表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/598

構造変更

 一昨日のパーティは、みんなに喜んでもらえて凄く嬉しかった。

 3年生も凄く感激してくれたし、現役生もみんなが準備を含めて参加してのパーティだから、嬉しさもひとしおだって、すごく喜んでくれていたんだ。

 文化祭もそうだけど、1年生も含めて全員参加のイベントっていうのが部活動の基本だと思うんだよね。


 そして、月曜日は3年生と一緒に第二練習場での運転練習をしたけど、やっぱり未舗装のダートコースでの運転は、車の挙動が舗装や校庭での走りと違って急に姿勢が崩れたりするから凄く大変だったんだよ。

 でもって、来年の私たちの時は、このダートトライアルの大会にも参加するって教師水野と決めたから、これから頑張って慣らしていかないとね。


 3台の練習車の中で一番怖いのはチェイサーなんだよ。

 元々、ハンドル切った時の感じがふわっとしていてちょっと切りすぎちゃう傾向があるのに、ダートコースで接地感が減って更にふわっとしているので、結構スッとハンドルを取られやすいんだ。

 絶対的に経験不足の1年生なんかでは、結構その傾向が顕著で、土手とかにボカボカとぶつかっちゃうんだよね。


 エアバッグをキャンセルして、4点ベルト付けて、ロールバー組んでおいて良かったよ。

 最初のままだったら、あっという間に使用不能になってたし、ケガ人だって出てたかもしれないからね。


 さて、3年生のいない火曜日の放課後、私は部室に皆を集合させて、ホワイトボードに今日の議題について書き込んだ。

 それは

 『セフィーロのナンバー登録及び車検取得』

 なんだ。


 このセフィーロは、現在あるナンバー付き部車のシルビアと共に、外部へと出る際なんかにも使える車にする予定なんだ。


 「でも、ナンバー取得と車検に関しては、シルビアでマイ先輩たちがやってますよね。今回では何か違うんですか?」


 1年生の真由ちゃんが手を挙げて訊いてきた。


 「そう、シルビアの時とは勝手が違います。今回は構造変更が絡みます」


 私が言うと、みんなから“ええっ”という声が上がった。

 さすが自動車部だけあって、この大変さが分かるみたいだね。私は教師水野から言われて最初はちんぷんかんぷんだったから、家に帰ってからネットや本で調べまくっちゃったよ。

 それでも、理解度としてはうろ覚えレベルなんだけど、みんなが知っているなら、話が早いね。


 すると、1年生の若菜ちゃんから手が挙がった。

 今日はこの時期には珍しくちょっと暑いから、若菜ちゃんが腕まくりしてるんだけど、こうすると若菜ちゃんがボディビル同好会にいたってのが納得できるね。

 ブラウスの袖の部分から出た腕の筋肉がちょっと露出して、そのたくましさと言ったら、まんまなんだよね。

 舞華ちゃんが、しょっちゅう『ポージングしてみせて』なんて言い寄ってくるのも分かる気がするんだよね。


 「コウゾウヘンコウってなんですか?」


 その言葉に、私の脳内では『知らなかったんか~い』って、思わずツッコんでいたよ。

 仕方ない、じゃぁ打ち合わせ通りここからの説明は七海ちゃんにやって貰おう。

 七海ちゃんはこの説明のために、構造変更について勉強しまくったみたいだから安心できるね。


 「このセフィーロは、元々オートマだったのをマニュアルに換えてるんだけど、この個体自体はオートマで届け出られているので、勝手に換えると違法改造になっちゃうんだ。それを届け出るのが構造変更だよ」


 七海ちゃんの説明にみんなが顔を見合わせて話したり、スマホの画面を見合っていた。


 「でも、黙っていればバレないんじゃないですか?」


 塔子ちゃんが言った。


 「それは感心しないね。部車という学校を代表するもので不正をやるなんてさ、良識を疑われるよ」


 沙綾ちゃんの表情は普段通りだったが、話し方には棘があって、確実に塔子ちゃんをチクッと刺すような言い方だった。


 「それに、検査官にも要注意車種リストみたいなのが回っていた時期があって、シルビアやマークII系と並んでセフィーロも載っていたから、昔からいる人だったら脊髄反射的にチェックするらしいよ」


 陽菜ちゃんが言った。

 さすが陽菜ちゃんはお父さんがセフィーロに乗っていただけあって、そういう裏情報に詳しいなぁ。

 

 その話によると、ドリフトブームの頃は色々な手頃な価格のハイパワーFR車がターゲットにされたらしく、シルビア系は高いためセフィーロやローレル、マークII系やソアラのような、中古車がだぶついて安い車に一斉に群がったそうだ。


 当初はその手の車ではマニュアルは人気薄で安かったから、みんなで取り合ったためにマニュアルの中古車が枯渇して高騰を始めると、今度はオートマ車に目をつけて、値下がりを始めたオートマ車を買ってマニュアルに載せ替える動きが出てきたんだって。

 そうなると、そもそもターボはオートマしかなかったローレルなんかもターゲットになって、載せ替え車両が溢れかえって、その中には構造変更をしないで、しれっとユーザー車検にやって来て通しちゃったりするのがいたために、20年くらい前に、全国の検査登録事務所に通達が回ったらしいよ。


 さすが陽菜ちゃんはドリ車事情に詳しいなぁ。

 将来はドリフト派なのかなぁ?


 「私は、サーキットでタイムアタック派です」

 

 そうなんだ。

 今だにお父さんはドリフト熱が冷めずに4ドアのR34スカイラインに乗ってるんだけど、お母さんに『その車壊したら、次はミニバンだから』ってずっと脅され続けて、ドリフトを封印して20年以上もたせてるんだって?


 私は、話題が横道に逸れている事に気がついて


 「それで構造変更の話なんだけど、問題は申請書類の件で、結構色々な書類があるために凄く煩雑になるんだよ。更に問題なのは……」


 私は言って、敢えて語尾を止めて反応を見てみた。

 みんなは凄く強張った表情で私を見つめるのでちょっと躊躇したが、大きく深呼吸すると


 「セフィーロのアテーサクルージングにマニュアルの設定が無い事なんだよ」


 と続けた。

 

 一瞬の沈黙の後に陽菜ちゃんが言った。


 「でも、先人達がセフィーロでの届け出をたくさんしてますよね。問題ないのでは?」

 「うん、でもそれは2WDのクルージングに関してなんだよ。あれは元々マニュアル設定があるから、載せ替えちゃっても設定があるからって言って、結構書類を省略できちゃうんだけど、アテーサはそうはいかないんだよ」


 私が問題点をズバリと言うと、再び室内はしんと静まり返った。

 しかし、その後で陽菜ちゃんが言った。


 「じゃぁ、ローレルは? C33以降のターボはオートマのみですよね、それはどうしてるんですか?」


 私はその話も想定していて、1枚の紙を出して見せた。

 それは教師水野から参考資料として貰ったC33ローレルの載せ替え時の書類だった。

 そこには『同一車体のA31セフィーロターボに5速マニュアルの設定があるため省略します』と書かれていたのだ。


 「ううっ……」


 陽菜ちゃんは突破できたと思っていたところが塞がれていたために、思わず言葉が止まって唸ってしまった。

 私は、それを見た上で少しスローテンポで、なるべく優しい感じで言った。


 「頼みの綱は、スカイラインGTS-4を引き合いにして同じ手が通用するか……なんだよね……ただ」

 「ただ!?」


 みんなが私の言葉尻に喰いついてきた。


 「やった事が無いから、これでいけるかが分からないし、それに、書類の作成が大変だよ」


 私は、みんなをガッカリさせないように言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