乗ろうと思う
そう、確かにノンターボでも溢れるパワーがあるみたいなんだ。
ボンネットを開けてみて驚いたのはその軽さだった。
「アルミボンネットだね~」
柚月ちゃんが言った。
この型のフェアレディZは、バブル絶頂期の登場だけに素材にこだわり、しかも、そのコストに糸目をつけなかったそうで、車載工具のジャッキにもアルミを奢り、更にはキーはチタン製にするなど、オーバークオリティとも言えるこだわりっぷりだったそうだ。
そこに鎮座するエンジンは、その形状からまぎれもなくV6エンジンなんだけど、明らかに見せる事を意識してデザインされたのではないか? と勘繰りたくなるほど綺麗に、そして適度にカバーを剥き出しにしたエンジンだった。
『V6 3000』の文字が描かれている中央のカバーは、文字の背景が赤でなく黒だという事からノンターボだと判別できるそうだ。
しかし、それにしてもエンジンルームの詰まり具合は凄いもので、なるほど、この詰まっているエンジンルームこそが熱を逃げ辛くしている元凶なのではないかと容易に想像できちゃうんだよ……。
綾香の乗るNXクーペとは直接の関わりもなく、デザインに関しても意識した訳でもないと言われているけど、この2車はとても似通っている。
半円型のルーフやTバールーフ、更には同じイエローパールのボディカラーまでもが、この2車をとても関連付けて見せてしまうんだ。
そんな事を口にすると
「まぁ、アメリカで売る車だからね。そういう所を関連づかせたかったんだよ」
舞華ちゃんがズバリと言ったんだ。
よくある話みたいだけど、小さな車に上級車のエッセンスを与える事は珍しくないそうだ。
「燈梨燈梨ぃ、ちょっと乗ってみようよぉ」
と舞華ちゃんに手を引かれて運転席に座ってみると、私のシルビアよりも遥かに低いシートのポジションと、その独特の形状のシートの織りなす不思議な空間に驚いたんだ。
私のシルビアだって実用車に比べれば圧倒的に低いポジションなんだけど、やっぱり本格的なスポーツカーとなるフェアレディZのそれは更に突き詰められており、まるで地面に直接座っているかのような錯覚を覚えてしまうほどだった。
でも、ダッシュボードの造形なんかを見ると、まるでS13のシルビアのそれに似た、スポーツカーの特別感よりも使いやすさに重きを置いたそれに見えるんだ。
「時代だろうねぇ、バブルの頃って、特別感よりも現代感が求められたらしいからね」
舞華ちゃんはニコニコしながら言った。
確かに、メーターフード脇にデジタル表記で纏められた空調のスイッチや、なだらかに傾斜したセンターコンソール周りなんかは、確かに現代っぽいイメージを与えるよね。
こういう所に時代の変遷が見て取れるんだね。
「さぁ燈梨、今からこのZで私とキャッキャウフフなドライブに行こうよー」
不意に言った舞華ちゃんが、助手席からキーを捻ろうと乗り出したところ、背後から柚月ちゃんが舞華ちゃんを羽交い絞めにして
「マイ~! 私たちはもう行かないと~!」
と言って車外へと連れ出したんだ。
「柚月め! パンツだけで済むと思うなよー!!」
と言う声を残して2人は去っていったんだけど、私の興味はやっぱり尽きずに、Zのあちこちを見たり触れたりしていたんだ。
すると、開いていた助手席のドアから莉緒ちゃんが乗り込んできて
「それじゃぁあかりん、取り敢えずこの辺を一周といこうかぁ」
と言うので、私は
「良いの?」
と莉緒ちゃんの顔を上目遣いで覗き込んで訊いたところ、ニコニコとしながら
「良いに決まってるだろ~。ダメだったらそんな事言わないよ」
と言うので、私は早速キーを捻ってエンジンをかけると、暖気をしながらエンジン音を聴いてみた。
さっきも聴いてはいたけど、外から聴くのと中からとではまた違った感じの音になっているのは、いつも思うんだけど車の不思議なところだった。
外からと中とで最も違うのは、外からだととっても静かで、とても大パワーを感じさせないものだったけど、中ではその息吹と言うか荒々しさのような、車本来の性格を体現するような音とフィールが感じられるんだ。
今まで私の乗ったスカイラインやサファリに搭載されていた直列6気筒とは違い、このフェアレディZはV型6気筒エンジンなのでサウンドやフィーリングも独特のものだとは聞いた事があるんだけど、確かにその音には独特のものを感じる事ができるんだ。
私はその独特な音質に聴き入っていた。
スカイラインの直列6気筒、RBシリーズのエンジン音はGT-Rを含めてすべて聴いた事があり、シングルカム、ツインカム、ツインカムターボ、2500、そしてGT-R用のRB26DETTすべてが違う音を奏でている、それぞれに違うジャンルの音楽を聴いているような、そんな心地良い音だったし、サファリのTB42エンジンは、荒々しさを感じる和太鼓の乱舞のような漢らしさを感じさせるものだった。
でも、このフェアレディZのそれは最低限の重厚感にビートの軽さをマッチさせたような本当に独特な音で、私の興味を掻き立てるのに充分な音色だったんだ。
なので私は目を瞑って、思わず聴き惚れてしまっていたんだ。
しかし、空気感の違いにハッとして目を開けてみると、ジト目になった莉緒ちゃんがいて
「そろそろ行かない?」
と言ったので、私はフェアレディZを出発させたんだ。
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