星空上映会
僕が子供の頃、母さんは時々…映画に連れて行ってくれた。
母一人子一人の、貧乏暮らし。
映画館など、行けるわけはない。
そんな僕たちがいつもでかけていた映画館は、近所にあった。
……工場のわきを流れる、川の土手。
天気のいい日の夜、そこに寝転がり、夜空を見上げるのだ。
月が輝き星が瞬く夜空が…スクリーンだった。
心で見る、星空上映会。
想像が広がる、限りなく自由な物語。
創造がかきたてられる、制限のない物語。
母さんは星空上映会で、色んな話を…魅せてくれた。
耳を傾ければ頭の中に情景が浮かび…、壮大なスクリーンに彩りを帯びた物語が流れた。
少女の夢の物語。
少年の友情の物語。
摩訶不思議な世界の冒険譚。
人情味にあふれた温かい物語。
やるせない戦いの記録。
手に汗握る駆け引きの物語。
夜空を見るたびに思い出す、数々の作品。
……母さんと見上げた星空は、少々灯りを背負うようにはなったものの、あの頃見た色と何一つ変わらない。
大人になり、本物の映画館に行き…、いろんな作品を見たけれど。
僕の中に色濃く残っているのは、あの頃に見た……人っ子一人いない暗闇の、星が輝くスクリーンの物語だ。
いつまでも憶えている、あの頃聞いた、物語。
……今、一人で望む、星空上映会。
思い出すだけで、昔を振り返ることができる……僕の、とびきりの宝物。
誰も知らない、僕だけの……宝物。