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雨降りと山崩し

 今日は朝から雨だった……。

 みんなの喜んだ姿が印象的な昨日の作業は、私の中でも印象的だった。

 やっぱり、普段は整備や練習走行に当てられるのが本来の部活なんだろうな……と。

 でも、今日はブレーキ関連でまだ到着していない部品があるために、手が付けられないのだ。

 なので、今日の活動をどうしたら良いのかについて考えていたのだ。


 お昼休みに部室でお弁当を食べながら考えていると、舞華ちゃんが来て


 「燈梨ぃ、なに眉間にしわなんか寄せてるの? ななみん達が非協力的だから、活動に支障が出てるのかぁ? こいつめっ!」


 と言うと、七海ちゃんにヘッドロックをして締め上げていた。


 「やめるっス! 私は何もしてないっス!!」

 「『何もしてない』だとぉ? 部に来て何もしてないから、燈梨が悩んでるんじゃないかぁ、このっ! このっ!」

 「違うっスー!」


 七海ちゃんの弁解が逆効果になって、余計舞華ちゃんに制裁を受けている姿を見た私は


 「違うの! 七海ちゃん達のせいじゃなくて、今日は作業することがないから、何をしようかを考えていただけなの」


 と言うと、舞華ちゃんは


 「だったら、それをみんなで考えれば良いだけだよ。今日は雨で運転練習もこっちの練習場でやるくらいしかできないし、今日は何をするか、1、2年生の意見を聞いてみれば良いんだよ」


 と、へらっとして言った。


 「私らの時だって、最初の頃はやる作業なんて無くて、悠梨が勝手に壁を塗ってたなんて事があったくらいだからね」


 と続けて言った。

 話によると、最初は部車もボロボロのスカイラインが1台だけしか無くて、競技に出るという目標もなく、しかも誰かしらが教習所に行っていて、全員揃わない日ばかりだったという。

 なので、部室に行ってもすることがなくて、ファッション誌を読んで終わり……とか、悠梨ちゃんがテレビを持って来てからはテレビを見ているだけ……とかいう日もあったそうだ。


 「なんでも良いんじゃない? 来年、どんな競技に出るって抱負を語り合うとか、部車の掃除とかね。でもって、ななみんめ『しりとり』とか言ったら、のこぎりでななみんの尻を切り取ってやるからな!」

 「そんな事、言わないっス!」


 舞華ちゃんが言って七海ちゃんが反論していた。

 そこで私は、ここにいるメンバーに案を募集した。


◇◆◇◆◇


 放課後、いつものように体操服に着替えた私たちは、昼に決を採った活動に入る事にした……って、その前に陽菜ちゃんだけ服装が違うよ。一体どうしたの?


 「えへへ……このツナギ。この間の日曜日に買っちゃったんです」

 「ええっ!?」


 みんなが驚いた。

 みんなが体操服の中、陽菜ちゃんのツナギ姿は一層際立っていて、そして眩しく見えた。

 どうやら、街には作業着屋さんがあるそうで、そこに行ったそうだ。なんでも、今はお洒落なツナギなんかも結構置いてあって、陽菜ちゃんのツナギは、確かに作業着なんだけど、修理屋さんのおじさんが着ている様なものではなくて、ちょっとお洒落な感じがするものだった。

 ありがちな白やグレーとかでなくカーキ色で、一見すると軍服っぽく見えるけど、生地や縫製がお洒落な感じで、ちょっと近所に買い物に出るくらいなら普通にいけそうな感じが良かった。

 それでいて動きやすそうなのもポイントで、なんかお洒落な陽菜ちゃんが着ている事も相まって、これで作業に限らずお洒落着の外しとして着ても良いマルチな感じに見えるのも面白かった。


 今日の活動は2班に分けて、部室とガレージの模様替えをする事にした。

 前々からそうだったんだけど、どちらも急激に増えた部員や部車に対応するために、ロッカーのようなインフラを無理やり押し込んだだけになっているため、いつか整理整頓したいと思っていたのだ。


