マルカイ申請
舞華ちゃんと七海ちゃんの寸劇が終わると、舞華ちゃんが
「よしっ! みんなで登録書類を調達してきて書き込むよ」
と言って、みんなが今日の登録に使う紙に次々と見本を見ながら書き込み始めた。
窓口のオープン時間になると、人影がまばらだった場内が一挙に騒然とし、たくさんの人たちで事務所内がごった返したが、私たちの周辺だけは、人が寄ってこなかった。
やはり、制服着た女子高生が5人も集まっていると、やっぱり異質で近寄りがたい雰囲気があるんだろうね。
ここで、私には分からなかったのだが、今日はどうやって構造変更をするのだろう?
と、思っていると
「水野から預かってきました」
と、陽菜ちゃんが大きめの封筒を渡してくれた。
その中を見ると、この間の書類と共に『改造自動車審査結果通知書』という書類も入っていた。
それを見るとすでに改造申請は済ませてあり、合格していたのだ。
「ちなみに、申請は結果が通知されるまで1~2週間かかるそうです」
脇でスマホで調べながら沙綾ちゃんが言った。
私はそれを聞いて気がついた事があった。
確か、教師水野と申請書類に添付する資料の事で話したのがちょうどその頃だった事にだ。
また教師水野は、私の知らないところでこっそりと動いていたのだ。
あれほど言ったのにもかかわらず……だ。
それを見た舞華ちゃんは
「燈梨の言いたい事も分かるけど、改造申請は実車を持ち込んで事前にチェック受けた上じゃないと申請できないからさ、アイツも二度手間を避けたんだと思うよ」
と言って、私の肩をポンと叩いた。
とにかく、今回の事の完了報告の時に、教師水野にはこの事を説明してもらう事にしよう。
「それじゃぁ、まず始めようか」
と言うと、みんなが
「ハイッ!」
と言って、通常の登録の申請が始まったのだが、まずはラインで車検を受けて来なければならなかったので、私たちはラインまで移動した。
指定されたラインには既に順番待ちの車列ができていたので、私はその最後尾について停止すると、みんながその傍までやって来た。
「これがラインっすね! こうなってるんっスね!」
「ナミには、もっと具体的な事で感動して貰いたいよね」
七海ちゃんが興奮した様子で言うと、沙綾ちゃんが呆れたように言った。
「どういう意味っスか!」
「来年には自分達でもここに来て、何かしらの車検作業をやるかもしれないんだから、そうなった時に困らないように、ここでしっかり見学するの!」
七海ちゃんが喰って掛かったが、沙綾ちゃんに一蹴されてしまった。
そんな事を言い合っているところに係のおじさんがやって来て、ボンネットを開けて見せるように言われたので私はボンネットを開けると、運転席との隔壁の辺りにある車体番号を見分けて確認していた。
そして、各種エンジンルーム内の液体系の物の量が充分か、そして漏れが無いかを確認していた。
それが終わるとクラクションを鳴らすように言われ、クラクションのチェックも完了した。
更に、おじさんは細長い棒の先にハンマーがついているやつで、ホイールナットを1つ1つ丁寧にチェックしていった。
これで第一段階は終了した。
その間に前の車が建屋の中へと入って行き、遂に次が私の番となった。
「私らは、横の見学通路から見てるから、頑張ってきてね~」
舞華ちゃんは言うと、みんなを連れて向こうの方へと姿を消した。
そして、遂に入場の指示が出たので、私は1速でゆっくりとレーンに入って、最初の検査はサイドスリップなので、低速で先にある板の上を通り抜ける事で、タイヤのふらつきが無いかを見ているそうだ。
次の瞬間、正面の掲示板に『〇』が出たので、検査表をすぐ横にある機械に入れると、とてもアナログな音がして、アナログな感じの印字で印刷された。
次に進んだ先でブレーキの検査だった。
表示板に指示された通りにフットブレーキをかけて、放して、そしてサイドブレーキを引くと『〇』が出た。
サイドブレーキは特に何もしていないが、ブレーキはオーバーホールした上でローターとパッドも新品の社外品に替えた事も影響していると思う。
