オオカミの里
クマの里に代わって今度はオオカミの里です。残忍で冷酷な印象を受けますが、おおむねそんな感じです。しかし他の里に追いやられて寒い地方に閉じ込められた彼等の思いは分からないでもありません。彼等もまた、温かい土地を求めて領土拡大を狙っているのです。
目を覚ますと吹雪だった。少し眠っていたようだ。見渡す限り広がる雪原には、わずかに背の低い木が生えている。もうどれだけ歩いてきたのだろう…。あぁ、疲れた、体の芯まで冷え切っている。
私が育った地はもう少しだけ暖かい所だったが、雪や氷で覆われた地だった。西や南には更に暖かい大地が広がっていたが、フラミンゴやワニが住んでいて、我々オオカミの入る余地はなかった。彼等は我々オオカミを田舎者とさげずみ、相手にはしてくれなかった。仕方なく我々は新たな地を目指して極寒と言われる東へ進むことになった。遠征の同志と共に旅立ってどれ程の時が経っただろうか。ある者は過酷な遠征に屈し、途中の地で永住を決めた。
「俺達はもうここで旅を終わりにするよ。嫁さんも身重になってしまったからな。それに 疲れてしまったよ。悪いな…。」
ある者達は暖かい地を求めて南に向かい、高い山脈を越えた先でゾウの里に迷い込み、そのまま奴隷のように扱われてしまったと聞く。
「ギャー‼なんだアイツら!滅茶苦茶強いぞー‼」
オオカミ達はゾウに散々に痛めつけられ、蹴散らされ、ゾウに降伏します。
「すいません…許してください…。」
そしてオオカミはゾウに貢物を納め続けることになり、後に『たたりの鎖』と言われます。
あの山脈を越えて南に向かうことは出来ない。我々はただ東に向かって、あるかどうかも分からない暖かな地を目指しているのか…。遠征の同志も半分以下になってしまった。それでも我々は後には退けない。後に退いた所で故郷に居場所などないのだ。途中でリスやシカの集落はあったが、食料を奪ってバラバラにした後のことは知らない。我々とてギリギリで歩を進めているのだ。しかし、我々が歩を進めたからこそ新たな地が開拓され、多少なりとも故郷が豊かになっているのだ。
残念ながら実り多い楽園と呼べるだけの地にはまだ辿り着いていないのだが。一体、いつまでこの旅を続ければ良いのか。皆を鼓舞し続けてきたが、私を鼓舞してくれる者はほとんどいないのだ…。そう、自ら疑心暗鬼になりながら歩き続けた結果…海に出た。広大な海だ。水平線のかなたまで島も見えない。もう歩く先すらなくなった。頭が真っ白になった。心の底から失神しそうだ。
「あー、隊長…この旅、終わりですかね?」
無神経な副隊長が嬉しそうに言う。何も得ずして帰れる訳ないだろう!むしろ帰る所もない。これじゃぁ最果ての地に住み着いて、ド田舎満喫じゃないか。内心オロオロしていることはもう隠せない。ある隊員がおずおずと進み出て言う。
「あの…南に向かうのはどうでしょう?」
「南には行けないだろう!ゾウの里の二の舞になってしまうぞ。あの山脈は越えてはいけないんだ。」
「その…山脈は終わっていまして…。」
目線を逸らし、もじもじしながら気まずそうに隊員が答える。
「…⁉」
振り返って気付いた。確かにあのそびえ立っていた山脈はもう見当たらなくなっていた。
「いつからだ!」
思わず大声が出る。本当に気付いていなかったのかと、隊員はびっくりしながら言う。
「えぇっと…いつからでしょうかね…結構前から…。」
(なんでもっと早く言ってくれなかったの!)
と言いたいのをこらえて、しばらく考えた。東にはもう進めない。山脈はもうない。ならば南に下ってみるのは悪くないかもしれない。そう、オオカミ達の行く先は東の果てから南に下りていくことになった。
極寒の地を渡り切ったオオカミはその行き先を南へと変えます。その先にはとらの里やたぬきの里があります。暖かい地を求めて来たオオカミがとらの里やたぬきの里を狙わない訳がありませんね。そんなオオカミの事情を理解しておきましょう。