タイガーの里
とらの里はここからしばらく大混乱の時代が続きます。政府の乱立、内乱やら革命やらでゴチャゴチャです。自分達の領土が狙われているというのに内部の権力争いが絶えないのはとらの里の特徴でもあります。そんなゴチャゴチャを感じて頂きましょう。
とらの里で革命が起きます。とらの領地を周囲の里に奪い取られ、散々な目にあっているのは帝のせいだ!という訳です。とらの里では勝手に選挙が行われ、勝手に臨時大統領が決まります。臨時大統領は勝手に‟タイガーの里„の誕生を宣言します。当然とらの里の帝は怒り、とらの軍部を差し向けます。
「やっぱり…軍部来ちゃうよな…ちょっとやり過ぎたかな…ヤバイよ!こっちには軍なんてないんだから‼どうしよう…。」
とらの地は広く、とらの頭、胸、腹、背、尾の地といった、地域別の仲間意識があります。帝はどちらかというと田舎のとらの頭の地の出身で、臨時大統領は都会のとらの胸の出身です。なんとなく、仲良くないのです。
「軍部がコワい…だから…。」
臨時大統領は思い付きます。
「軍部がコワくて帝がコワくないのなら…。」
臨時大統領は軍部の大将に密書を送ります。『帝を退位させてくれたら、大統領の位を譲る。』
「軍部の大将までだと思っていたら、思わぬ風が吹くものだ…フッフッフ…。」
軍部の大将は帝の名をそのままにし、城に住み続ける権利とお金を支給する約束をして、帝を退位させます。
「これで俺が大統領だな。」
軍部の大将はタイガーの里の大統領となりました。しかし、とらの胸の地は大統領に従いますが、他の地域はなかなか従いません。それぞれの地域で頭領が乱立し、まさに戦国時代の様相です。
とらは元々アニマルールを守る気がなく、更に戦国時代となると、とらの地にいるたぬきやきつね、ベアやフラミンゴなどの里の者が強盗されようが放火されようが、とらの里は彼等を守ってくれません。とらの頭の地でトロッコ経営しているたぬきにとっても大問題でした。
「困ったねぇ…どうしてこうなっちゃうんだろう?」
たぬきの外交部は頭を抱えています。
「そりゃ、タイガーの里がアニマルールを守らないからでしょう?『他の里の住民は保護しないといけない』んだもの。」
「そぅなんだけど…。」
何とも言えない重い空気が漂います。上司が言います。
「まぁまぁ、今回は大戦争で占領した、とらの里にあるワニの借用地の件があるから、そこに混ぜてみましょう。」
ということで約束を草案します。
第一号 ワニの里が借用していたとらの腹の地の利権をたぬきが引き続き継承する。
第二号 とらの頭のトロッコとその周辺の地の借用期限を延長する。
第三号 とら製造会社の経営にたぬきも参加する。
第四号 とらの地に他の里を介入させない。
第五号 とらの地の治安向上のため、地方の警察をとらとたぬき合同とするか、またはとら警察に多数のたぬきを雇用する(注釈 これまではとらとたぬき間で警察事故が発生することが多く、不快な論争を醸したことも少なくなかったため)
出来上がった草案を見て、たぬき外交部は絶句します。
「…これ、おかしくない…?」
「そうだよね、作っていてそう思った。」
たぬき外相が総括します。
「第一号は大戦争勝利の戦利品として良い。第二号はいずれしなければならないこと。第三号は生産強化には良い手でしょう。第四号は他の里からとらの里を守るために有効でしょう。第五号は…。」
たぬきの男の子が言います。
「内政干渉と言われても文句は言えないでしょうね。言い訳がましく注釈まで付いて、妙に長くなっていますね。」
「ウッ‼」
外交部たぬき全員が痛い所を突かれて悶絶します。
「とらの里の現実を知っているベアの里やフラミンゴの里は分かってくれると思うけど…。」
たぬきの脳裏に不安がよぎります。
「あの里の大統領がなぁ…。」
たぬきの外相はタイガーの里の大統領に約束を持ちかけます。
「たぬきの里の要求と希望はこのようになります…。」
タイガーの大統領は考え込みます。
「第五号は認められない。第五号を外してもらえれば、約束出来る。ただし条件がある。こちらとしては仕方がなく了承したとしたいので、最後通牒として頂きたい。」
「分かりました。」
たぬきの外相は了承しました。それが罠とも気付かずに。たぬき外相はタイガーの里の希望通りに第五号を外し、最後通牒としてタイガーの里へ伝えました。
翌日、タイガーの里から世の中にニュースが駆け巡ります。
「たぬきの里が、大戦争の最中にこんな酷い内容を、しかも最後通牒として突き付けてきた‼」
と。バッチリ第五号も入っていました。たぬきは唖然とします。
「やられた…。」
たぬきはもともと正直であることを美徳としていました。そして自らをアピールすることを恥としていました。嘘を嫌い、例え自分にとって都合の悪いことも正直に話すからこそ、その正直に免じて許す。自分よりも他人を優先し、輪を尊ぶから自分をアピールして和を乱すことはしない。
しかしとらは違います。自分のためなら、嘘をついても騙しても、裏切っても構わない。自分の都合の悪いことは黙秘権といって話さない。一度認めようものなら二度と許されない。自らをアピールしなければ周りに埋もれて自分のためにならない。自分のために周りを蹴落とすのは当たり前。
たぬきととらが仲良くなれるはずがありません。そして世の中はとらよりなのです。たぬきが苦手とするアピールを、どんなにたぬきが訴えても、体も声も大きく、アピールを得意としているとらの前に搔き消されてしまいます。ベアの里、フラミンゴの里はタイガーの里の実態を知っていましたので、この約束を黙認してくれました。しかし、たぬきが懸念していたあの大統領から連絡が入ります。
「ハッハッハ、私が来たからには大丈夫、私は正義だからね!でもたぬきさんよ、これはダメだよ。第四号、他の里を介入させない、は我等クマの里がタイガーの里に入れなくなるからダメだけど、それ以上に第五号は正義が認めないよ!注釈?ハッハッハ、知らないよ!」
こうなっては打つ手がありません。たぬきは悪者の扱いを受けながら、第五号を外した約束をタイガーの里と結びました。
もうゴチャゴチャで頭を抱えます。そのゴチャゴチャの中できちんとやろうとするとうまくいかないのは世の常でしょうか。そしてやり方があくどい!自分の里の利益になるのなら何でもするのはとらの里に限った話ではない事に気付きたいものです。