室内作業
その日は、どうしても取り付けまで終わらせたくなって、私は希望者だけ残って貰ってワイヤー接続までやる事にしたんだ。
希望者だけって言い方は、ちょっとキツイ感じを受けちゃいそうだけど、バイトがある娘や、早く家に帰らないといけない娘なんかもいるだろうから、強制したくはないな……という思いで言ったんだ。
でも、みんなが残ってくれた事には、私は感謝しかなかったんだ。
シフトレバーの根元からは2本の鉄のロッドが出ているので、それを床下に這わせてミッションに接続する。
私も下に潜ったけど、実際の作業はほとんど七海ちゃんと志帆ちゃんで行っていて、私はただ邪魔になっちゃっただけのようになってしまった……。
「そんな事ないっスよ! 燈梨さんの的確な指示があるから、こんなに早く組み上がったんっスよ!」
七海ちゃんが言ってくれたのがちょっと嬉しかった。
そして、取りつけたロッドをよく見ると、なるほど前輪駆動車のギアチェンジはこうやっているんだという事がよく分かった。
縦の動きのロッドと、横の動きのロッドを組み合わせる事によって、シフトレバーの動きをミッションに伝えて、ミッションを機械的に変速させているのだ。
接続作業の手伝いに入って、ロッドの接続を終わらせた私は、開いている窓から室内を覗き込んでみた。
シフトレバーにサイドブレーキまで取りついて、新車の頃からマニュアル車であったかのような違和感のなさで、そこにマニュアルの内装が鎮座していた。
室内を担当した塔子ちゃん達によると、シートを外して、センター周辺のカーペットをはぐっていたら、あっさりと取り付けベースが見つかったので、取り付け自体は思っていたよりもずっと楽だったそうだ。
「ペダルの取り付けが一番難儀しました……」
分かっていた事だけど、狭い軽自動車の足元で、その上でダッシュボード裏にまで至るペダルの取り付けが、最も室内でのネックになる作業だった。
塔子ちゃん達は、その狭い中をパーキングブレーキペダルを外して、クラッチペダルを取り付けて、更にパーキングブレーキワイヤーを辿るという作業というかなり地味で辛い作業を頑張ってくれていたのだ。
しかも、ペダルもあった物を外してポン付けするという訳にいかず、何故か一部ボルト穴の位置がズレていたりして、なかなかに意地の悪いものだったそうだ。
しかし、遂に取り付けの終わった内装を見て、私も、みんなも凄くホッとしてしまった。
正直、最初に載せ替えるという話が出た時、私は載せる事は出来るとしても、きっと、物凄く時間のかかる事で、春が来る頃までに終えられるのかと思いながら、凄く不安を感じていたのだった。
しかし、まだ、やるところがあるものの、大まかな所に関しては、僅か2日で出来てしまった事に、私は驚きと共に、今後の活動においての大きな自信を感じたのだ。
これだけの重整備をみんなでそつなく、更に短期間で終えられた事は、今後の自動車部の活動においては、どんな作業が来ても物怖じせずにチャレンジできる大きな自信に繋がる第一歩に繋がったのだ。
私も、みんなも、大きな第一歩を踏み出したんだ。
◇◆◇◆◇
ミッション載せ替えに関する作業を終えたため、次の日はブレーキ関係の作業に入ったんだ。
セフィーロのブレーキをやったばかりの私たちにとっては、同じ内容で、且つセフィーロよりも小さくて軽いサイズのムーヴのものなので、余裕とまではいかないが、すっかり慣れた作業なので、効率よく進める事ができた。
オーバーホールに関しても、キャリパーが小さくて軽いために、片手で持って作業する事ができるし、それによって細かな部分まで手に持ってチェックできるのが、私にとってはやりやすかったんだ。
更に、ムーヴの場合はリアのブレーキがディスクではなくてドラム式ブレーキのため、この部が始まって以来初めてとなるドラムブレーキのオーバーホールもやったんだ。
まずはリアのハブについてるキャップをマイナスドライバーで外して、中に隠れている割りピン付きのナットを外して、その上でドラムを外してあげると、ドラムが2つに割れて中が露わになったんだ。
見た感じ、なんかフロントより複雑そうな構造なんだけど、構造原理はシンプルで、ディスクブレーキが回転を押し付けて止めているのに対して、ドラムブレーキは、内部にあるシューを押し広げて回転を止めているんだって。
なので、オーバーホールのついでにこのドラムシューも新品にしておくことにしたんだ。
まずは、中にあるドラムシューや、ブレーキ作動用のバネなんかの構成物を全て取り外して、オイル漏れなどが無いかをチェックしておく、そして、その間にドラムをパーツクリーナーで綺麗に洗浄しておく。
古いグリスなんかがあって、埃とかがついてネチャネチャでどす黒くなってるから、それらも綺麗に洗い流しておこうね。
それから、一番上についているホイールシリンダーという、ドラムブレーキの動作をつかさどる円筒状の部品なんだけど、せっかくだから新品に交換するんだ。
というのも、教師水野に今回の作業の話をした際に、ドラムブレーキの効きが怪しいという印象を教師水野は持っていたため、このメニューは必ず行い、部品に関しては自分で手配していたためだ。
七海ちゃんとホイールシリンダーを分解していくと、案の定、円筒型の中は錆が発生していて動きが凄く渋くなっていたんだ。
普通はあまりこういう例は少ないらしいけど、この車は恐らくノーメンテで乗られていた可能性が大なので、そういう事もあり得るという話らしい。
そして、ゴムブーツも新品にして、ドラムシューも新品になったムーヴのリアブレーキはさっきまでのサビサビで中もバネが伸びたようなダルダルの感じだったのとは打って変わって輝きを放っていて、且つ中の調整も万全になった引き締まった物になったよ。
そして、せっかくここまでやったのだから……と、マスターシリンダーのオーバーホールも一緒に行ったんだ。
これで、ムーヴに関しても長く安心して乗れる車になったよね。
次に前席シートを取り付けて、室内に座れるようにしたら、各種エア抜き作業だね。
ブレーキのエア抜き作業は以前にもやった、セフィーロと車の大きさや駆動方式は違えど方法は一緒だったよ。
そして、クラッチフルードもエア抜きを行って、これで完全にムーヴはマニュアル車に変身したんだよ。
そこで、まだタイヤがつく前の段階ではあったけど、車がきちんと組み上がっているかを確認する事にした。
これに関しては車が動き出すわけではないので、発案者の七海ちゃんに運転席に座ってもらう事にした。
エンジンキーを恐る恐る捻ると
“キュルルルルル”
といつも通りのちょっと軽めのセルモーター音がして、エンジンがかかった。
そこで、七海ちゃんが
「任せるっス! 私はいつも爺ちゃんの軽トラで……」
とドヤ顔で口走ったために、沙綾ちゃんに頭を叩かれていた。
「とにかく、黙って運転するの! このっバカナミ!」
沙綾ちゃんにせっつかれながら、たどたどしくクラッチを繋いだその時、前輪のブレーキディスクがそろりそろりと回転を始めた。
七海ちゃんが2速に変速すると、さらに勢いを増した回転になり、みんなは思わずそれを見て歓喜に湧いたよ。1年生なんか泣き出しちゃう娘まで現れたんだ。
私は、それを満足そうな目で眺めてから
「それじゃぁ、最後の仕上げに入るよ!」
と言ったところ、みんなが一斉にこっちを見たんだ。
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■あとがき■
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