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ぽんぽこの道 ~歴史に自信をなくした者へ~  作者: ぷみわに
ぽんぽこの道 ~歴史に自信をなくした者へ~
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たぬきの武者修行 ~アニマルール大学(1)~

たぬきの武者修行も最後、外交部へ移ります。本作の中心は当然たぬきの物語を見ていくことですが、その次の重要な柱の一つとして里をまたいで作られたアニマルールとはどういうものなのか…本話はその始まりでもあります。クマの話でちょっと出ちゃいましたが…。

 里の掟やアニマルールを学びに出掛けたたぬき達は、世の中最高峰のアニマルール大学へ入学します。ここには世の中最高峰の法を学ぶために色々な里から学生が集まっていました。講義をするのはガゼル教授です。


「この大学のルールは簡単だ。講義に出席して、中間試験に合格したら単位をやる。その単位を全部集めて、最終試験に合格したら卒業だ。里に帰ってよい!つまり学年などない!上級生も下級生もない!さっさと卒業しない奴は落ちこぼれだ‼」


教授がニヤッとします。


「うかうかしていると、すぐに追い越されるぞぉ…さぁ、講義開始だ!」


完全実力主義の学問の戦いが始まりました。


「古来、我々の世は弱肉強食、それは今も変わりない!しかしそれではお互いに話し合うことが出来ないから、長い年月をかけて話し合いが出来るように決まりを作ってきた。それがアニマルールだ。」


たぬき達は必死に勉強します。鉢巻を絞め、汗を流しながらひたすら学び続けます。隣ではとらが鼻ちょうちんを浮かべて寝ており、きつねはキョトンと分からん顔をしています。ベアは足を組んで腕を頭の後ろに回して目を瞑っています。…オオカミは何だか不敵な笑みを浮かべながら、鉛筆を齧って削っています。あまりにも不敵なので、ガゼル教授の背筋がゾクッとします。


「ワシ…喰われるんじゃなかろうか…。」


 来る日も来る日もたぬき達は学び続け、ジャンジャン質問していきます。最初こそ教授も笑顔で答え、彼等の熱意に感心していました。しかし、質問があまりに高度になってくると焦ってきます。


「そんなこと…知らなくていいだろう…。」


とか、


「ワシも知らん…。」


となるので大変です。そんなたぬき達は、ある時は魂が抜けた様に学び、ある時は鬼の形相で学び、ある時はガタガタ震えて机の下で縮こまって学んでいます。ガゼル教授は何とまぁ、気分にムラのある奴等だと思ったり、講義が分からないのではないかと心配したりします。


でもたぬき達は中間試験もきちんと合格し、単位を取っていきます。決して成績が良い訳ではないのですが、落第もしない。そんな目立たないたぬき達ですが、出席だけは良いので周りから、


「ノート貸して!」

「ここ教えて!」


という話には笑顔で答えていきます。優し過ぎるというか、うまく使われているというか…。頭を搔きながら、教授は少し笑顔を浮かべて横目で見ています。


 ある時ガゼル教授はたぬき達に問います。


「君たちは非常に豊かな表情で授業を受けているが、それは講義に分からない所があったりするのかね?そういう時は遠慮なく質問してくれて良いのだよ?」


たぬき達は顔を見合わせます。女の子が答えます。


「いえ、教授の講義はとても分かりやすいですし、いつも質問に答えてもらっています。とても感謝しています…ただ…。」

「ただ?」


教授は安心半分、不思議半分です。


「アニマルールが分からないんです‼」

「ガーン!やっぱり分からないんかーい‼今のはお世辞だったんかーい!」


教授は頭が真っ白になって立ち尽くしています。


「いえ、そういう意味ではなく、アニマルールの規定はよく分かります。でも、その規定が出来た元になる出来事が…。」


たぬきの女の子が両手で目を押さえて泣き始めます。


「私、恐いんです。」


隣のたぬきが人目を憚らずに大泣きしながら言います。


「里の一番偉い方を処刑するなんて、御柱様に手を出すなんて出来ねーだよー。」


おいおい泣くたぬき達に当惑しながら教授は理解していきます。


「あぁ、なるほど、君達はとても優しいんだね。でも歴史が長いと、時に非常とも思えることも経験していくんだ。アニマルールは150世以上の悠久の時の流れを経た里が集まって、50世ほど前から出来上がってきたものなんだ。」


たぬき達をあやしながらガゼル教授は続けます。


「君達のような、若く純粋な里ではその様な事が起きないように、しっかりと学んでいくんだよ…ちなみに君達の里はどれくらい続いているんだい?」


教授は穏やかに目を瞑り、たぬき達をなだめながら語りかけました。


「詳しくは分からねーけど、200から260世くらいだよー。」


泣きながらたぬき達は答えます。


「そうかそうか、260世か…は?めっちゃ長いじゃないか。それだけ続いてこのくらいの事が起きていないのか。そんなハズあるか!」


教授はうろたえながらたぬき達を見ます。泣いているたぬき達のうるうるした目を見れば嘘とは思えません。教授は窓の外を眺めながら、ぼんやりと考えます。世の中の外れ、端の端でひっそりと生きてきた種族。そこに起きた奇跡を見ているのかもしれない。そう思うのです。

世の中の最大のルールは弱肉強食!結局そうなるのか!と思ってしまいます。しかし偶然にも世の中の外れにいたためか稀に見る特異な歴史を重ねてきたのがたぬきの里です。ガゼル教授の言う様に、他の種族から見ればそれは奇跡と言って良いのでしょうね。

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