たぬきの武者修行 ~軍部~
広く知識を求め、技術を磨くために世の中に飛び立った若きたぬき達の武者修行を見ていきます。まずは軍部、次に造船部、最後に外交部です。彼等の様子を見ていると、何となくたぬきの特徴が見えてきます。
世界に羽ばたいていった、たぬきを見て行きましょう。軍隊修行にでかけたたぬき達。
「お前達が今日から配属になったたぬき共か!」
ふっさふさのたてがみをこれでもかと風になびかせながら、世にも恐ろしいライオン教官がたぬき達に声をかけます。
「あ、はい!宜しくお願いします!」
深々と頭を下げるたぬき達の後頭部に教官はゲンコツを入れていきます。後頭部に大きなたんこぶを作ったたぬき達は、地面に突っ伏してノビています。
「たわけーっっ‼いついかなる時も戦場から目を離すようなことはするな‼死にたいのか!挨拶は敬礼だっ!」
たぬき達は毎日のように叩かれながらも鍛えられていきます。後頭部のたんこぶのせいでなかなか帽子がかぶれません。もともとたぬきにはベアの怪力やライオンの爪、オオカミの牙やワニの顎、フラミンゴのくちばしの様なズバ抜けた能力がありません。それだけに勤勉であるだけです。何をやらせても中くらいという成績です。
「パッとしない奴等だぜ…。」
教官はため息をついてヤレヤレと首を振っていました。しかしたぬき達には成績に示されなかったものがありました。里の将来を背負うという気概こそが彼等の最大の能力であり、持ち前の勤勉と合わさって不断の努力へと成長し、弱点のない総合力へと昇華していきます。そう、教官は気付いていきます。目立った強みもなければ目立った弱点もない。その結果、オールマイティとなっていきます。
「相変わらずパッとしない奴等なのにな…成績以上に優秀だな。」
教官は気付いていませんでした。オールマイティという能力の真の恐ろしさに…。
・持久走=中 短距離走=中 綱上り=中 水泳=中 障害物走=中 総合=中
相手が苦手とするフィールドでの戦闘であれば誰にも負けないという、その能力が開花するのはもう少し先の話。
ある日のこと、
「お前達たぬきの里の歌は短いことで有名なようだな。どれ、聞かせてくれよ。」
教官がたわむれにたぬき達に言います。教官の里の歌は非常に勇壮な歌として有名です。自慢げにその勇壮な歌を口ずさんでいます。
「野郎ども、今日こそあの暴君の旗を引き裂く時だ。奴らの残忍な雄たけびが聞こえるか!奴等は我らの子と妻を殺しに来る!爪を研ぎ、牙を磨け!行くぞ!行くぞ!奴らの血で暴君の城を染め上げるまで!」
「我々の里の歌よりも勇敢な歌であることはないだろうが、どの程度か採点してやろうか。」
そんな事を考えていました。
「いいですよ!」
たぬき達は合唱を始めました。
「たぬきの里は いつまでも とこしえに 木の実が 芽吹いて 大樹となりて たわわに 木の実を結ぶまで」
教官は驚きました。短い以上にその歌は、想像と全く異なる歌でした。
「これは…勇敢とは程遠い歌だな。ただただ、自分達の繁栄を祈る…なんと…なんと…優しき歌だ…。」
いつもふっさふさに風に逆らう様になびいていたたてがみが、優しく風と遊ぶようにそよいでいる教官の顔には、うっすらと笑みが浮かんでいます。目を細めて遠くを見ていた教官が言います。
「ありがとよ。良い歌を聞かせてもらった…。」
いつも恐ろしい教官が清々しい顔で去っていきます。たぬき達は不思議そうに顔を見合わせていました。
軍部のたぬき達はライオン教官のしごきに耐え抜きます。成績はパッとしないのですが、赤点でもない訳です。そんなたぬきの歌は非常に穏やかな一面を見せてくれています。似たような歌をどこかで聞いたことがあるかもしれませんね。