2台の荷台
まぁ、手は引くとは言っても見捨てる訳ではないんだけど、サポートはやめる事にしたんだ。
そうしないと七海ちゃんのためにならないんだよ。
沙綾ちゃんの話によると、七海ちゃん自体は小さな頃から結構頑固な性質があったらしいんだ。
「ナミの奴は、最初は謙虚なんだけど、慣れていって自家薬籠中の物にすると、妙なプライドが発生してきて、変な事に固執するんだ」
そんな話をしていると、陽菜ちゃんが
「そうそう、七海っちはバイクの時も間違った運転の仕方なのに、変に拘ってやってたよね~」
と言って、七菜葉ちゃんが
「七海は空手の時もそれで揉めたじゃん」
なんて言って盛り上がってしまっていたので、どうやら七海ちゃんにはそういう性質が強くあるみたいだね。
そのみんなも、こうなった時の七海ちゃんの対処法としては、放っておくしかないと言っていたので、私の方法でしばらく様子を見ていくしか無いようなんだ。
七海ちゃんは、その後も何度か一発試験にチャレンジしていたようなんだけど、すべからく仮免で落ちてしまって、先に進めない様子だったんだ。
そんな七海ちゃんの話から数日が過ぎた自動車部にまたしても新たな活動の種がやって来たんだ。
お昼を部室で食べていたところ、若菜ちゃんが不意に
「先輩はこういうトラックをどう思いますか?」
って訊いてきたんだ。
そこには、青い色でボンネット型のちょっと旧いトラックが写っていたんだ。
私のイメージするトラックって、ワンボックスカーの前側みたいにボンネットが無くて、エンジンの上に座って運転するようなもので、ボンネットトラックなんて、師匠の別荘にあるダットサンくらいで、他には見た覚えが無かったんだ。
なので
「面白いと思うよ。4WDなんかではよくあるもんね」
と言うと、若菜ちゃんはニコッとして
「ですよね? それじゃぁ、部で使いませんか? 小物を運ぶのにピッタリですよ」
と言って、あたかも決定事項の様に日取りまで決めようとしていたので
「ちょっと待って! まずは先生に話してみてから……だよ」
と若菜ちゃんをなだめていると
「そうだよ若菜ちん。そんなトラックよりも、軽トラの方が便利だよ。という事で燈梨先輩は軽トラ、どうですか?」
と志帆ちゃんが言って見せてくれたスマホの画面には、青い軽トラックが写っていた。
ちょっと飛び出たボンネットっぽい出っ張りについたグリルには三菱のマークらしきものが見えるから、ミニキャブかな?
とにかく、若菜ちゃんの問題だけでも大変なのに、ここに志帆ちゃんまで参加されてしまうと、私の処理能力をオーバーしちゃって大変なので
「へぇ……凄いね」
と言ってとぼける事にしたんだ。
「ちょっと、燈梨先輩どうなんですか? 若菜ちんのよりも、ウチの軽トラにしましょう」
私は、志帆ちゃんに背を向けると耳を塞いで
「あーあー聞こえない聞こえなーい!」
と言って、昼休みは取り敢えずやり過ごしたんだ……。
「まったく、参ったねあの2人には~」
教室に戻る途中で莉緒ちゃんが言ったんだ。
「ホントだよ。いきなり部で引き取る前提で話してくるんだからさ、こういうのは私の一存では決められないって理解して欲しいよね」
私は、水を向けられて思わず怒りの丈を莉緒ちゃんにぶつけてしまったんだ。
それを見てニヤニヤしている莉緒ちゃんを見て、私は初めて部長としての苦しい立場を知っている莉緒ちゃんが、私に愚痴をこぼさせてくれた事を知ったんだ。
「そうそう、これはこの立場に立ってみないと分からないんだよね~」
そう言う莉緒ちゃんの表情はとても懐かしいようであり、また嬉しいようにも見えたんだ。
◇◆◇◆◇
「良いと思います」
ここのところ、滅多に部に顔を出さなくなった七海ちゃんに代わり、沙綾ちゃんと一緒に放課後に職員室に教師水野を訪ねたところ、開口一番そう言われたんだ。
「ホントに良いんですか?」
私はあまりに軽く言われた事にちょっと引っかかって聞き返すと、教師水野は驚いたような表情になって
「嫌なんですか? マイレージマラソン用のマシンのキャリアにもなるし、構内の物資運搬にも最適だと思うのですが……」
と私に言ったんだ。
どうやら、部車を運ぶキャリアカーでは、車輪幅などの問題からマイレージマラソンのマシンが載らないらしいんだ。
それに、いま構内の物資運搬に使っているムーヴは、元々散水車という役割で使っているために、後席や荷台スペースを汚してしまう事が憚られるし、それに、思いの外大物の荷物が載らなかったりするので、確かにトラックタイプの物資運搬車はあった方が良いかも……と思えてきたんだ。
「そうですか……嫌なのでしたら仕方ないですね……」
と、いつの間にか教師水野が正反対の結論にまとめようとしたため、私はストップをかけて取り敢えず返事を保留して、一晩考える事としたんだ。
「確かに、言われてみると色々使い道はあるんだよね……」
沙綾ちゃんが言った一言に、そんな意味があった事はその時の私には分からなかったんだ。
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