表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第一章 タイムリープ YES or NO【マサト45歳・西暦202X年】
1/67

1 タイムリープをしてもらいます

 ある夜。

 いつものように、会社からアパートに帰宅し、マサトはネクタイを外す。背広を脱いで、シャワーを浴び、部屋着姿となる。

 スマホを取り出して、気分転換に動画サイトを開いたら、懐かしい歌が流れてきた。男性の声。


  君が走れば 風も走る

  もし君が笑えば……


 ブッ、と動画を切る。

 青春時代に夢中になった、ロックバンドのヒット曲である。

(こんな歌を、真面目に聴いてた時代が、僕にもあったんだなあ……)

 やりきれなくなり、打ち消すように一人つぶやく。

「恋や夢を、無責任に売らないでくれや。僕が走っても、風なんか、走らねえよ」

 息切れするだけさ、と、心の中で付け足した。ここまで口に出すのは、むなし過ぎるので、やめたのだ。

 マサトは四十五歳サラリーマン。独身である。


(ああ、つまらねえ。テレビでも見っか)

 その時であった。

 いきなり、オレンジ色の光とともに、手のひらサイズの女性が部屋に出現した。

「なっ……!」

 余りに現実離れしていたためか、パニックを起こす暇もなかった。

 背中には羽根も生えている。一種の妖精だろうか。

「お邪魔します。魔法の世界から来ました」

「はあ……」

 はあ以外、どう言えというのか。


 女性は、お構いなしに、どんどん話を進める。

「突然ですが、マサトさん、あなたにタイムリープをしてもらいます。人生を、十五歳からやり直してください」

「えっ」


 どうやら、真面目な話らしい。

 すぐ、この小さな女性が、幾つか、超能力的な技を披露してくれたからだ。マサトの髪の毛を一瞬で数センチ伸ばしたり、部屋にある物体を浮かび上がらせたり。

 ただ者じゃない。タイムリープ程度の現象は、起こせるに違いない。


 さっきまでの、自虐的な心持ちなど、吹き飛んでしまった。それどころではない。

(ああ、恐ろしいことだ)

 マサトは震え上がり、口を開いて、一気に訴える。必死だった。

「勘弁してくださいよ。受験も就職活動も失敗し、アルバイトを転々とした末、アラサーの時、たまたま空きがあった企業で正社員。それからは、安定収入と貯金。現状に大きな不満はないんですよ。もし、もう一度人生をやり直したら、今いる場所へ戻って来られる自信がない。人生のタイミングが、ちょっとでもズレたらおしまいなんですから」

「そんな、後ろ向きなことおっしゃらずに。せっかくタイムリープするんですから、楽しい青春を送りましょうよ。マサトさんが十五歳の頃は、中学のクラスのハナエさんという女の子がお好きだったはず。ハナエさんと付き合えるかもしれないんですよ」

 小さな女性が、励ますように言った。


 マサトはぶるぶると首を振り、

「中学時代、ハナエさんは、学年でも有名な美少女でした。今の僕は、そりゃ当時よりは人生経験も社交性もあり、駆け引きもできますけど、それでも、あの頃に戻っても、とてもハナエさんを口説き落とせるとは思えません。あれから約二十年、婚活アプリとかも利用したけど、結局、大人になっても、僕には一度も恋人ができなかったし。もともと、僕は非モテ体質だったんですよ。この年になって分かりました」

「うーん……」

【続く】


次回、マサトが妖精を論破するのか、それとも妖精がマサトを説得するのか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