バーコードとショック療法
私は部活が終わって部屋に戻ると、沙織さんに連絡をした。
狙いは、今、紘一郎さんにやって貰っている教習所の体験入所に七海ちゃんを送り込む事だった。
「七海って、いっつも燈梨のそばにいるポニテの娘ね。そんなに頑固なんだ? そう、そういうタイプは外部からガツンと押さえてあげる必要があるかもね」
さすがこの辺のJKの駆け込み寺とまで言われた沙織さんだけあって、七海ちゃんの分析も鋭く、その対処法もすぐに提案されたんだ。
「そういう事だったら兄貴に言っておくよ。どうせだから、あたしが教官まで指定しておくからさ……」
沙織さんの語尾が妙にニヤリとした口調になっていたのを聞き逃さなかった私は訊いてしまった
「誰を指定するの?」
すると、沙織さんは口調でも分かる程、ドヤ顔になって言った。
「バーコードに決まってるじゃん!」
その名を聞いて、私は沙織さんの狙いがピンときたんだ。
紘一郎さんの会社が経営する向こうの県の教習所は、私も免許取得時に通っていたんだけど、生徒の中からひときわ恐れられていた鬼教官がいたんだ。
まぁ、あだ名から外見が大体想像がつくような壮年の教官で、恐らく警察のOBかなんかだと思うんだけど、やたらと確認動作や周囲への気配りにうるさい人で、それを怠ると容赦なく車を止めさせてたっぷりお説教されてしまうそうだ。
幸い私は入所前に卒業生である沙織さんと唯花さんからその話はたっぷりと聞かされていたので、その教官に当たった時も平常心で確認動作を行っていたために怒られる事もなく、いつもニコニコしていたので全くそんな印象はないんだけど、果たして七海ちゃんをバーコード教官と遭遇させるとどうなるのか……というところは私も凄く気になってしまうんだ。
◇◆◇◆◇
「あの四方って教官、マジで私の事が嫌いなんっスよー」
体験教習のあった翌日、ホームルーム前の教室で机の上に突っ伏していた七海ちゃんが忌々しそうに言ったんだ。
昨日の体験教習会に行った他の娘から聞いたんだけど、七海ちゃんの体験所内教習は散々なものになったそうだ。
「乗る前から安全確認を忘れて『実際の道路だったら、命が無くなるぞ! なにを考えているのかね』って怒鳴られてました」
その後も、教習中にブレーキを踏まれては、車内で懇々とお説教される……の繰り返しで、まともに教習車が走っていた時間の方が短いくらいだったそうだ。
これが私の狙いだったんだ。
私を含めた部内の人間が言う事だと、七海ちゃんのプライドが邪魔をして素直に聞く気にならないだろうけど、噂に聞くあのバーコード教官の熱血指導ぶりなら、七海ちゃんのちっぽけなプライドもあっという間に瓦解して、素直に自分の間違っているところを受け入れてくれるんじゃないかなって……。
でも、この様子だとあまりこたえてないように見えるんだ……失敗かな?
正直私の予想では、バーコード教官からカミナリが落ちる事によって、七海ちゃんがショックを受けると同時に、怒られた事を反芻していくうちに自分の至らなかった点に気がついて反省し、めでたしめでたし……だったんだけど、教官への恨み言なんか言ってるようだから、まだまだ足らなかったみたいだね……。
そこで、私はまたしても沙織さんに連絡をしたんだ。
「あははは、そんな事言ってたんだ。でも燈梨、作戦はまずまずの成果よ。あとはまた七海って娘をバーコードとドライブさせるの。これを七海って娘が根負けするまで続けるの」
沙織さんは笑顔すら浮かべながら言ったので
「そんな事言うけど、その前に七海ちゃんが逃げたらどうするの? 根負けどころじゃないじゃん」
と反論すると
「燈梨からの話を聞く限り、七海って娘が逃げ出すとは思えないんだ。とにかく、あたしに任せて、送り出しなさいって」
と自信満々に言うんだ。
私は、その沙織さんの言葉と自信に賭けてみたくなり、早速次の体験教習のメンバーの筆頭を七海ちゃんにして送り出したんだ。
「燈梨さん……自分の事が嫌いなんっスか?」
帰ってきた七海ちゃんは、私の姿を見るなりそう言って掴みかかってきたので、ツッコミの要領で払い除けると
「嫌いだったら、そもそも選抜メンバーに入れると思う? 七海ちゃんにも早く免許を取って欲しいっていう私の親心が七海ちゃんには理解できないんだね。悲しいよ」
と俯きながら言ってみせたんだ。
すると
「燈梨さんは自分の親じゃないっスー!」
と言って七海ちゃんが飛び掛かってきたんだ……けど、次の瞬間、沙綾ちゃんが割って入ってきて、七海ちゃんは壁に押し付けられしまったんだ。
「本っ当にバカナミね! 燈梨さんの親心が分からないなんて。本来この体験教習は1、2年生が対象なの! そこを曲げてやって貰ってるのに……」
沙綾ちゃんにお説教されてしまって、七海ちゃんのプライドはズタズタにされてしまい
「沙綾っちも、燈梨さんもサイテーだよっ!」
と捨て台詞を残すと七海ちゃんは一目散に部室を飛び出して帰っていってしまったんだ。
手詰まり感を感じて絶望の淵に立たされていた私は、次の日にあんなことが起こるなんて夢にも思っていなかったんだ。
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