001.愚剣士の追放
俺--エスカイルは腰に付けた魔剣を揺らしながら街道を歩く。
俺が向かう先は冒険者ギルド。今日狩った角兎を買い取ってもらうためである。
今日狩った角兎は五体。全て解体は済ませている。何せ、俺は18年のベテランだからな。解体くらいはお手のものだ。
俺は冒険者ギルドの両開きの扉を開けた。色々な視線が俺に突き刺さるが、その主な視線はバカにしたような笑いや、侮蔑の意を込めた視線であり、好意的な視線はほとんどない。その少しの視線も、好意的というよりも、無関心に近いものである。
「(……なんだ?今日はいつもよりも視線が厳しいな)」
こういった視線をされるのは始めてではない。され過ぎたせいなのかこんな視線にも慣れてしまった。そんな自分に呆れつつ、俺は買い取りのカウンターへと歩く。
「買い取りをお願いします」
「不可能です」
ピシャリと言い放つ買い取り職員。
一瞬固まってしまうが、すぐに気を取り直して交渉を始める。
「……俺が嫌われているのは知っているが、流石にそれは横暴じゃないか?」
「感情論ではありません。犯罪者とお金の取引はしないということです」
「は?」
犯罪者? 俺に言ってるのか?
当然、そんなことに心当たりはない。俺は真っ当に生きているつもりだし、犯罪なんて犯した記憶はない。
「いやいや……何かの間違いだろ。なんで俺が今さら」
「往生際が悪いですよ。エスカイルさん」
そう言って俺の背後に立つのは、妙齢の女性。たまにカウンターの向こうで事務仕事をしているのを見かけた記憶はあるが、こうして面と向かって話したのは始めてである。
「既に、あなたが犯罪者であるという証拠は揃い、証人までいます。諦めてください」
「証人……って、テメェらかよ」
妙齢の女性の後ろに居たのは、いつも俺のことを蔑む筆頭の人物たちであった。そいつらはいつもは付けていない大袈裟な包帯やら何やらを付け、
「で? 俺にはどんな罪状が?」
「現在確認できているもので、殺人未遂と窃盗が挙げられています。申し開きは?」
「ありまくりだ。明らかにでっち上げだろ」
というか、分かってるだろ。
「そんな証拠はありません。しかし、殺人未遂と窃盗の証拠は揃っています」
「……正気か?」
「正気も正気です。今回は恩情として、騎士団には通報しておりません。立ち去るなら今のうちですよ」
「通報してない、ね」
つまり、騎士団に本格的に動かれると不味いということであろう。適当なことをでっち上げて俺を追放させるための嘘。証拠やらなんやらは杜撰なんだろう。
「おい。いい加減にしろよ。愚剣士」
「あ?」
後ろにいた証人(笑)が口を開く。
愚剣士というのは俺に付いたあだ名みたいなものだ。愚かな魔剣士という意味らしい。いつまで経っても魔剣が覚醒しないバカな剣士。それが俺の立ち位置である。
「こんなに証拠が揃ってんのに、よく駄々を捏ねられるな。これも、王城で培った無神経さから来てんのか?」
「よくもまぁベラベラと。先に駄々を捏ねたのはどっちだ? 俺が嫌いなのは勝手だが、冒険者なんだから少しは我慢しろよ。子供かよ」
証人はグッと歯噛みする。
証人が劣勢と感じたのか、話していた俺と証人の間に妙齢の女性が割り込んできた。
「つべこべ言わずに罪を認めなさい。もう既に、貴方の冒険者登録は既に抹消してあります」
「はぁ!? お前、マジか!?」
そこまでいけば職権濫用だろう。
俺はギルドマスターに身元を保証されている。まあ、ギルドマスターもいやいやだったが。それも、この魔剣のお陰だ。いや、責と言った方がいいのか?
「お前、それはギルドマスターも認知してるのか?」
「ギルマスが? ええ、まあ」
「……そうか」
ギルドマスターが俺の身元を保証する理由は、国からの依頼だからだ。過去、俺は王城にて剣の訓練をしていた。魔剣を覚醒させるためである。しかし、いつまで経っても魔剣は覚醒せず、所属していた騎士団を解任され冒険者となった。その際に、国王がギルドマスターに俺の身元の保証を約束させたのだ。
それが無効になったと言うことは、国が俺を見限ったということだろう。
「……そうかい。そういうことなら、しょうがないな。明日には王都から出よう」
「わ、分かればいいのです。速く立ち去りなさい」
俺は踵を返し冒険者ギルドから出た。
俺はこれから、どうやって生きていこうか。
青春は過ぎ去り、故郷は滅ぼされ、国からも見放された。一応、金はあるが……。
……もういっそ、死んでしまおうか?
今さらですが、プロットなんてものはありません。なるべく完結させるつもりで投稿しますが代表作ではないので優先順位は低いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ブックマーク登録や評価、感想をいただけるとモチベが爆上がりします。また、「ここおかしくない?」、「ストーリー矛盾してない?」ということがありましたら感想で指摘していただければ幸いです。