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臨時運行許可

 翌日、教師水野から呼び出しを受けた私と七海ちゃんは、2限終わりに職員室へと行った。

 

 「わざわざご足労頂いて申し訳ないね。学校から校印と印鑑証明が取れた。なので早速登録に行ってきて欲しいと思っている」


 やって来るなり私達に書類を差し出してくると、いつもより高いテンションで言った。


 「こちらで予約取りまでやっておくから、その日に行って欲しい。ただ、その前に……」


◇◆◇◆◇


 その日、私は七海ちゃんと市役所の出張所へと向かった。

 私たちの住む街は市町村合併で現在の市に編入されているため、市役所の本庁舎から1時間以上離れており、ほとんどの業務は麓の街にある出張所に行くそうだ。


 そこで臨時運行許可、所謂仮ナンバーと呼ばれる赤い斜線の入ったナンバープレートを発行して貰うのだ。

 この臨時運行許可は、車検が切れたり、登録が抹消されえた状態の車を用途を限定して公道走行できるようにする、このセフィーロのような車に使われるのだった。

 車検にあたって教師水野から


 「車検前にディーラーに行って、問題が無いかチェックして貰ってきたまえ。私の方で連絡を入れておく」


 と言われて連絡した結果、翌日の提案を貰ったそうだ。

 車から降りると、私は言った。


 「七海ちゃん。本当に大丈夫だよね?」

 「大丈夫っス! 私は市役所でまで悪さはしてないっスよ!」

 「ここ、出張所だよ」

 「燈梨さんは知らないでしょうが、ここは父さんたちが若い頃は市役所だったんです。合併されたので出張所になったっス!」


 七海ちゃんは、自信満々に言った。

 どうやら、七海ちゃんのお父さんの頃は、この隣にある総合運動場で成人式をやって、この庁舎の前で記念撮影をしたそうだ。


 必要書類を確認した私は、七海ちゃんの案内で中へと入った。

 しかし、案内板を見ても臨時運行許可に関する案内は載っておらず、困ってしまった。

 発券機のどの番号を押せばいいのかが分からず、完全に思考停止の状態に陥っていた。


 「訊いてくるっス!」


 七海ちゃんは言うと、私たちの正反対の方へと走り出していた。

 その先にはインフォメーションがあり、七海ちゃんはそこにいた女の人に話をして戻ってくると、発券をせずに隅の方にある窓口へと行った。


 「臨時運行許可を取りに来ました」

 「え!?」

 「臨時運行許可っス!」

 「臨時、運行……?」


 窓口の人は首をかしげてしまった。……どうやら、意味が分からないようだ。


 「仮ナンバーっス!」


 七海ちゃんが、若干イライラしながら言うと


 「あぁ……仮ナンバーね。それでは、まずこの用紙に記入してください」


 と言われて申請用紙を貰った。

 用紙には、車名と車体番号、運転者の氏名と免許証の番号、運行の目的と運行ルートの他に、自賠責保険の証書番号の欄があった。


 私は、そこで止まってしまった。

 自賠責保険に加入していないからだ。でも、よく考えてみれば、公道を走る以上は自賠責保険がなければ万一の事故の際、相手に補償ができないから当然の事だった。

 私は、ハッとして七海ちゃんに


 「ゴメン! 自賠責保険に入ってないから、明日、改めて取り直しにこないと」


 と言うと、七海ちゃんは車検証入れの中から1枚の紙を出して


 「でも、自賠責保険の証書ってあるっスよ」


 と言った。

 私は、それを見ると、このセフィーロの車体番号の書かれた、昨日から25ヶ月間の期間になっている自賠責保険の証書だった。

 どうやら、教師水野が取ったものらしい……。


 私は、それを見てまた静かに怒りがこみ上げてきた。

 先回りしてくれたのは有り難いが、何故それをした事を黙っているのだろう。

 私がここで混乱してしまう事を、予想できなかったのだろうか。


 私の表情を見て七海ちゃんは察してくれたようで


 「分かるっス! でも、水野はこう言う奴っス! 学校に帰ってから改めて抗議するっス!」


 と私の肩をポンと叩きながら言ってくれた。

 そうだ、こんなところで無駄に教師水野に怒りを向けるのではなくて、まずはやるべきことを先に済ませよう。


 私は、用紙に従って記入をしていった。

 車名と車体番号、私の名前と免許証の番号、そして自賠責保険の証書番号と書いていって、次に運行の目的に関してで止まってしまった。


 一体どんな目的を書けば良いのだろう?