 部室には以前から使われていなかった中二階があるため、そこを掃除して、あちこちに散っているロッカーをそっちに纏めて移動して貰うのがメインだ。

 でも、ロッカーを二階に運ぶなんて大掛かりな作業を任せて大丈夫なのか不安だったが、七海ちゃんが


 「任せてくださいっス! この程度くらいなら私とコイツらでチョイチョイっス!」


 と自信満々に言い、沙綾ちゃんも頷いていたため任せる事にした。


 私はガレージ班の方へと来た。

 前から思っていたんだけど、このガレージって、結構空間を無駄に使っているんだ。

 ここは元々バスが入っていたために長く、更にその後方には運転手さん達の休憩所になっていたスペースがあるから、通常のガレージよりも相当大きめなのだ。


 現在は、一番奥の隅は塗装ブースの小屋になっているので、それは良いとしても、本来、乗用車なら2台ずつ入るスペースの後ろ半分に得体の知れないたくさんのゴミのようなものが置かれていて、全く後ろ側が使えないんだよ。

 今後、部車の数が増えていく予定であることは教師水野からも言われているので、ここに少しでもしまっておける車を増やしておきたいんだよ。


 3年生に聞いたところ、ここに置かれている物は元々置かれていたもので、新たに運び込んだ物はないそうだ。

 しかも、今年の夏にエアコンが入った際も少し片づけて要らないものは捨てたけど、3年生の人数だけでは限界があったそうだ。


 今日は人数も多いので、まずは選別をして要らないものは外に放り出してしまおうと思う。

 雨が降っている中でそれはどうかと思ったけど、そうやっていると、片付かないよね。

 私は、ガレージの中に入っていたセフィーロと、スカイラインのGTS-tを外に出した。

 そしてガレージに戻ると、集まっている娘達のところへと小走りで向かった。


 「みんな、容赦なく運び出しちゃって!」

 「おおーーっす!!」


 私の号令でみんなが一斉に車の後ろのスペースにあったこんもりとした山から次々と物を運び出した。

 入口で沙綾ちゃんが要不要を見極めて、必要な物は入口付近にステイ、そして不要と判断されたら、ガレージ脇の木の下に移動させた。

 多くは大きなビニール袋で、開けてみると運転手さん達のだろうと思われるカップラーメンの容器とかばかりだった……どうやら運転手さん達は、きちんとゴミ捨てに行っていなかったみたいだね。確かにゴミ捨て場はガレージから少し離れてるけど、これは酷いよね……。


 その下にはタイヤがあった。

 でもこれって、トラックとかバス用の大きなサイズのだね。

 交換したバスのタイヤをこんな所に放置していったんだ。タイヤ屋さんに引き取ってもらえばよかったのに……。


 「酷いよね……」

 

 沙綾ちゃんが言った。


 これは学校側の怠慢と言われても仕方ないレベルだよ。バスを処分した時に、ここの片付けをきちんとやっていれば、こんな事にはならなかったのにね。


 沙綾ちゃんが言うには、このスクールバスの制度は以前の知事が、この学校をはじめとした県内のバイク/車通学の学校を狙い撃ちして、バス通学に切り替えさせようと始めた事だったんだけど、普及しない上に税金の無駄遣いと叩かれ、更には別の学校のスクールバスが事故を起こして生徒が死亡した事と、知事がバス会社からリベートを受け取っていた事が発覚したのが引き金になって、追い出されるように年度途中で廃止されたらしい。

 だから、きちんとした片付けなんてされていなかったそうだ。


 「どうやら水野がこのバスのガレージの起死回生の策として、自動車部の創部を学校に提案したらしいですよ」


 七菜葉ちゃんが言った。

 どうやら残されたガレージだけど、減価償却の観点から解体する訳にもいかず、かと言って転用できるかと言うと、工業科の無いこの学校では、それも難しくて、何年も放置されていたらしい。

 それに目を付けた教師水野が、新たなバス車庫の活用法だと学校にプレゼンして、この部が誕生したと言うのだ。


 まぁ、なんかこじつけのような理由だけど、なんにしても、そのお陰でこの部と恵まれたガレージが存在しているんだから、一応感謝するべきだよね。


 「燈梨先輩ー! 終わりましたー!!」


 遂に、物が全部退いたみたいだね。

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