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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄された寝取られ聖女は今日も愛を囁きます〜政略結婚相手の仮面の下はまさかのイケオジだった。恋愛未経験の推しのイケオジを溺愛します〜

 艶やかな声が部屋中に響く中、私は扉の前で立ち尽くすことしか出来なかった。隙間から見えるそこには私の知っている二人が裸で体を重ね合っていた。


 幾度もなく動く婚約者と部屋中に響く妹の声。


 私は将来を共にする予定の婚約者を妹に奪われた。


 それでもどこか納得してしまう私はおかしいのだろうか。


 妹は私とは違い、見た目が華美で華やかな女性だ。そんな妹を私はいつも羨ましそうに見ていた。


 黒い髪に黒い瞳の地味な私には、全てを持っている妹に勝てるものは一つしかなかった。


 それは私が"聖女(・・)"と呼ばれる存在だった。


 聖女は平和の象徴とも呼ばれ、膨大な魔力量と珍しい光属性魔法が使える。そんな聖女は地味に見た目で生まれる特徴があった。


 歴代の聖女は皆私と似た容姿をしていた。


 婚約者もそんな聖女の私を魅力的に思ったのか、政略結婚ではあったものの彼には惹かれていた。


 いつも優しい笑顔を向けていたが、それは私ではなくこの聖女としての力だった。





「お姉様ごきげんよう!」


 何もなかったかのように、妹は私にカーテシーをして挨拶をする。その隣にはさっきまで体を重ねていた婚約者がいた。


 側から見たら義理の妹と歩いている婚約者なんだろう。でも、関係を知っている私からしたら略奪した妹と馬鹿な男にしか見えない。


 貴族はいつも気高く堂々と。


 私は普段通りにカーテシーをして挨拶を済ます。


「あっ、お姉様にお願いがあって探していたんです」


「お願い?」


 妹は私に近付いて来て小さな声で囁く。


「私満月の日が来ないんです」


 満月の日とは月一回来ると言われる、女性特有の血が流れてくる日のことだ。


 満月が欠けて月がなくなる頃に血が流れ落ちたら、お腹の中に子どもができていないという証拠になる。


 満月の日が来ないということは、お腹の中に赤ちゃんがいるかもしれないということになる。


「だから聖女の力で確認して欲しいの」


 私は妹に引っ張られながら、部屋に案内されるとお腹に手を当てられた。


 もしかしたらと思い私は光属性の魔力を通す。


 そこには小さく光る新しい命が芽生えていた。


「ひょっとして……」


「お腹の中に新しい命が宿っているわ」


 私の声に妹は喜んでいた。きっと私の婚約者との子なんだろう。ここにはいないあの人も、こんな私ではなく妹と幸せな生活を送れる方がきっと幸せだ。


 疲れが溜まっていた私はその場で意識を手放した。


「お姉様のものは全部私のものよ」


 そこには私の方を見てにやりと笑う妹がいた。





「んっ……」


「ああ、起きたか」


 目を覚ますとベッドの横には父が座っていた。この国の宰相で王の側近とも頭が切れる男だ。


「ローズが心配していたぞ。懐妊した妹に迷惑をかけるとは本当に使えない娘だ」


「すみません」


 私は父に愛されていないのは知っている。昔から優しく愛を向けられていたのは妹のローズだけだった。


「しかもその相手がお前の婚約者だとはな。男の一人も立派に操作できずに何が聖女だ! 宰相の娘とは言えないほど頭が回らない子だとは思わなかったぞ」


 倒れたばかりの私の頬を父は強く叩いた。頬の痛みなのか、心の痛みなのかわからないが私は情けなくなる。


 もうこの場から消えたい。今すぐにでも死にたいと思うほど私は追い込まれていた。


 "婚約者を妹に奪われた惨めな聖女"


 私はこれからこうやって呼ばれるのだろう。


「これでも聖女だから、お前にはこの国のために新しい使い道がある」


 投げられた紙にはある人の名前が書かれていた。


「セイグリッド・シャーロン?」


「ああ、遠い国で関係を保つために政略結婚相手を探していたんだ」


 その言葉に嫌な予感がした。頭の中で警報が鳴り響く。


「相手はお前よりも20歳も上だが王位継承を放棄していても王族だ。これでお前も使い道があってよかったな」


 それだけ言って父は部屋から去っていく。政略結婚に使われた私が、再び政略結婚に使われるとは思いもしなかった。





 それから私は食事も喉が通らずみるみるうちに痩せていった。


「お姉様元気でね。私は立派な子を生みますわ」


 一方、妹のローズはお腹が少しずつ大きくなっていた。妹しか見送りに来ていない私は本当にここの家族だったのだろうか。


 そんなことを思いながら私は馬車に乗り込んだ。


 今日、私は政略結婚として他国に売られた。


 もう家族だとは思われていない私は物として扱われているだけ良い方なんだろう。


 次の政略結婚相手は常に顔を仮面で隠している"戦場の悪魔"と呼ばれているらしい。


 王族なのに結婚していない理由を調べると、その素顔を見た人は全員命を落とすと言われていた。


 この際、私も彼の素顔を見て命を落とすなら本望だ。自分の手で死ぬ勇気もない私にとっては、彼の存在が少しだけ希望に感じた。


 



