マタタビ戦争
世の中最強のベアの里は植民地を広げ、最後に残ったとらの里を狙います。その方法には驚かされるばかりですが、それでも正当化してしまうのがベアの里の強さであり恐ろしい所なのでしょう。
夜も深くなった森の中で、焚火を囲んだいくつもの影があります。その中にひと際大きな影があります。時々、パチッと弾ける火の粉が周囲を一瞬だけ照らします。とらが集まっていました。大きな影は年取った老とらでした。焚火を囲んだ彼等は何かを待っているようですが、何か変です。落ち着きなくソワソワしている者、冷汗をかいている者、焦点も合わずに遠くをぼんやりと眺めている者。老とらの目もトロンとして眠そうです。ほどなくして荷物を持った商人のベアが現れました。
「やぁ、お集りの皆様、今日は格別の品を用意しましたよ!」
ベアは不敵な笑みを浮かべながら続けます。
「でもその前に、確認だけしますよ。」
ベアは手を合わせてスリスリしています。とら達はゆっくりとした動きで懐から金を取り出して前に置きます。持ってきた金には全く興味のない様子は見ていて異様な雰囲気です。
「はい、確かに!では取引しましょう。」
ベアは荷物を開けます。中にはたくさんの植物が入っています。それを見たとら達の様子が一変します。落ち着きをなくし、涎を垂らしながら少しずつ植物に近付いていきます。
「落ち着いて下さい、マタタビはたくさんあります。皆さんの分は十分ありますから、その金を渡して下さい。」
とらは我先にと金をベアに渡し、マタタビを受け取るやかぶり付きます。老とらは動きは早くないですが、大きな金で大量のマタタビと交換して、ゆっくりとマタタビをむさぼっていきます。後ろの茂みから一部始終を見ていたとらが飛び出して、ベアに襲い掛かります。
「キサマー‼」
不意を突かれて地面に押さえ付けられたベアは抵抗します。
「何しやがるんだ!」
とらは目に涙を浮かべて叫びます。
「お前がしていることは麻薬の密売じゃないか‼よくも同志を薬漬けにしてくれたな!お前なんか!お前なんか‼」
押さえ付けられているベアは不敵な笑みを浮かべています。
「殺すとでも言うのか?残念だったな!」
言い終わるや否や茂みから大きなベアが飛び出して、ベアの商人を押さえ付けていたとらを逆に押さえ込みます。彼に続くようにたくさんのベアが茂みからのそのそと出てきて、マタタビをむさぼっているとらを全て捕まえていきます。とらは叫びます。
「こんな、こんな恥知らずな戦いがあるか‼」
ベアの頭領がゆっくりと振り返って言います。
「我が里の商人の利益が侵されたから制裁を加えるだけだ。」
そう言うととらに一撃を加えて黙らせます。これ以降、とらの里はベアの里に逆らえなくなっていきました。
その様子をこっそりと見ていた者がいました。
「まさか、とらの里が理不尽に、こうまで一方的にやられるとは…次は間違いなく我々の番だ…。」
その影は見つからないようにこっそりとその場を去っていきました。
麻薬で他の里をおとしめる…ことが許されたことになります。これもクマと同様にアニマルールを適応しないというアニマルールを適用したと言えるでしょうか。領土拡大、植民地獲得は綺麗ごとでは済まないようです。