半地下要塞
物が退いてみて思ったのは、結構この後ろのスペースって広いんだね。
乗用車なら縦に3台で、2列だから6台入りそうだし、その後ろのもう1つの物の山みたいなのを片付ければ、もう少し何とかなりそうだね。
そして、気がついた事はもう1つあって、整備用に下に潜れる半地下のスペースは、かなり長いって事なんだ。
そうか、バスが入って整備する事を考えて作られたものだから、当然その長さ分掘られていたんだよね。
でもって、私たちが整備で入った時って、乗用車1台分くらいしかスペースがなくて、その奥には行けず、脚立が置いてあって上に上がるようになってたと思うんだ。
しかし、綺麗になった床には半地下にゴミが入ったり、車が誤って脱輪する事を防止するための蓋が後ろまでびっしりと敷き詰めてあった。
それを見た私は沙綾ちゃんを見ると、沙綾ちゃんも驚いた様子だった。
「これって……」
一言言って固まった沙綾ちゃんの様子を見た私は、これは、誰に聞いても反応は同じだと悟って
「みんな、ここの蓋を取るよ!」
と言って、上の蓋を外した。
途中で陽菜ちゃんが不用意に蓋を外した途端、突然ゴキブリが飛び出してきたり、ムカデやゲジゲジも出てきたりして、私はかなりビックリしてしまった。
ただ、みんなは、飛び出してきた瞬間こそ驚いていたものの、虫自体には特に驚いていなかったので
「みんな、大丈夫なの?」
と訊くと
「私たち、ここで育ってますから、このくらいのものはしょっちゅう出てきますよ」
と、塔子ちゃんがへらっとして言った。
私は、子供の頃からの環境への順応を思い知ると同時に、この地区にはこんなものが出るんだという事を知って、部屋の掃除は今まで以上にマメにやろうと心に決めた。
外してみると、そこには色々な物が詰め込まれていて、私たちが整備で使っているスペースとの境目には厚めの板が立てかけられていた。
地上が燃えるゴミが中心だったのに対し、こちらは廃家電とかの機械類が中心に押し込まれていた。
テレビや自転車、洗濯機の他に、見た事も無い機械がいくつも無造作に置かれており、一体何なのだろう? と思うほどカオスな状態になっていた。
思わず固まっていた私を見た沙綾ちゃんがクスッとして言った。
「こここそ私たちの出番ですね。みんな、いくよ!」
「ハイッ!!」
すると、みんなが半地下に飛び込んでいったので私も続こうとすると、沙綾ちゃんが
「ここは、力自慢でないとダメなんで、燈梨さんは上で選別してください!」
と言ったので、私は次々に運び込まれた物の選別をはじめた。
自転車はまだ問題なく動くものだったし、鍵もつきっ放しだったから、校舎との連絡用に置いておくことにした。
テレビは、電源プラグをパーツクリーナーで磨いて乾かしてから差し込むと、普通に映ったから、ガレージで使う用に置いておこうか。来年の文化祭の時にも使えるだろうし。
洗濯機も電源を繋いだら、電源は入ったので使えるみたいだ。恐らく、運転手さん達が使っていたのかな? なんかシンクの脇にロープが張ってあったから、あそこで干してたんだろうね。でも、これって、ここで使い道あるの?
私がそう訊くと、陽菜ちゃんが
「ツナギや、軍手を洗濯するのに使えますよ」
と言うと、沙綾ちゃんに
「ツナギは、ヒナちんだけでしょ!」
と言われて笑いが起こっていた。
でも、確かに軍手の洗濯に使えるから置いておこうか。
あと、この大きな機械類はなんだろう?