 彼の国はとても寒いようで雪が吹雪いていた。何もないただ白い光景。初めて見る真っ白な雪と何もない私は同じような気がした。


 ここまで来るのに数日かかったが、それが逆に私の頭を冷静にさせた。


 結局死ぬなら人に迷惑をかけて死んでやろう。あの家に復讐するために、新しい婚約者に嫌われて戦場の悪魔を怒らせようと考えた。


 屋敷に着いた私は執事が出迎えてくれた。だが、そこには私の婚約者はいなかった。


「セイグリッド様は急な仕事で明日帰って来ます」


 ここでも私は歓迎されていないことがすぐにわかった。むしろ変に同情されるよりは怒りを買うにはやりやすい。


「長旅で疲れたので少し休んでも良いですか?」


 私はすぐにベッドに案内してもらい体を休めることにした。





 慣れないベッドで私はゆっくりと目を覚ました。まだ空は暗く、夜中の空に雪がちらついていた。何も聞こえないこの環境に小さな声が聞こえて来た。


 扉の外から小さく話した声だ。


「私から彼女には帰るように伝える」


「それでは国王様の命令に背くことに――」


「私の婚約者になって良いことはない。また、人を殺すぐらいなら故郷に帰らされた方が良いだろう」


 会話からして私の婚約者だとすぐにわかった。本当に結婚相手が死ぬのは合っているようだ。


 私は覚悟して扉を開けた。


「この度、セイグリッド様の妻となります。シャルロットです」


 長年身につけたカーテシーをして、顔を上げるとあまりの迫力に息が詰まりそうになる。


 目の前には獣のようなマスクを被った大柄な男が立っていたからだ。一瞬で彼が"戦場の悪魔"と呼ばれている理由がわかった。


 見た目が童話に出てくる悪魔にしか見えなかったのだ。


「私はセイグリッドだ。君には申し訳ないが今すぐ家に――」


「私は死ぬためにここに来ました。だけど、その前に私を物として扱って見捨てた家族に復讐がしたいです」


 私の言葉に執事とセイグリッドは顔を見合わせている。いきなり婚約者に死ぬために来たと言われたらこういう反応になるだろう。


「セバスすまない。少し彼女と二人きりにしてくれ」


「わかりました」


 セイグリッドは執事のセバスに一言声をかけて、私の部屋に入って来た。近くから感じる圧力に私は押し潰されそうになるが、それでもここに来た目的のためなら負けるわけにはいかない。


「君は本当に死にたいと思っているのか?」


 彼のどこか優しい言葉にどこかドキッとしてしまった。こんな言葉を今までかけられたこともなかった。


 それでも私の気持ちは揺らぐことはない。小さく頷くと彼は大きくため息をついた。


「私の顔には人を死に追いやる呪いがかけられている。もし、本当に死にたいのなら目を瞑ってくれ」


 私は言われたように目を瞑る。


「仮面を取るから、本当に死にたいなら目を開けてくれ。まだ生きたいと願うなら向きを変えてくれ」


 選択肢を与えてくれる彼にどこか笑ってしまう自分がいた。戦場の悪魔は思ったよりも優しい男性だった。


 私は覚悟を決めて目を開ける。


 そこにはロマンスグレーの髪に赤い瞳の素敵な男性が立っていた。


「すて――」


 だが、そうやって思えたのは一瞬だった。すぐに頭痛が襲ってきた。頭が強く殴られているような感覚にふらついてしまう。


 彼は急いで仮面を被り私を抱き寄せた。


「だから言っただろう。すぐに死ななかっただけでもよかったと思いなさい。これでここには――」


「私はセイグリッド様と結婚します! むしろ結婚させてください!」


「うぇ!?」


 私は頭痛とともに過去の記憶が蘇ってしまったのだ。


 死ぬ間際までやっていた乙女ゲームに出てくる攻略対象者である兄の顔が黒塗りで見えなかったことを……。


 声と弟思いの兄に私は一瞬にして彼の虜になった。推し活をしようと思っても、モブ扱いの彼は顔を見ることができなかった。


 だから手作りしたアクリルスタンドやポスターはいつも黒塗りだった。


 でも、あの人がこんなにイケオジだったとは思いもしなかった。


 再び彼の仮面に触れてゆっくりと持ち上げる。私を支えている彼は手が離せないのだろう。


 やっと見ることが出来た愛しの推しに小さな声で囁く。


「やっと見つけた私の王子様」


 私の声に彼は瞳の色のように顔を赤く染めていた。視線を合わせようとしても、斜め上を見てはチラチラと私の顔を見ている。


「すまない。今までそんなことを言われたこともないからどうすればいいのかわからない。皆、私の顔を見たら話せなくなるのだ」


 話せなくなるから顔を逸らしているのか、恥ずかしいから逸らしているのかはわからない。でも推しが照れている姿はファンにとっては最高のご褒美だ。


「セイグリッド様こちらを見てください」


 彼の顔を掴むとゆっくりと私に視線を合わせる。やっと間近で見れた推しの姿に私の胸の鼓動は早くなる。


「やっぱり悪魔の呪いが!?」


 私がドキドキしているのが、振動して伝わっているのだろう。それでも私の胸の高鳴りは静まることはない。


 聖女としての力が働いて彼の呪いは私には効かないのだろう。


「私と結婚してください」


「えっ……いや……」


「結婚しないと死んじゃいます」


 私の言葉に彼は大きく首を振っていた。思っていたよりも不器用でどこか戸惑っている可愛い姿にさらに魅了された。


 これからは自分のためではなく、彼のために生きよう。人に愛されるのではなく、人を愛する人になろうと私は誓う。


「セイグリッド様は私が幸せにします」


 今日も私は小さな声で愛を囁いた。

あまり書いたことのない異世界恋愛でした!


ブックマーク、⭐︎評価よろしくお願いいたします。

今後の結果次第で連載を検討しています。


他にもファンタジー小説やBLも書いてますので、読んで頂けたら嬉しいです。

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