次はメーターの検査だった。
ローラーの上にタイヤを乗せて、表示板に従って40キロに到達したところでパッシングをしたところ『〇』が出たので、そこの横にある機械で印字した。
そして、次はライトの検査だった。
ライトの検査機は自動でフォーカスを合わせて機械の方が動いてくれるので新鮮だった。
こちらも『〇』が出た。
次は先に進んで排気ガスの検査だ。
レーンのすぐ脇にある機械の先についているセンサーのついた棒のようなものを、マフラーに挿しこんでみると、正面の掲示板に『〇』が出た。
そして最後は、部のガレージのような中央に穴の開いたレーンにやって来ると、突然車がゆさゆさと揺らされた。
そして、その次に下で何やら言っているのが聞こえて、右前の係官のいる詰所まで来るように指示があった。
私がそちらに向かうと同時に、レーンの地下からも係官が2人上がってきた。
すると確認されたのは、この車のMTやプロペラシャフトは何の車種用を使ったのかという内容だった。
GTS-4の物だと答えると、係官は満足そうに頷きながら、合格の印を押してくれた。
これでまずはひと段落ついたね。
最大の難関を終えた私は、何故かドッと疲れが出てきてしまって、元の駐車スペースに戻ると、ちょっとぐてっとしていた。
そこにみんながやって来て
「やったっス! これで無事合格っスね!」
「ミッション載せ替えなんて、いきなりヘビー級な内容の登録なのに、こんなすんなりいくなんて流石ですよ!」
と、七海ちゃんと陽菜ちゃんが言って私に抱き着いてきた。
疲れているところなのに、ちょっと困ったかな……と思っている私の表情を見たのか、その2人を沙綾ちゃんが引き剝がすと、その背後から現れた舞華ちゃんが
「お疲れのところ悪いんだけどさ~、まだ最後の段階があるんだよね~。グデるのは、その後だよ」
と言うと、私の両肩を持って、シャキッと立たせた。
私は、何が何だか分からないまま、舞華ちゃんに連れられて事務所の中へと入って行った。
さっきと同様、ツナギを着た人や、タイヤの名前の入ったジャンパーを着た人達でごった返す事務所内を見て、目を白黒させる私の様子を見た舞華ちゃんはクスッと笑って私をロビーの椅子に座らせると
「じゃぁ、レーンで部長が頑張ったんだから、そこから先はみんなの仕事だよっ」
とみんなに向かって言った。
すると、円陣のように向かい合った3人が
「押忍!!」
と、気合たっぷりに言ったため、周囲の空気がビリビリと振動し、私もであるが、周囲の人たちがみんなビックリしてこっちを一斉に見た。
「オイオイ、ここは格闘部の試合会場じゃないんだからさ……」
舞華ちゃんが苦笑しながら言うと、他の3人は顔を真っ赤にしながら
「ハイ……」
と小さな声で言った。
みんなが朝一で記入を済ませた申請書に、私がさっき印字して貰った検査票、更には改造申請の通知書をセットにして、抜け落ちや追加記載分をチェックし、遂に申請書を提出した。
さっきの気合いでもだけど、制服姿の女子高生がいるという事、更には通常の移転登録などではない、構造変更の申請をやっている事からも私たちの存在はかなり目立っていたようで、後ろの方で業者さんと思しきツナギ姿のおじさんが
「あの女子高生たち、マルカイ申請してたぞ! マジかよ?」
と小声で言っていたのが聞こえてきてしまった。
私は、この状況をどう受け止めて良いのか分からなかったので、聞こえないフリをしてそのままみんなと待っていた。
舞華ちゃんは経験者なので落ち着いていたが、七海ちゃんや陽菜ちゃんは、初めての事だらけでワクワクが止まらずに沙綾ちゃんを巻き込んであれこれ話をしていた。
そして、午前も終わりに近づいた頃、遂に私たちの学校の名前が呼ばれたので窓口に行くと、そこには待ちに待った車検証が、私たちの視線の先で輝いているように見えた。
遂に、今までの苦労が報われる瞬間がやって来たんだね。
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