男として、そんな発想も、心のどこかには、ないではない。
だが、
(くだらないな)
と、自分の下衆な思いを打ち消す。
性的な暴力の鬼畜さを横に置いても、そういう行為をすることに、何のメリットも感じない。
マサトの四十数年間の人生、地味で味気なかったが、犯罪歴はない。
悪事がバレるのではないかとおびえることもなく、恐らくだが他人からうらまれることもなく、普通に社会人として平和に生きてこられた。
これが、どれほど有り難いことか。学生時代にはなかなか気づけないことだが、大人になった今なら、身にしみて分かる。
(性的な暴力は言語道断だけど、たとえ合法だろうと、刺激的な行動は、どっちみち、やめよう。未来の情報を悪用できそうな局面があっても、なるべく知らん顔しよう。冒険はしない。好きでタイムリープするわけじゃないのだし。逆に、変な使命感や正義感を発揮するのもやめよう)
例えば、社会に衝撃を与えた凶悪犯罪者。
マサトの中学卒業後にも、何人か、報道で顔も名前も覚えてしまった者もいる。そいつらと、街で出会うことだって、あり得るのだ。
(万が一、そうなろうとも、見て見ぬ振りをするしかないよな? 何もしてないうちから通報するわけにも、殴るわけにもいかんし、どうしようもないもんな。僕、おかしくないよね? これ、普通の考え方だよな?)
【続く】
今回は哲学的なお話でした。
自分が見て見ぬ振りをした問題に、周囲の人が積極的に関わって助けてるのを目の当たりにして、「ああ、俺って、大して善良な人間でもなかったんだな」と思い知ったことが、私には何度かあったりします。




