予備検査
学校に戻ると、さっきの出来事は沙綾ちゃんの耳に入っており
「このっ! バカナミっ! 出張所でまで怒られて燈梨さんに迷惑かけて!」
と、七海ちゃんを見るなり怒り始めた。
「今日は、何もしてないよ! なんで沙綾っちにまで怒られなきゃなんないんだよー」
「今日は何もしてなくても、いつも悪さしてるから怒られるのっ!」
私は、なんで沙綾ちゃんが、さっきの事を知っているのかと思って不思議に思っていると、七菜葉ちゃんが来て
「出張所にいて、七海っちの事怒ってたのって、沙綾っちの叔父さんなんですよ。だから、さっき沙綾っちの所にLINEがきたって訳です」
と私に耳打ちした。
なるほど、それで謎は解決したけど、この2人をどうにかしないとなぁ……と思って動き出そうとしたところ、陽菜ちゃんに腕を掴まれて
「あの2人は放っておけば、じきに元に戻るから大丈夫だよ」
と言われた。
「でも……」
とは言ったものの、この先の展開も大体分かる上、暴れ出したこの2人を制せるとも思えない、更には舞華ちゃんと柚月ちゃんの例を見てみても、すぐに収まるような気がするので、陽菜ちゃんの言う通りにした。
すると、やがて勝手に収まっていった。
「燈梨さんー、なんで止めに来てくれないんっスか? 冷たいっスよー」
あとで七海ちゃんが私の所に来て言ったが
「燈梨さん、そいつにエサを与えなくて良いですよー」
「七海は迷惑者だから怒られるんだよー、反省しろよ」
と、陽菜ちゃんと七菜葉ちゃんに言われて
「ちぇー、みんな冷たいよなー」
と口を尖らせていた。
◇◆◇◆◇
翌日、車検前の点検のため、私がセフィーロに乗ってディーラーへと出かけた。
臨時運行許可の場合は、運転者以外の乗車は禁止されているため1人で行こうと思っていたが、何故か放課後舞華ちゃんが部にやって来て
「どうせ、そんな事だろうと思ってたよ」
と言って、自分の車に七海ちゃんを乗せて一緒にディーラーまで行ってくれた。
ディーラーで出迎えてくれた人に用件を伝えると、既に話が通っており、すぐに準備に取り掛かってくれ、その間に担当の人がやって来た。
どうやら、舞華ちゃんの車の担当でもあるらしく、顔見知りであるようだ。すぐに舞華ちゃんと話し始めていた。
「それで……」
舞華ちゃんは言った。
続けて
「これから部長はこの娘になるので、部の関連の事ではこの娘が来るようになりますから」
と言って、私の紹介をしてくれた。
互いに挨拶と自己紹介をして、現在の部車の状況についての話などもした。
「当店で部品購入頂いているので、ほとんどの部車は把握していますよ」
と担当の方はニッコリして言った。
そして
「只今、車検でチェックされる箇所の検査を行っているところです」
と言って、工場へと案内してくれた。
そこでは、セフィーロが、何かローラーのようなものに乗せられた状態で、ボンネットを開けた状態で点検を受けていた。
ここでは、車体番号との一致、クラクションの点検、ホイールナットの緩み等の点検、ワイパーとウォッシャーの点検、ライトの光軸検査、灯火類のチェック、スピードメーターの検査と排気ガス検査……と多岐にわたる検査をしていた。
ここで落とし穴になりがちなのが、灯火類でのスモールランプやナンバー灯で、特にナンバー灯の球切れや汚れなどは、地味に当日指摘されると時間のロスになるために、できれば新品にして安心しておいた方が良いとの事だった。
「当日、検査場で不合格喰らっちゃうとさ、頭の中が真っ白になっちゃうから、ここである程度予行演習して行った方が良いんだよ」
舞華ちゃんがへらっとして言った。
どうやら部のシルビアの登録に行った際は、ぶっつけ本番でやって来いと教師水野から言われたらしく、本当にぶっつけ本番で行ったら、ライトの光軸検査で不合格になって苦労したため、今回は事前に検査してから行くべきだと強硬に主張したそうだ。
