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003.ショップソード


 無機質な声が響いた後に光出した俺の魔剣。暫く光に耐えていると段々と光が弱くなっていき、やがて光は収まった。

 俺は細めていた目を開き、先ほどの無機質な声に否が応でも期待してしまう。


「覚醒しますって……まさか!」


 俺は握っている魔剣に意識を集中させる。

 すると、目の前に魔剣の詳細が書かれているボードのようなものがシュンと音もなく現れた。

_ _ _ _ _ _

魔剣 ショップソード

保有魔石数:50012

《技能》

【ショップLv.1】

 ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄

「ッ~! 覚醒したッ!」


 魔剣の覚醒。それが、俺の身に起こった喜劇であった。俺は歳も忘れてその場でガッツポーズを決め、喜びを露にする。


「これがあれば、国に戻って……!

国に戻って……。……国に戻る、か」


 俺は一瞬で冷めてしまった。

 国に戻って、何になるのか。戦争の兵器として一生を過ごすか、国の奴隷になるのか……。

 俺はふと、25年前、俺が13歳の時に出会った他国のエルフの魔剣使いの言葉を思い出した。彼女はこの国の隣国であるバールト王国の魔剣士で、当時で40年近くバールト王国に従事しているらしい。それも、奴隷の首輪を付けて。

 本人曰く、戦争に助力し、疲弊し油断した隙に奴隷の首輪を付けられたらしい。それからというもの、あちこちの戦争に向かわされたり、数多くの力仕事を任されたり、夜は王族の慰み物にされたりと、散々な人生を送ったらしい。

 彼女は俺のことを蔑んだり、お前も同じ目に、と言うのではなく、同じ道は歩まないようにと心配してくれた。

 話を戻すが、俺が今戻ってもそんな道を歩む未来が安易に想像することが出来る。

 一応、国は俺のことを15年近く面倒を見てくれた。当然、それなりに恩義を感じている。だが、俺は少年時代と青年時代を潰され、尚且つ村の壊滅、挙げ句の果てには、身勝手にも見放された。


「戻っても意味がない、か」


 俺は通った道を引き返すことはなく、進んでいた方向へと歩き始めた。


 これからは、色々なところを見て回るのも良いかもしれない。森のどこかに家を買って、一人静に生きよう。そこで畑を耕したりして、所謂スローライフもいいだろう。俺は今後のことを考えながら道を進む。この先に、楽しい日常があると信じて。



 * * *



 時は進み、エスカイルが王都を出て一ヶ月。

 冒険者ギルド王都支部のギルドマスター、ヘブンリー=オーマスは一人、自身の椅子に座り、一枚の書類を眺めていた。


「あっ? エスカイルの野郎、一ヶ月前に40万の寄付? いきなりなに考えてんだ? それに、今月のあの野郎の魔物討伐数が7体だと? いつも軽く30くらいは狩ってくんのに……」


 ヘブンリーは不思議に思いながら、そう言えば、と一ヶ月前のことをうっすらと思い出した。


「待て。そういや一ヶ月前にあのババアが……ッ! おい! 誰かギルド長を呼んでこい! 大至急だ!」


 ヘブンリーはその場でエスカイルを追放した妙齢の女性、ギルド長を呼びつけた。

 他ギルド員が呼びつけたのか、ギルド長は一人、ギルドマスターのいる部屋へと赴いて来た。


「お呼びですか。ギルドマスター」

「ああ。要件は他でもない。エスカイルについてだ」


 ギルド長はピクリと眉をひくつかせる。

 その反応に目を細めたヘブンリーは嫌な予感を感じながらも、ギルド長に質問を投げ掛けた。


「どうやら、エスカイルの魔物討伐数がかなり減っているようなんだが……理由は分かるか?」

「分かるも何も……彼なら一ヶ月前にギルドを去りました」

「……は?」


 予想を越えた。否。予想の斜め上を行ったその回答に、ヘブンリーは一瞬硬直してしまう。


「どういう、ことだ? いや、理由はこの際どうでもいい。問題はその経緯だ。あいつが、自分から止めたんだよな? そうだよな!?」

「お、落ち着いて下さい。ギルドマスター。彼は殺人未遂と窃盗という犯罪を犯していました。それで、私が彼の登録を抹消したのです」

「……あいつが、殺人未遂に窃盗? 一応聞くが、それは騎士団が証明したのか?」

「いえ……それはしていませんが……」

「何故だ!?」


 ヘブンリーは机を叩き付ける。

 それにビクリと身体が跳ねるが、ギルド長は泣く泣く言葉を紡ぎ始める。


「そ、それは温情で……」

「温情だと……!? ……ふぅ。まあ、そうか。ならば、その殺人未遂を受けた連中と、窃盗の被害にあった奴を連れてこい。今すぐだ」


 ヘブンリーは呆れた様子でギルド長に指示を出した。ギルド長は納得がいかないのか、ヘブンリーに恐れながらも問いかけた。


「その……どうして、あんなのを気にかけるんですか? いつもいつも、魔石を提出せずに肉だけを提出するあの者を」

「簡単な話だ。あれを、国王陛下に監視するように依頼されているからだ」

「こ、国王!?」


 いきなり出てきた大物の名前に驚き聞き返してしまうギルド長。ヘブンリーは疲れているのか、目元を指でつまみ背もたれに寄りかかりながら口を開く。


「もし仮に、あいつが本当に犯罪を犯しているなら弁解のしようがある。まあ、犯罪者を野放しにしたってんでお前に罰はあるだろうがな。だが、これが嘘だった場合は話が別だ。善良な冒険者を犯罪者に仕立て上げ、不当に追放。俺は王家からの依頼が失敗扱い。ギルド長のお前は王家に嘘を付いたと監獄行き。冒険者ギルドの評判は地に落ちる」

「そ、そんな……何故あんな男にそんな待遇が…!」

「それだけ、魔剣持ちは貴重なんだ。もし、追放した直後に魔剣が覚醒していたらお前、どう責任取るつもりだ? いいから、さっさと被害者どもを連れてこい」


 ギルド長の顔は真っ青へと変貌する。

 だが、嘘がばれなきゃ良い話だと自分に言い聞かせ、ギルド長は震える足を動かし部屋を出て、被害者を探しに出た。


「はぁ……どんな罰が待ってんのかねぇ。ふらっと帰ってきてはくれねぇかなぁ」


 ヘブンリーは既に、罰を受ける覚悟は出来ていた。ギルド長の言葉が嘘であると、とうに見抜いていたのだ。

 ヘブンリーはエスカイルのことを嫌ってはいるが、それは王家からの依頼が理由である。普通に、訳なしで冒険者になったのであれば、淡々と魔物を狩ってくるむしろヘブンリーからすれば好きなタイプの冒険者である。別に、魔石の価値が高いだけで肉も普通に売れるのだ。そこにはほんの僅かしかなく、あってもそれはエスカイルは数でカバーしている。

 当然、人柄という面でも気に入っていた。やかましい騒音(罵詈雑言)を無視し、ヘブンリーが知っている限りでは人並みに弱者に手を差し伸べている。


 ヘブンリーは(きた)る罰に備えて今から目を瞑る。

 願わくば、少しでも罪が軽くなることを祈って。


次回からはエスカイルオンリーのお話になります。ショップソードのチートっぷりを是非お楽しみください。 


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。

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