武者修行前夜 ~送別会~
たぬきの里の子供達は世の中の各地へ武者修行の旅に出ます。世の中で通用する知識や技術を学び、たぬきの里が生き残れるように…。そんな若きたぬき達の明るく楽しい送別会です。送別会で何かを宣言するようですよ!
武者修行の出発前夜、たぬき達は送別会で仲間達との別れを惜しみます。未成年なのでミカンジュースやリンゴジュースを飲みながら話し込んでいました。小さなたぬきの女の子は色々な所でジュースを注ぎながら和気あいあいとみんなで楽しくおしゃべりしています。小さいのでどこにいるか探すのが大変なのですが、一番賑やかで楽しそうな声のする方を向いて、一番たぬきが集まっているその中心にいることは分かります。周りのたぬきが彼女の輪郭になっているかのように、大きく見えます。でもやっぱり彼女の姿はみんなに隠れて見えませんが…。
体の大きなたぬきはどっしりと座って貫禄たっぷりにグビグビと豪快にりんごジュースを飲んでいます。対して向かいの一回り小さいたぬきはしみじみと、チビチビとみかんジュースを飲んでいます。言葉を交わす訳でもない、とはいえ仲が悪い訳でもない、何だか落ち着いた雰囲気のこの二匹のたぬきの席で、たぬきの女の子が言います。
「いよいよ明日からだねー。しばらくたぬきの里を離れるかと思うと、寂しいなぁ~。」
後ろにいる男の子は大泣きしています。軍部(候補)のたぬきが豪快にりんごジュースを飲み干しながら答えます。
「いつ帰って来れるか分からないけど、帰って来れない訳じゃないし、帰ってお役に立たなきゃいけない。まぁ、そのなんだ、また会えるさ!」
しみじみとみかんジュースを飲んでいた造船部(候補)のたぬきが続きます。
「次に会う時にはみんなどうなってるのかなぁ?何だか楽しみだなぁ。」
「ねぇねぇ!」
たぬきの女の子がはしゃいでいます。
「次に会う時までにこうします!って決意表明しようよ!」
「へぇ…面白そうじゃん。」
軍部(候補)たぬきと造船部(候補)たぬきは互いにチラッと目を合わせると、闘志を滲ませながらゆらりと立ち上がり、話に乗ってきます。
「では、まずは私、軍部から大宣言です!」
軍部(候補)たぬきは一番乗りと言わんばかりに、胸を張って宣言します。
「我等軍部はたぬきの里の英雄である忠臣〝楠木タヌ成公〟の再来と謳われるような武士となります!」
ビシッと敬礼して微動だにしません。その気迫たるや周囲を圧倒します。
「おおぉぉ…。」
周りのたぬきからザワザワとどよめきが漂い、自然と拍手が湧き上がります。
「頑張ってね!」
「楠木二号見参!」
軍部(候補)たぬきは少し照れながら頭を下げて返事し、席に着きました。
「次は私!」
ぴょんと小さなたぬきの女の子が立ち上がって宣言します。
「我々外交部はアニマルール大学を首席で卒業して帰って参ります!」
どんと小さな胸を大きく張って大宣言です。
「主席!主席!主席‼…。」
周囲からコールが起こります。たぬきの女の子は笑顔で両手を上げて、コールに答えて席に着きます。どんと大きく打ち上げられた宣言の最後は造船部(候補)が締め括ります。すくっと立ち上がり、しばし沈黙してから話し始めます。周囲のたぬきもゴクリと唾を飲んで見守ります。
「我ら造船部は…世の中最強のバトルシップを建造します‼」
「うおぉぉぉ~‼」
会場の盛り上がりは最高潮に達し、全員総立ちで拍手喝采です。
「最強!最強!最強‼」
「楠木!楠木!楠木‼」
「主席!主席!主席‼」
若いエネルギーは会場に溢れんばかりに湧き上がり、みんなもみくちゃになって盛り上がり、それぞれにとって忘れられない送別会となりました。送別会を主催したたぬきや御馳走を準備した食堂のたぬきも、未来を託された明るく真っ直ぐな若きたぬき達を誇らしく思い、目にはうっすら涙を浮かべながら優しく、笑顔で見守っていました。
迫り来る荒波を越えていこうとする若きたぬき達の明るさは眩しく見えます。僕等にもこんな時があった…かな(笑)。ちらっと見えた楠木タヌ成公の話はかなーり後に出てきますよ。そこには…おっとネタバレしちゃいけない。