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ぽんぽこの道 ~歴史に自信をなくした者へ~  作者: ぷみわに
ぽんぽこの道 ~歴史に自信をなくした者へ~
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家出息子ベア(2)

クマの里が領土拡大を続ける中で、里内である問題が起こります。その成り行き、結末にはその後のクマの里の方向性が見え隠れしています。クマの里の性格というか特徴を感じて欲しいですね。

 時は流れ、クマの里は南で綿花、食料を生産し、北は綿花から服を作るようになりました。服を作る技術は進歩し、大量生産を可能にしていきます。綿花はいつでも手作業のため、北は豊かに、南は貧乏になる格差社会になります。南の綿花経営者は追い詰められ、経営は悪化、従業員の給料は下がる状況です。北は減給を続ける南の不当雇用の反対を訴えます。南の言い分は、


「お前らが安く綿花を買い叩くからだろ!」


となりますが、北は聞きません。


「高く買ったら俺らの利益がなくなるだろ!」


 さて、追い詰められた南は北に対して南の里の独立を宣言します。


「俺達は俺達でやる。祖先はラグビークラブだったかもしれないが、今や仲良くやっていけない!」


ここにラグビー部のFW(北) vs DF(南)…の子孫の戦いが始まります。この戦いはお金に物を言わせた北の勝利に終わります。そして、南の里の独立宣言そのものを認めず、里としての存在を永遠に抹消します。アニマルールでは里同士の戦争は、その二つの里以外の里の参戦を禁止していません。そのため、あくまでクマの里内の内戦を鎮圧したという体裁を整えて他の里の侵入を許さないためでした。正式なケンカなら他人の加勢も許されますが、内輪もめなら他人は口出しできない訳です。


「クマ大統領!実は問題があります。」


浮かない顔をしていたクマ大統領の部下が意を決して大統領に進言します。


「なんだ?」


部下の顔をちらりと見て大統領は答えます。部下は出来れば話したくない不都合な事実を話し始めます。


「アニマルールを調べてみましたが…。」

「あぁ、ご先祖様の。すごくキライだったようだが…それで?」


クマ大統領は部下の気まずそうな態度と裏腹に、興味なさそうにテンション低めです。


「アニマルールでは南の里を攻撃すると侵略になります。」

「つまり?」


クマ大統領はイマイチ部下の真意がつかめません。


「他の里からも侵略が可能になります!ベアの里やフラミンゴの里からも…。」

「そんなことになればクマの里をバラバラにされてしまう!」


部下の言うことをやっと理解したクマ大統領はあたふた慌てます。慌てる大統領とは反対に、今度は部下が落ち着いて静かに話します。


「ですので、南の里の独立は認めません。独立でなければ内乱の鎮圧と言えます。そうすれば他の里から攻められる理由にはなりません。」


クマ大統領はしげしげと部下を見つめながら首を傾げてぼそりと言います。


「そんなこと、今更言えるのか?」


部下は目を細めてひと呼吸おいて言います。


「言えません…が、クマの里を守るためです。」

「…そうか…。」


二匹は無言のままうなずいていました。


クマの南の里の存在と独立した事実を抹消したクマの北の里は、南の里が二度と立ち上がれないように徹底的に解体し、北に吸収していきます。クマ達はもともとベアの里の落ちこぼれ集団です。自分達よりも優秀な者達が復讐に来ることを極端に恐れて、相手が滅びかねない所まで追い込まないと安心出来なかったのです。この方法は代々クマの里に継承されていくことになります。クマ達には非常に憶病な一面があったのです。


 里の内乱が落ち着くと、クマの里は領地をどんどん広げていきます。もともとその地にいた種族を蹴散らして奪い取り、復讐できないように痛めつけます。フラミンゴの里から領地を買い取る時には、契約書に小細工をして半分の約束を全部にしてしまいます。


フラミンゴ外相が言います。


「これで契約成立だ。約束通りこの川岸までは君たちの領土だ。」


クマ外相はニヤリとします。


「フラミンゴ外相、契約書を読まれましたか?契約にはthe banks of the riverと書いてありますよ?これは片方の岸ではなく、両岸です。そうすると、反対側の岸のどこまでか、決めないといけませんね?」


思いがけないクマ外相の発言にフラミンゴ外相はあっけに取られ、慌てて契約書を見返します。そしてクマの外相の言う通りであることを何度も確認します。


「…‼やられた!」


フラミンゴ外相は動揺を隠しきれない渋い顔で席に着き、屈辱とも言える交渉を再開することになりました。


 クマ達は多少あくどいことをしても領土を西へ西へと広げていきました。ヘビの里では少しずつ入植して数を増やしていたクマの移民が勝手に入植地の独立を叫び、砦に立て籠もって戦います。状況を知った周囲のクマは見て見ぬ振りをして彼等を見捨てます。そして当然のように負けた砦のクマ達を今度は英雄に(まつ)り上げます。


「リメンバー砦!」


を合言葉にクマ達は団結し、自分達を正当化してヘビの里と戦って領土を奪い取ります。ヘビの里にしてみればただ侵略されただけなのですが…。そう、クマ達は何かしら自分達に都合の悪い事実があると、その事実を覆い隠す様に『リメンバー!』と叫ぶようです。


 また、大陸を東から西へ渡り切ったクマ達は海岸に辿り着きます。それでも彼等は止まりません。ヘビの里に乗り込んでいく者、大海へと漕ぎ出す者が後を絶ちません。


ヘビの里の港で突然クマの船が爆発して沈没します。慌てたヘビの里はクマの里と共同で沈没の原因の調査を申し出ます。非常に紳士的な申し出ですが、クマの里は断り、単独で調査をしてヘビの里の陰謀だったと結論します。


「リメンバーマイシップ!」


と高らかに宣言し、ヘビの里に戦争を仕掛け、あっさり勝利、ヘビの里の土地を奪っていきます。ヘビの里にしてみれば本当に迷惑な隣人です。

 

大海へ漕ぎ出した者は、ある者はたぬきの里に辿り着き、不平等な条約を結んで帰ってきましたし、ある者はバナナの島に辿り着き、さるの里を占領してしまいます。


大海の真ん中にポツンとありました小鳥の楽園と言われた島のコトリの里は、とても美しい里でした。しかし、突然現れたクマ達にいいようにやられます。一方的な侵略はアニマルールに違反しますが、もともとクマ達はアニマルールが苦手です。そして相手が格下だと見るや、アニマルールを適用しないというアニマルールを適用するのです。


美しき小鳥の楽園は必死に生き残る道を模索しましたが、理不尽ともいえるクマの前になす術なく併合されていきました。コトリの里の港を少し出た海上に哀悼(あいとう)の意を示す船がありました。船員は甲板に整列し、無言のままいつまでも敬礼し、小鳥の楽園の結末を(いた)むのでした。コトリの里と友好を交わし、併合を悲しむたぬきの里の船の船長の名をトーゴーと言います。


クマの里の南北間で起きた社会問題の幕引きには事実の隠ぺいがあるようです。クマの里を守るためには仕方がない!…としても、その存在を消された方の想いはどうなるのか…考えさせられますね。そして何がそうさせるのかひたすらに領土拡大に一生懸命です。まるで世の中を征服するかのような勢いでたぬきの里に迫っていきます。あと「リメンバー!」は覚えておいてほしいですね!

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