002.愚剣士の覚醒
俺は一人冒険者ギルドを出た。
正直、生きる価値を見出だせない。これから、どうやって生きていこうか。
……死、か。
産まれて38年。いい加減、両親のもとに逝くのもいいかもしれないな。
そうと決まれば話しは早い。俺はその足で商業ギルドへと向かう。
商業ギルドとは冒険者ギルドと同じ民間の組織である。それぞれの王都や町には必ず一軒あり、その土地での商業の許可や、金を一時期保管しておいてくれる等の役割が主な組織である。
俺は元々、冒険者ギルドを大して信用してなかった。ギルドマスターは良い人だ。なんだかんだ言っても俺の身元を保証してくれたし、はじめの数年は色々と融通してくれた。だが、ギルド員や同僚はダメだ。難癖付けて買取価格を半分まで下げた時は酷かった。だが、俺はそれも仕方がないことだと思っている。冒険者ギルドにとって、俺は稼いでほしい物を持ってこないうざったい奴であるからだ。
俺は商業ギルドから俺の持つ全財産を引き下ろした。それを見る受付嬢の目はどこか心配そうな目であったが、どうせもう接点はない。俺は無視して金を受け取ってギルドから出た。
金を下ろしたはいいが、これを何に使おうか。正直、使いたいことがない。これといって趣味なんてものはないし、貢ぎたい相手も居ない。
……寄付でもするか。
「(……いや、あの人には渡したいな)」
俺は見習い騎士時代お世話になった先輩と、たまに通る孤児院などに匿名で寄付して周る。そうして等々、金がなくなった。
準備が出来たと言わんばかりに俺は王都を出た。
* * *
ザっザと森のなかを歩く。
王都を出てから一時間ほどが経った。
どうせなら死ぬ前に自身で作った両親と村人のみんなの墓参りをしようと村へと歩いていた。
「……またか。今日何体目だ」
俺の目の前に現れたのはCランクの魔物である血狼である。
魔物のランクは冒険者ランクと同じでEからAまでの五段階である。通常Cランクの魔物なんてものはそうそう現れる魔物ではなく、現れても1ヶ月に一体とそこら辺だ。なのに、今日だけ、それも俺の進む道だけで6体目だ。
俺は危なげもなく血狼の首を切った。
「何なんだ、一体……ん?」
血狼を倒した直後、頭の中に無機質な声が響き渡る。
『条件:魔石を五万個吸収する。を満たしました。
魔剣:ショップソードが覚醒します』
「は? ……うぉ!?」
無機質な声が響き渡った直後、俺の持つ魔剣が光輝くのであった。
* * *
エスカイルが冒険者ギルドを立ち去った後のギルド内。エスカイルがいた時では考えられないほどの賑わいを見せていた。
「ハハハッ! あの野郎の背中みたかよ! 無駄に年食ってるせいで哀愁がひでーっ!」
「ハハハッ。やめてよ! お腹痛い!」
証人として妙齢の後ろにて構えていた冒険者数名は、手に付けられた包帯をほどきながらゲラゲラと笑う。
エスカイルも察していた通り、これは妙齢の女性とエスカイルを良く思わない者たちの仕組んだ真っ赤な嘘であった。
それを見て眉を八の字にする者もいるが、何せ主犯の連中は冒険者ギルドでも無駄に権力を持つ連中。なにも口を挟まずに、手に持つ酒杯に口を付ける。
「……? おい、どこに行くんだ?」
特に酷く笑う男は妙齢の女性が足早と立ち去ろうとしている背中に声をかける。
「ギルドマスターに確認です。あれがああも簡単に認め立ち去るというのは不自然です」
「ぷっ。ハハッ。あんた、意外と小心者なんだな。あんなの、でっち上げに決まってんだろ」
「念のためです」
妙齢の女性は階段を上り、ギルドマスターの部屋へと入る。
ギルドマスターの部屋の椅子でぐったりと寝ているのはここ王都のギルドマスターのヘブンリー=オーマスその人であった。二メートルはあろう体格に、鋭い目付きは未だに現役を思わせる。そんなギルドマスターも既に50を越えている。
「なんだぁ? おれぁ、二週間連続出勤で疲れたんだ……手短に話せ」
「はい。エスカイルについてですが--」
「緊急か? でないなら、ソイツの名前を出すな。虫の居所が悪くなる」
「い、いえ。そうでは……失礼しました」
妙齢の女性はそそくさと部屋から出た。
既に50を越えている筈の男が出してはいけないような気迫であった。あれが、自分と年齢が近いと考えるとひどい違和感を覚える。
「(ただ、これであの男がはったりを言ったというのが分かりました。全く、いらない心配をさせて……去る時まで人に迷惑を掛けますか)」
妙齢の女性は自身の業務へと戻った。
この時、まさかエスカイルを追放したことであんなことが起こるとは、今はまだ、誰も知らない。
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