 悩んでいると、七海ちゃんがポンと肩を叩いてスマホの画面を見せてくれた。

 そこには、仮ナンバーを取得した人の話が出ていて、『車検整備のため』と書いたというような話だった。


 なるほど、素直に書けば良いんだね。

 車検に向かう整備だから、車検整備で間違いない。あとは、運行ルートは学校から街の日産ディーラーまで……と。


 申請すると、住所はそんな詳細でなくて、もう少しざっくりしたものを書くように言われた。もし正確無比に書いてしまうと、1ミリでも敷地から外れた位置に入った瞬間、違反になってしまうのだそうだ。二重線を引いて書き直して提出し、少し待たされた後で遂に臨時運行許可のナンバープレートと、1枚の紙を渡された。

 この申請書の大きな赤丸の中に許可された日付が記載されるため、その紙をフロントガラスの所に掲示して運行するよう言われた。

 そして、記載されている期限内に返却に来るように言われて庁舎での用事は終了した。


 私たちは用事を終えて部車のシルビアに乗り込もうと、私が鍵を取り出した時、七海ちゃんはハッとした表情になると


 「燈梨さん、急いで開けるっス! 早く!」


 と唐突に言った。

 あまりに七海ちゃんが怖い表情で言うので、私は思わずビクッとして鍵を落としてしまい、拾おうと屈んだ瞬間


 「コラぁっ! お前か! また、悪さしに来たのかぁ!」


 という声がしたので、私はそっちの方を見ると、市役所の身分証を首から下げたおじさんが七海ちゃんのすぐ近くまで詰め寄っていた。


 「ち、違うっス! 今日は学校の用事できたっス!」

 「学校の用? 仕方ない。いいか、もしこの前のような事したら、今度という今度こそは学校に突き出してやるからな! 覚悟しろ!」

 「も、もうしないっス!」

 「ついでに親父にも言ってやるからな! お前の所のハナたれ娘がロクでもない事してるって」

 「は、ハナたれじゃないっス!」

 「ハナたれは、ハナたれだ! ハナでも啜って(すすって)ろ!」


 そう言い残すと、おじさんは去っていってしまった。


 私は、車に乗り込んできた七海ちゃんに言った。


 「七海ちゃん。ここで何やったの?」

 「駐輪場から正面入口が遠いんで、裏の職員通用口から入ったり、県道の信号待ちが面倒なので、駐車場をショートカットしたっス!」


 あぁ、やっぱりここでも悪さしてたんだ……。


 「でも、あんなにまで怒られるって事は、七海ちゃん常習なんじゃ……」

 「違うっス! あの人は、父さんの同級生なんです。だから、昔からよく知っているっス」


 私の問いに、七海ちゃんが答えた。

 なるほどね、だからお父さんに言いつけるって言われてたし、昔から知ってるから七海ちゃんの事をハナたれなんて呼ぶんだね。

 そして、七海ちゃんのバイクも知ってるだろうから、ショートカット犯が七海ちゃんだったって、すぐに分かったんだろうね。


 「あの人はズルいっス! 若い頃は、バイクや車で散々暴走してたくせに、私の事を口やかましく怒るっス!」


 七海ちゃんは噴飯やるせないと言った感じで言ってくるんだけど、私は思うんだよ。元をただせば、七海ちゃんが悪さするから怒られるんだし、あのおじさんは、若い頃に色々失敗してるから、身近な七海ちゃんの事が気になってるんだって事に。


 なんか、七海ちゃんには行かせられないところが多いような気がするなぁ……困ったなぁ……。



 

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『七海はなんで市役所の人に怒られるの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。

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