「これ、サンドブラストですよ」
陽菜ちゃんが言った。
どうやら、金属についた塗膜などを高圧で砂を吹きつける事によって落とす、工業用の磨き機みたいなものらしい。
そしたら動作するかを確かめて、これはステイだね。
そして、これはコンプレッサーだね。
先端にタイヤの空気入れみたいなのがついているから、バスのタイヤの空気を補充するのに使ってたんだろうね。これも使えるね。
「ここに、えっちな本があります!」
下から運び出した黒いビニール袋を開けた真由ちゃんが言った。
「えっちな本は要らないから捨てようか」
私は答えて、次々に出てくる機械類を沙綾ちゃんや陽菜ちゃんと見極めながら選別していった。
驚くことに、下に置かれていた機械類の殆どは使えるものとして残す事になった。しかも、買うと結構な額になる機械類や工具類で、何でここに置いて行かれたのかが不思議だった。
一番私達が驚いたのは、タイヤチェンジャーっていうタイヤをホイールから外したりつけたりする機械があった事なんだよ。
これがあるのは凄い事だって、陽菜ちゃんが物凄く興奮してたんだよ。……まぁ、確かにホイールごとタイヤ交換する事はしょっちゅうするけど、ホイールとタイヤに関してはプラモデルじゃないから簡単にはいかないな……って思っていて、でも、部の性格上、自分達で出来ると良いな……と思っていたところだったので、これは大きいよね。
そして、これらの機械類が揃ったところで次にしなければならないのは、これらを置く場所の確保だった。
レイアウトをどうしようかと考えた時、思い当たる場所が1ヶ所だけあった。
運転手さんが休憩に使っていたと思われる6畳くらいのスペースだ。あそこを片付ければ、機械類を置けるスペースが確保できるよね。また、ゴミらしき山になってるけど、もう、こうなったらと私は叫んだ。
「みんな、あそこのスペースもやっつけちゃうよっ!」
「おおーっス!!」
みんなの掛け声とともに休憩スペースにあった物も運び出された。
ビニールの中を見てみると、ほとんどが古い衣類だった。
迷わず捨てようか……と思ったが、私の中に1つのアイデアが思い浮かんだので
「ちょっと待って!」
と言っていた。
「どうしました?」
沙綾ちゃんが言ったので
「これ、全部切ってウエスの代わりに使おうよ」
と答えた。
今この部にあるウエスって、元々あった物を使い回しているので、油を吸っちゃったのを捨ててしまうと、どんどん減っていって、今や少しくらい油を吸っても洗って使っているんだ。
100均で買ってきたペーパータオルとかも使ってはいるんだけど、ウエスって案外、盲点なんだ。
みんなは、手に持った袋を見てぱぁっと明るい表情になって、次にハサミを持って来ると衣類を切り始めた。
集められた衣類はみんな着古しのトレーナーやTシャツばかりで、下着類が無かったため捨てるものもなくいけそうだった。
その間に私達2年生で、休憩スペースに敷かれていた畳を撤去して、綺麗に掃除を始めた。
畳は風通しが悪かったようで、すでに一部腐っていたので迷わずに捨て、撤去した後の床にはゴキブリの死骸があった。……畳には何かこぼしたようなシミが無数にあったし、きっとバスが運行されてた頃からこんな感じだったんだろうね。
掃除をしてから機械類を塗装ブース脇にレイアウトして、取り敢えず大まかなレイアウトはこれで決定したね。
見渡すと、今までにない広さに生まれ変わったガレージがそこには広がっていた。
「車も、詰めれば7台まで入れられるし、工具や、機械類まで手に入って、作業がはかどるよね」
「ハイ!」
私が言うと、みんなが返事をした。
その表情は凄く明るいものだった。
それでも、もう少し整理したいから棚はいるかな……。
そう私が思った時だった。
「燈梨先輩っ!」
振り返ると、真由ちゃんだった。
見ると、さっきの衣類が入っていたのと同じ黒いビニール袋を持っていた。
「どうしたの?」
「あの、そこにもえっちな本が入ってました……」
真由ちゃんが開いて見せた袋の中には、ぎっしりとえっちな本が詰まっていた。




