フライホイール
全てが外れたところで、フライホイールの取り付けに入った。
見た目よりも結構重さがあるんだけど、やっぱり軽自動車用という事もあって軽いというのが、みんなの意見だった。
七海ちゃん達、初期メンバーはスカイラインの教習車やエッセのクラッチ交換を手伝った際に、一緒に交換したフライホイールを持たせて貰った事があるそうだ。
ちなみに、一般的なクラッチの交換作業では、フライホイールの交換はしないそうだが、クラッチの扱いが乱暴だった車などの場合は効果作業が生じるそうだ。
確かに、教習車は数多くの教習性が乗って練習した車なのでそれも理解できるけど、エッセに関しては理由が少し理解できなかったが、七海ちゃんが
「あのエッセは、持ち主のお爺さんが、最後の頃はクラッチの扱いが雑で、しょっちゅう半クラ状態で走らせてたらしいっス!」
と言っていたので、恐らくそれを勘案したものだったのだろう。
今回のムーヴを交換する理由は分からないけど、きっと事故車だったのと、ミッションを外した解体屋のおじさんが、目で見て判断したものだろうと思うので間違いないのだと思う。
交換していると、沙綾ちゃんが
「フライホイールの軽量化っていうのもあるんでしょうけど、この車の場合、逆効果って事もあり得ますよね」
と言っていた。
フライホイールに穴を開けたり、専用の軽量素材を使ったりして軽量化をするというチューニングもあり、それを行うと回転スピードが速まったり、レスポンスが良くなったりする効果がある反面、低速が痩せてしまったり、クラッチ操作がシビアになってしまうという副作用もあり、この車の場合はメリットよりデメリットの方が目立ちそうだと判断されたのではないか? との事だった。
それにしても、沙綾ちゃんはよくそんな専門的なチューニングメニューを知ってるんだろう? と思っていたら
「私たちは、子供の頃からゲームで慣れ親しんでるメニューなんですよ」
とへらっとしながら言っていた。
沙綾ちゃん曰く、色々なゲームでやってみた経験から、小排気量のノンターボエンジン車にこのメニューをやると結構大変だったそうだ。
ちなみに取り付けはしっかりとトルクレンチを使って、規定のトルクでしっかり締め込まないと、フライホイールやクラッチを甘々に扱って、緩いトルク出締めつけたために足を切断する事故になった例もあるそうだ。
七海ちゃんがしっかりと規定トルクで締めつけたので、安心だね。
次にクラッチを取り付けるんだけど、クラッチと一言に言っても、その構成物には実際にエンジンとの接続するクラッチディスクと、ディスクの周辺をカバーして、クラッチペダルの動きに合わせてクラッチを押し付けるクラッチカバーがある。
まずはディスクを合わせるんだけど、このクラッチの取り付けでは、円形になっているクラッチのセンターをきちんと出して固定しないと、ミッションのシャフトが刺さらないため、センター出しという作業が必要になってくるんだ。
本来なら、センター出し工具というものがあるそうなんだけど、それって高価な上にクラッチ交換でしか使い道がないため、大抵は自分達で工夫してセンター出し工具を作るのが一般的らしい。
私たちは考えた末に、それっぽいものを作ろうと色々調べてみると、どうやら出なくなったマジックの真ん中にガムテープをグルグル巻きにして太さを合わせたものをセンター出しに使っている事が多いとの結論だったが、私には何故かピンとくるものがあった。
それは、部の工具箱の中に何故かあった物で、恐らく、舞華ちゃん達が過去に使って置いていったものだと思う。
訊いてみると、七海ちゃん達が過去に手伝ったクラッチ交換の際も、このマジック流用のセンター出し工具を使っていたそうなのだ。
なので、私達も使ってみると、この秘伝のセンター出し工具は、凄くドンピシャだったのだ。
ちょうどセンターの窪みにピッタリと嵌まる上に、外周もガムテープの厚みとぴったり一致するため、センターが良い具合に出るのだ。
工具でセンターが出たところで、ディスクの裏表を間違えないように確認した上で、センター出し工具の上を滑らせるようにディスクを取り付けてから、続けてカバーもセンター出し工具に合わせて取り付けていくと、こちらもトルクレンチでしっかりと固定する。
もう、これでエンジン側の準備が終了したので、ミッションを取り付けるんだけど、その前に載せ替えで忘れてはいけないマスターシリンダーと、クラッチペダルの作業もやっておかないといけないので、取り敢えず、クラッチ班をそちらの応援へと切り替えた。
マスターシリンダーとは、クラッチのペダルを作動させるための機構で、踏み込まれたペダルの力を、油圧に変換してクラッチを押し出すための装置なんだ。
これってブレーキにもあるものとほぼ同じ構造で、今回は解体車から外した中古品を使うために、しっかりオーバーホールをしてから取り付けるんだ。
前に、セフィーロのブレーキのマスターシリンダーのオーバーホールはした事があるんだけど、それと同じ要領で中身の一式の交換と、リザーブタンクのクリーニングをしたら完了だね。
そして、ここからがちょっと大手術になるんだけど、このクラッチマスターとペダルを取り付けるために、バルクヘッドっていう、エンジンルームと室内との隔壁に穴を開ける必要があるんだよ。
その位置が結構困りものなんだけど、そこはおじさんが解体車の画像と、整備要領書のコピーをつけてくれたので、それを見ながら、ドリルなんかを使って穴を開けて、周りをやすりで綺麗に整えてから、錆止めペイントを塗っておいたんだ。
これって結構重要なところで、生産工程で開けられて、きちんと処理された穴ですら、そこが錆の温床になったりするのに、自分達で開けた穴なんだから、しっかり処理するに越したことないよね。
次は、室内作業の娘達を覗いてみたよ。
インパネシフトになっている、オートマチックのシフトレバー周りの撤去は終わって、シフトレバーが外れていたけど、オートマチックのシフトってああいう仕組みになってたんだね……と分かると結構ちゃちな作りなんだなぁ……と思わず声に出ちゃうほどのものだったんだ。
もう、シフトレバーが生えていたインパネの部分は使わないため、マニュアル車用のパネルで蓋をしてしまった。
今までは、そこにあるべきものが無くて凄く違和感を感じたマニュアル車用のパネルなんだけど、今は逆にシフトレバーが生えてる方が違和感を覚えちゃったよ。
更に、まだまだマニュアルのシフトレバーを床から生やす作業もあるし、ミッション本体の取り付けもある、そして、クラッチペダルの取り付けもあるし、完成までの道のりはまだまだ長くて遠いものなんだけど、私もみんなも何故か全く不安は感じておらず、逆にワクワクして、期待するところの方が大きくなっているんだよね。
完成したところで、激しい運転をすれば横転の危険もあるし、パワーも無くて競技にも使えない車だけど、今みんなのテンションは、どの車よりもこのムーヴに強くかかっているんだよ。
なんか、この部って本当に面白いよね。
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