たぬき維新
やっと、やっとたぬきの里に入ります。しかし見てきたように、たぬきの里を取り巻く他の里の事情を考えると…たぬきの里はとらの里のついでに狙われますよね。たぬきの里はそんな大ピンチの中で始まります。
世の中の東の果て、海に浮かぶ小さな島国にたぬきの里がありました。あまりにも世の中の果てにあったので、世の中から注目されることもなく、ひっそりと過ごしていました。その中心にある御殿に代々たぬきを支えてきた御柱様が住んでいました。
その御殿にたぬきの重鎮が集まり、三日三晩の御柱会議が繰り広げられていました。最初こそ話し合いでしたが、そのうちに怒鳴り合いになり、取っ組み合いになり、食事の皿が飛び交う始末。
その様子を黙って見ていた御柱様は、ひとつため息をつくと、大きく息を吸い込み、開けた大きな口と目から目もくらむ御光を発し、会議場全体を照らします。
「まっぶしぃ!」
その場にいた全てのたぬきが目を覆い、動きを止めて恐る恐る御柱様を見ます。御柱様はニコッと笑顔で言います。
「私が責任を持って治めましょう。」
ここからたぬきの維新が始まります。
決して豊かではありませんでしたが穏やかなたぬきの里に、ある日突然クマの一行が船に乗ってこの里に現れたのです。クマ達の要求は、船旅で不足した食料の補給をさせること、その取引は自由であること。そしてクマはクマのルールで守られ、たぬきのルールは受け入れないことでした。突然の来訪者にいきなりの要求を突き付けられ、たぬき達は大慌てでどうするかを話し合いますが、答えは出ず紛糾します。色々な意見が飛び交いますがまとまらず、結局たぬき達はクマに言われるがまま、要求に従うことになりました。
「はい、教本にはこのように書かれていますが、半分以上ウソです‼」
「エーッッ‼」
たぬきの生徒達は総立ちで白目になって口をポカンと開けて動かなくなってしまいました。
教壇に立つ女教師はニコニコと笑顔で話し続けます。
「確かにたぬきは世の中の端っこで目立たずに、静かに平和に暮らしていましたが、決して外界に無関心だった訳ではないのです。」
徐々に意識を取り戻したたぬきの生徒達が、一人また一人と着席していきます。
「世の中最強を誇るベアの里は羊の里を征服し、とらの里と戦争してとらの里の一部を占領します。オオカミの里は極寒の地を東に渡り、海まで来ると南下してとらの里の北部を手に入れます。」
たぬきの生徒達の頭上に暗雲が垂れ込めていきます。地図を見ていると、どんどんたぬきの里へ迫ってきていることが分かります。女教師は話を進めます。
「そして、東からは大陸を征服し尽くしたクマが船に乗って小島を征服しながら海を渡ってきます。」
たぬきの生徒達の顔は恐怖に包まれ、暗雲の下でお互い抱き合ってガタガタと震えています。地図では三方からたぬきの里が挟まれつつあります。
「これらの世の中の情勢を把握していたたぬき達は、いかに生き残るべきかを論議します。ベアの里とオオカミの里はいがみ合っている。どちらかと仲良くすると、その反対と戦争することになるでしょう。そうすると、どちらにも付かず、でも孤立しない方法として、ベアの里やオオカミの里程は強くない、クマの里と手を結ぶ道を選んだのです。」
やっと教本にある話に戻ってきて、たぬきの生徒達は少し安心して落ち着きを取り戻します。
「結果としてたぬきの里はどこにも征服されずに済みましたが、いつまでこの状況が保てるかも分かりません。」
女教師はひと呼吸おいて生徒達を優しく見渡します。
「そこでたぬきが生き残るためには強く、豊かになるしかない。そしてゆくゆくは周りの小さな里と協力して、みんなで里を守っていくしかないという結論に至ります。そう、広い世の中に出かけ、広く知識を、技術を学ぶことにしました。貴方達がその任を背負い、世に羽ばたくのです。」
両目に涙を溜めて女教師は言います。
「行きなさい、わが愛する子らよ。たぬきの未来は貴方達が作るのです。」
静まり返った教室の中で生徒は無言でうなずき、それぞれの心の内に覚悟を決めて世の中へと羽ばたいていくのでした。
たぬきの里の置かれている状況は大ピンチ!その中で生き残るために子供達に未来を託して世の中で学ばせます。残った大人達は子供達が立派に育つまでたぬきの里を守らなければなりません。大人も子供も生き残りをかけて必死ですね。