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ぽんぽこの道 ~歴史に自信をなくした者へ~  作者: ぷみわに
ぽんぽこの道 ~歴史に自信をなくした者へ~
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たぬきの武者修行 ~造船部~

たぬきの武者修行は造船部に移ります。彼等が発揮する能力は器用さが元になっていますが、残念ながらたぬき固有の能力ではありません。現実世界でもたぬきにはこれといった長所がなく、ただ勤勉なだけで生きているそうです。働き者なんですね。

 造船技術を学びに来たたぬき達は、その大きな造船ドックを見上げ、突っ立っていました。


「はぁ~大きいなぁ~。」


往来のど真ん中で小さなたぬきが立ち止まっているので、すんごい邪魔!ゴリラに、


「止まっちゃダメ!」


と言われて、慌ててドックに入っていきます。やっぱり立ち止まって見上げているので、首が痛くなってしまいました。ドックには辿り着いたのですが、あまりに小さくて、誰にも気付いてもらえません。やっと気づいてもらえた時には、


「お前ら時間を守れ!」


と怒られてしまいました。シュンとなったたぬきを哀れに思った親方は、


「あぁ…悪かったな。あっちで準備をしてきな。できたら声を掛けてくれ…。」


とすまなさそうに話します。たぬきは嬉しくなってすぐに準備をして整列します。


「こいつら…無茶苦茶早いじゃん…。」

「宜しくお願いします!」


たぬき達は嬉しそうに深々と頭を下げて挨拶していました。


 造船は大変な仕事です。一にも二にも体力勝負!重くて大きな材木を組み止めていく訳ですから、小さなたぬきにとってはとっても大変です。材木を運ぶだけでもたぬきはフラフラになってしまいます。お昼の休憩時間になるとたぬきは寄り添うようにお互いにもたれかかって、肩で息をしています。たぬきチームの材木運搬量は他のグループの半分以下です。たぬき達もそれを見てひどく落ち込んでいます。様子を見ていた親方としては教えるも何も、体を大きくすることは出来ないので、何をさせればいいのか困ってしまいます。


「何を教えれば良いんだ?」


親方は仕方なく、たぬきに完成した船の底に防水用のゴムをコーティングする作業をやらせてみました。


「他にやらせることがない…。」


しばらく放置しておいて、戻ってきた親方はびっくりします。午前中には他のチームの半分以下しか仕事の出来なかったたぬき達が、他のチームより早く仕事を終えていたのです。


「このコーティングは…見事だ…。」


ゴムのコーティングは厚みが一定でムラがなく、そして薄く延ばされているので使用量も最低限で済んでいます。


「たぬきっていうのは…器用な奴等なんだな…。」


それもそのはず、たぬきにとっては土壁を塗る左官の仕事に似ていました。予想外に褒められたたぬき達は笑顔と自信を少しだけ取り戻します。そんなたぬき達はその日の仕事の終わりにおずおずと親方に相談します。


「あの…申し訳ありませんが…少しやり方をアレンジしても良いですか?迷惑は掛けませんので…。」

「あぁ…⁉」


親方は怪訝な顔でたぬき達を見下ろします。怒られると思ったたぬきはみんなで寄り集まってブルブル震えています。親方はにっこりして、


「いいぜ!思う様にやってみな!」


グッと右手の親指を立ててサインします。


「こいつら…何をしでかすのか楽しみだぜ!」


一人呟きながら、口笛を吹いて帰っていきます。


 翌日のたぬきチームの成績は他のチームと変わらないレベルまで上昇しました。周囲はびっくりしてたぬきチームを見に行きます。たぬき達は重い材木の運搬に車輪を使い、持ち上げる際にはテコや滑車を使っています。


「ほお…こんなやり方があるんだな…。」


周りのチームは感心しています。これもたぬきが家を建てる際に使っていた方法です。そう、器用な故に滑らかな車輪や滑車を作ることが出来たのです。


 親方は大層たぬきを気に入ります。小さいがよく働き、結果として周りと同じだけの仕事をこなしていく。そして器用であることを認めていました。


 普段は恐い顔をして歩いていた親方も、そんなたぬき達の仕事を見ていると思わず顔がほころんできて、色々な事を教えたくなってきます。たぬきもよく理解、吸収し、丁寧にお礼をするので、親方はますます楽しくなります。


また、たぬきは学んだことを惜しみなく周りのチームにも丁寧に伝えるので、周りのチームの仕事もはかどっていきます。チーム同士でいがみ合っていたこともありましたが、たぬきのお陰でチーム間の交流も活発になり、ドックは今までにない盛り上がりと結果を残していました。


 たぬきの武者修行は終了します。親方が言います。


「もぅ…お前らに教えることはなくなっちまった。代わりに教えられることの方が増えちまったくらいだ。免許皆伝だ‼」


たぬき一同整列して深々と頭を下げます。


「親方、大変お世話になり、ありがとうございました!」


 親方とたぬき、ドックの仲間は別れを惜しみながら、たぬきはたぬきの里への帰途に着きました。自分達が身に付けた技術がたぬきの里の未来を切り開いていくものだと信じ、自信を持って職務を全うする希望に満ちた目を、たぬき達はしていました。

造船部たぬき達も無事に武者修行を終えることが出来ました。力仕事を器用さで乗り越えたことが目立っていますが、もう一つだけ!地味に礼儀正しいことも気付いて頂けると良いかと思います。

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