きつね合邦
とらとの戦争できつねの里の独立を勝ち取ったのも束の間、あっさりとオオカミに売り渡したきつねの里を巡って会議が開かれます。その内容は、相当に衝撃的です。ではこっそりのぞいてみましょう。
オオカミとの戦争に勝利した興奮冷めやらぬ中、御柱会議が開かれます。どこか上機嫌な首相が足取りも軽やかに、ちょっとステップを踏みながら論壇に向かいます。
「先のオオカミの里との戦いは、本当に御苦労様でした。皆のお陰で大勝利を収めることが出来ました。」
会場は総立ちで拍手に包まれます。首相も満面の笑みで会場を見渡します。
「先人は我々に大切な言葉を残しています。‟勝って兜の緒を締めよ„と。」
たぬきの顔がキュッと引き締まります。
「しかし、やはり口元は緩んでしまう訳で…。」
会場のたぬきも口元を緩めて笑顔です。首相は続けます。
「オオカミの里からの復讐戦はあるかもしれませんので、警戒を続けています。そして同時にオオカミの里、フラミンゴの里、ベアの里、たぬきの里の間で貿易の約束を結びました。
事実上の同盟関係ですから、すぐに戦争になることはないでしょう。」
たぬき達から安堵のため息が漏れます。
「まず戦争で火の車になったたぬきの里の財政を立て直す必要があります。そのために戦争で獲得した、とらの頭の地のトロッコ経営を本格化させようと思います!」
たぬき達は笑顔で拍手です。少し間を置いて、首相がトーンを下げて話を続けます。
「その足掛かりとしてのきつねの里が今回の議題です。」
急に会場の空気がどんよりとして、シーンと静まり返ります。予想通りの反応に、首相も小声で早口に言います。
「外交部の分析結果です。」
外交部の男の子が足早に論壇に登壇し、深々と一礼するとキリっとしてから話を始めます。
「御存知の通り、きつねの里はたぬきの里の安寧において最も重要な地です。この地の安全なくして、たぬきの里の安全はかないません。」
たぬきは皆うんうんとうなずいて聞いています。
「しかしきつねの里は他の里の介入を排除して独立を維持するどころか、とらやオオカミを自ら招き入れる愚を繰り返してきました。これはもう、きつねの性とした言いようがありません。」
会場からため息が漏れます。
「きつねの里は今はたぬきの保護里となっています。たぬきとしては、植民地とすべく併合するか、現状を維持して将来の独立に期待するかとなります。」
会場のたぬきは悩ましい判断に頭を抱えます。
「きつねの里はトロッコのあるとらの頭の地とたぬきの里の間の通り道になります。安全のためには併合を考えますが、問題があります。」
外交部のたぬきは会場を見渡します。会場のたぬきの頭には?が浮かんでいます。
「植民地とは、搾取する土地ですが、きつねの里には搾取するものがありません!」
「はぁ?」
「たぬき維新前後ならまだしも、我等たぬきが努力を重ねていたあの頃に、きつねの里は何も出来なかった訳ですから。今、きつねの里を併合して植民地とすると、たぬきの里の財政が破綻するかもしれません。」
会場のたぬきは目を見開き、口をポカンと開けて唖然としています。ガーン!何てことだ。植民地として利益がないばかりか、これからあのきつねと付き合っていかなければならないと思うと先が思いやられます。
「繰り返しますが、きつねの里はたぬきの里の安全のためには極めて重要な地です。」
この後の会議はばっちり紛糾し、大混乱です。
「きつねの里を滅ぼしたらどうだ!」
「そんなことはベアの里くらいしかしたことはない!確実に全ての里を敵に回すぞ‼」
とか、
「きつねを全て移動させる!」
「どこにだ!たぬきの里にか?」
「…。」
会議の成り行きを見守っていた御柱様が遂に口を開きます。
「皆の気持ちは痛いほどによく分かります。その上で、たぬきとしての道を進みましょう。併合ではなく、合邦しましょう。これできつねも同胞です。きつねの里に投資し、産業を興し、たぬきと同等の権利と義務を与えましょう。」
よもの海 みなはらからと 思う世に など波風の 立ち騒ぐらむ
(世の里は みな同胞と 思うのに なにかと問題が 起きてしまうものなのか)
御柱様の御意向に従い、たぬき達はきつねと共に歩む道を選びました。
ここである事実が分かります。オオカミやベアやクマの里が狙っているのはどこまでもとらの里であり、きつねの里ではなかったという事です。理由は既にたぬきが説明しています。きつねの里はとらの里に侵略する足場でしかない、そんな認識だったのでしょうね。




