申請書類
翌日、朝のホームルーム前に私は七海ちゃんと沙綾ちゃんに、昨日朋美さんに言われた事についての話をしてみた。
「私、登録に関してもう少し先生に突っ込んで話を聞いてみたいと思うんだ」
私が言うと、腕組みをしながら考え込んでいた沙綾ちゃんが
「確かに、このプランを持ち込んだのは水野ですから、何らかの策があって然るべきだと思いますから、一度私達で膝を交えて話し合った方が良いと思います」
と言った。
すると七海ちゃんも
「そうしましょう! 化学の担当の男子に聞いたら、水野は訊かないと答えないタイプなので、疑問は逐一確認してるそうっス!」
と言った。
なるほど、教師水野は訊かれないと答えないけど、答えは準備している可能性はあるんだね。
じゃぁ、早速1限の授業の後にでも打ち合わせに行こうと思って2人に言おうとしたところ、七海ちゃんが
「そう言えば、今日、水野は出張で戻らないらしいっス」
と続けたので、私の計画は明日に持ち越しとなってしまった。
お昼休みに部室でお昼にしていると、3年生がやって来た。
3年生は1階の教室なので、いつもは私達より早くやって来ているのだけど、移動教室だったみたいでちょっと遅めになっていた。
部室に入って来た舞華ちゃんは、私の姿を認めると駆け寄ってきて
「あっ! 燈梨だぁ。今日も頬をスリスリしちゃお~!」
と言うと頬ずりをしてきた。
そして、それが終わるとお弁当の入ったトートバッグの中から何かを取り出してきて、私の方へと差し出した。
「これは?」
私が訊ねると
「クソ兄貴の奴が、ようやく見つけてきたんだよ。セフィーロ登録した時の申請書類」
とニコッとして言った。
どうやら、舞華ちゃんのお兄さんは転勤になり、引っ越しがあってバタバタしていたそうで、どこにこの書類が行ったのかが分からなくなっていたのだが、ようやく荷解きが終わってこの書類が出てきたのだそうだ。
3枚になっていて、申請書と見取り図のような車の図面、更には私にはよく分からない表などがたくさん載った書類だった。
私は嬉しくなって思わず舞華ちゃんの手を握ると言った。
「ありがとう。ホントに助かったよ!」
「いいって事よ。私も役に立てて嬉しいし、こんなクソ兄貴でも使えるものは有効活用しなくちゃね」
舞華ちゃんは明るい声で答えた。
すると
「マイ、あんな凄いお兄さんをクソ呼ばわりなんて、なんてバチ当たりなのっ!」
「うるさいやい! クソ兄貴だからクソ兄貴なんだよ。どうせその『凄い』だって、グレイトじゃなくてクレイジーの方だろうが!」
と優子ちゃんが噛みつき、舞華ちゃんが反論して、いつものように掴み合っていた。
お昼が終わり、教室に戻った私たちは、さっきの書類に目を通す事にした。
私にとって3枚目の表は、正直ちんぷんかんぷんだったので、1枚目の申請書に目を通していた。
これは、どういった理由で申請して、どのような内容の事を行っているのかを具体的に書いた物みたいだ。
内容は『変速機の変更』になっている。そして変更の理由は『操作性及び燃費向上のため』だって。燃費の向上のためって理由で良いっていうところが、ちょと微笑ましいかな。
「案外お役所って、そういうエコ的な理由も重視するみたいですよ」
沙綾ちゃんが言った。
そうなんだ。お役所受けの良い言葉も重要なんだね。
そして、概要の欄に『NA31には5速マニュアルの設定がありませんが、同一エンジンを採用するスカイライン(HNR32)に設定があるため、強度検討書は省略します』と書かれているね。
なるほど、こういうように理論立てていって書いた申請書を表紙に、2枚目3枚目の必要資料を添付して裏付けを取っていくような構成にしていけば良いのか。
私は2枚目と3枚目の資料にも目を通してみた。
さっきは何が書いてあるのかが分からなかった表だけど、申請書を熟読した後となると、何となくだけど、こういった内容の書類なんだろうなという想像はつくようになった。
あとは、これをトレースするだけで良いのかの判断なんだけど、これはさすがに教師水野に投げた方が良さそうだよね。
すると、今日は以前から言われているように警察署に行ってきた方が良さそうだね。
そんな事を考えていると、突然七海ちゃんが顔を近づけてきて
「ところで、今日の燈梨さんのすき焼き弁当はどうしたんっスか?」
「え!? あぁ、昨夜の残りだよ」
と訊いてきたので、私はそのまま返答すると
「ええっ!? 燈梨さんは、1人暮らしで夕飯すき焼きにしたんっスか?」
と言うので、昨夜のことを説明した。
すると、沙綾ちゃんと陽菜ちゃんも入ってきて
「ええーっ! 燈梨さんの家ですき焼きパーティしたんですかー? 超羨ましい」
「いいなー。私達も呼んで欲しかったですよー」
と口々に言ってきた。
「ゴメンね。急な話だったから、みんなに声掛けられなかったんだよ。それに、みんなの家でも、急にご飯要らないって言ったら迷惑でしょ?」
とフォローすると
「まぁ、確かに母さんに黙って急に無しって言うと怒られるっスけど、急でなければ大丈夫っス!」
と七海ちゃんが言い、他の2人も
「だったら、事前に打ち合わせて今度やりましょうよ~」
「私達で具材、用意しますから」
と言うので
「良いよ。私はいつでも」
とニコッとして言った。
そうだ、1人暮らしだと変なところに気を遣わなくてもいいし、気軽く友達を部屋に呼べるのも良いところだ。
こうやって、みんなと交流しながら部の事なんかについても打ち合わせできるのも良いんじゃないかと、私はおぼろげながら思った。
すると、陽菜ちゃんが
「それじゃぁ、これから月一で燈梨さんの部屋で夕食会にするのってどうです?」
「それ、良いですね!」
と言うと、沙綾ちゃんも喜んで賛成した。
そこに七海ちゃんが
「いや、週一にしましょう!」
と言うと、他の2人が
「それは、いくらなんでもやりすぎだよ!」
とツッコんだ。
私は、今までが一人ぼっちで過ごす事ばかりだったので、賑やかなのは好きだ。なので
「私はいいよ。賑やかな方が楽しいからね」
と思わず言っていた。
「それじゃぁ、2週に1回くらいのペースでやる……って感じにしましょうか」
「よし決まり!」
沙綾ちゃんがまとめて、七海ちゃんが乗ってきた。
私は、何故かこれを聞いて、何もかもが上手くいったような気分になって、とても嬉しくなってしまった。
そして次の瞬間
「それで、メンバーと第1回の開催日程はどうしましょう?」
と陽菜ちゃんが言って、急に現実に引き戻されたような気分になった。
「第1回は闇鍋がいいっス!」
「ダメ! ナミは絶対食べ物じゃない物を持って来るから!」
「そんな事ないっス! でも、甘いものとかを持って行くかもしれないっス!」
「ダメー!!」
いつの間にか、七海ちゃんと沙綾ちゃんが議題を仕切る事になっていた。
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