「まだ、光軸だから良かったようなものの、排ガスやサイドスリップとかだったら、私らの当日のスキルと工具じゃ無理だからさ、時間も無駄になるし」
と言って舞華ちゃんは口を尖らせた。
担当の人もそれを見ながら苦笑して
「そうですね。検査場での検査では、手近で調整してくれる工場がないと、不合格になった場合は痛いですね……」
と言った。
ちなみに、私たちの町からの場合は、県庁所在地にある市まで行かないと検査登録事務所がないために、車で1時間半ほどかかってしまうので、不合格になってから学校に戻って整備し直して、もう1度高速に乗って検査に行くとなると4~5時間は最低掛かってしまい、現実的には無理がある。
かと言って、近場にある修理工場に飛び込みで入るのも敷居が高いし、調整にどのくらいの金額がかかるのかも全く分からないため、この方法も私たちにとっては現実的ではない。
「なので、当店で最終整備した上で当日に臨まれた方が安心ですよ」
担当の人が胸を張って言った。
話を聞くと、この人は元々整備士で、サービス担当として入社しているために、メカに関しての知識や修理スキルも充分持っているそうだ。
すると、セフィーロは、今度は隣のレーンに移って、別の検査を始めていた。
ここではサイドスリップや下回り検査などをするらしい。
そこで、検査を受けていると、整備していた人が担当者の事を呼んだため、担当者が向こうへと小走りで行った。
「燈梨、私らも行ってみよう!」
舞華ちゃんに言われて私も頷き、一緒に走っていった。
「待ってくださいっスー」
七海ちゃんも遅れて走ってきた。
私たちが駆け付けると、ちょうど話が終わったところだった。
「サイドスリップの数値が基準値外になってしまうので、これから調整します」
と言われた。
それを聞いて、舞華ちゃんが
「ほらね、だから事前に検査しておいた方が良いって言ったんだ。これで検査登録事務所行ったら、燈梨たちは呆然としちゃうところだったよ」
と力強く言ったので
「ありがと、本当に助かったよ!」
と言うと、舞華ちゃんは
「別に、お礼なんて良いよ。それよりも今回の事が終わるまで気を抜かない事だよ」
と言ってくれた。
すると、担当者も
「ですね。今回は構造変更も絡んでるので」
と言ったところ、舞華ちゃんが発案して、申請書類を見てもらう事にした。
担当者は、仕事としてはやった事がないけど、友達の手伝いなどでやった経験があり、書式などもその都度書いたり、揃えたりしたそうなので、ここの検査登録事務所の癖や傾向なんかを知っているそうだ。
やはり、こういうのは、全国の様式が1つに決まっていても、運営する側の地方の検査登録事務所の係官が弾いてしまえば、それ以上は取りつく島も無くなるので、傾向に合わせるのが重要なんだとの話だった。
それによると、ミサキさんのやり方は、こちらの県では『要点だけ記載して』と言われて嫌われる可能性が高いとの事だった。
そして、舞華ちゃんのお兄さんの使ったものと、教師水野の使ったものでは、どちらでも大丈夫だと思うが、資料の多さとキメ細かさでは教師水野のもの、文言の丁寧さと、読みやすさでは舞華ちゃんのお兄さんのものが受けが良いと思われるので、できればこの2つをミックスできればベストだという話だった。
その話をしている間に、検査が終了した。
今回は、サイドスリップの調整が入っただけで、それ以外は問題なく車検に合格できるだろうという話だった。
「よく、皆さんだけでここまで整備できましたね。凄いですよ!」
そう言われて、私たちはちょっと嬉しかった。
帰り道で運転するセフィーロのハンドリングは、今までよりもとても軽快なものへと変身していた。
調整だけで、ここまでの違いが出るんだ。
私は改めてこの活動の奥深さと面白さを実感した。
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