たぬきの里の創造
たぬきの里がどのようにして創造されたのか?神話の時代を見てみましょう。そこにはたぬきの考え方の根源となる事実がたくさん詰まっています。そして悠久の時を超えてつながっていきます。…一話と二話を続けて読むと、そのつながりに小ネタが見えますよ。
「呼んだ?モグ…。」
あんこを付けたほっぺを膨らませ、小柄な女の子が笑顔で振り返って言います。
「いや、呼んでいないけど、姉さんが呼んだんでしょ?あと、ほっぺにあんこ付いているよ。」
イザタヌキの尊がクニトコタヌの尊に言います。
「あらヤダ、おまんじゅう食べていたのがバレちゃった!」
「あんこが付いていなくても、そのほっぺを見れば分かるよ。」
クニトコタヌの尊のふくらんだほっぺを指さしながら、イザタヌキが半ばあきれ気味に言います。
「お姉様、おまんじゅう大好きですもんね。」
イザタヌキの後ろにいたイザタヌミの尊がぴょんと飛び出して言います。
「エヘヘ、おまんじゅう大好き…じゃなかった。そうそう、貴方達にお願いがあるの!」
イザタヌキとイザタヌミは思わず顔を見合わせ、ちょっと顔を赤らめます。
「また始まった…。」
クニトコタヌが溜め息交じりに二人を見ています。
「お取込み中悪いんだけど、ちょっとあそこを見て欲しいの!」
「あ!」
ハッと我に返ったイザタヌキとイザタヌミは、最高神クニトコタヌの尊の指差す方向を見ます。神々の住まうタヌキの原から見下ろすこと遥か彼方、光も届かないその先に、何かの気配を感じます。
「あれは…何でしょうね?」
イザタヌキが手をかざし、目を細めて見ています。
「分からない!分からないケド、良い気が集まっている気がするの!」
クニトコタヌは嬉しそうにピョンピョン跳ねながら言います。
「あんな世の中の外れに…悪い気だったりしないでしょうか?」
イザタヌミがおずおずと口を手で覆いながら言います。
「姉さんはどうしてあれが良い気だと思うの?」
イザタヌキがクニトコタヌをちらりと見ながら聞きます。クニトコタヌは笑顔で自信満々に言います。
「勘よ!で、あそこに里を作ってみて欲しいの!この矛を貸すから、貴方達で行ってきて!じゃ、ヨロシク!」
クニトコタヌの満面の笑顔で送り出されたイザタヌキとイザタヌミは矛を持ってうなだれながら出発します。
「…あんな遠い所…。」
二神の旅は特にドキドキするイベントもなく進んでいきます。でも誰もいない所で二神だけなので、どんどん仲良くなっていきました。そして目的地の天上にある天橋立てに辿り着きました。
「ここだね。」
「ここよね。」
二神は矛を持って大海原を探ってみると、矛の先から滴り落ちた潮が固まって、島が出来ました。
「初めての共同作業で島が出来ちゃったね。」
「私達の島ですから、降りてみましょう。」
手をつないで降りた二神は、そのまま夫婦となって里造りを始めます。二神は火を囲み、祝詞を唱えながら自身の胆力と外の気を混ぜて練り上げていきます。そして木の葉を頭に乗せてポン!里となる大地や海、山や川を産み出しました。二神とも肩で息をしています。遠くタヌキの原のクニトコタヌの声が聞こえます。
「…もっと…。」
ヘタレ込んでいた二神はヨロヨロと立ち上がり、もう一度祝詞を唱え、自身の胆力と外の気を混ぜて練り上げていきます。震える手で木の葉を頭に乗せてポポン!風や草木、動物の神々を産み出しました。二神は倒れ込んで荒い息をしています。クニトコタヌの声が聞こえます。
「…もうちょっと…。」
「まだですかぁ?」
二神はヘロヘロになってお互いを支え合いながら立ち上がり、二人で協力しながら祝詞を唱え、お互いの胆力と外の気を混ぜ合わせて練り上げます。風の神が運んできた木の葉が二神の頭の上に乗り、ポポポン!たぬきの神々が生まれました。長女はアマテラスオオミタヌ、次女はツクヨタヌの尊、長男はスタヌヲの尊でした。イザタヌキとイザタヌミは手をつないで倒れています。二神の体は淡く光り、少しずつ薄く透け、光の粒子となって天に上っていきます。
「あなた…。」
「おまえ…。」
二神は大地を去りました。そして…クニトコタヌの前に戻ってきました。
「お帰り!」
満面の笑顔でクニトコタヌがイザタヌキ、イザタヌミを迎えます。
「…もう、姉さんのせいで胆力を使い果たしちゃったから、地上に留まることが出来なかったよ!」
「えへへ、ごめんね。でも、お陰でとっても良い里が出来そうよ!ほら、あんなに美しいもの!」
イザタヌキとイザタヌミは顔を合わせ、少し頬を赤らめると照れながら手をつなぎ、仲良く子供達をいつまでも見守っていました。
地上に産み出されたたぬきの神々は、それぞれの使命を自覚します。アマテラスオオミタヌは日を治めるため、ツクヨタヌの尊は月を治めるために天に上ります。スタヌヲの尊は地上に残り、里造りを受け継ぎます。
たぬきの里はイザタヌキ神とイザタヌミ神が産み出しました。その子孫がたぬきの里に住んでいますので、たぬき達は神々の子孫です。神の子が亡くなると神になる。里の為に亡くなった者はぽんぽこ神社に集い、功績の大きかった者には神社が創建され祀られる。そんなたぬきの考え方の根源はここにあります。