作戦勝ち
「どんな車を手に入れたの?」
私は脊髄反射的に聞き返していた。
すると、莉緒ちゃんは相変わらず周囲を気にして苦笑いを浮かべながら
「そんな大声で問い詰めるなって……あのね、伯父さんが乗らないからってくれたんだよ……」
と言ったんだけど、肝心な事に答えて貰っていないんだ。
そうこうしているうちに学食は混み始めて、私たちは空いたテーブルを占領している訳にもいかなくなったので、その場はお開きとなった。
次の時間は選択授業で、七海ちゃんと莉緒ちゃんとは別の授業になってしまったために続きを聞く事はできなかったんだ。
「一体、莉緒ちゃんはどんな車を貰ったんだろうね」
私は、実験中の待ち時間にふと漏らしたところ
「どうせアルトとかじゃない?」
と沙綾ちゃんが熱のない様子で言ったんだ。
なんか沙綾ちゃんは莉緒ちゃんの車には興味が無いような感じだね。
すると、七菜葉ちゃんが
「沙綾っちは冷たいな~。自分がアルトだったからって、同じにするなよな~」
と茶化しながら言ったんだ。
そう言えば、七菜葉ちゃんは莉緒ちゃんと小学生の頃から仲が良かった事を思い出し
「ところで、莉緒ちゃんの伯父さんって、どんな車に乗ってるの?」
と訊くと、七菜葉ちゃんは首を傾げながら
「莉緒っちのおじさんって、東京に住んでるからそんなに会った事ってないんだよね~。だけど、前に見た時はフーガに乗ってたよ」
と言った。
すると、莉緒ちゃんはそのフーガ貰ったって事かな?
「でも、莉緒の家でアクセラ乗ってるからフーガなんて貰わないんじゃない?」
沙綾ちゃんが私たちの話を冷静に判断してボソッと言ったんだ。
確かに、その状況だと莉緒ちゃんじゃなくて、莉緒ちゃんのお父さんが貰いそうだよね。
結局、私たちのモヤモヤは解消されないまま、授業を終えて教室へと戻ってきたんだ。
すると、ちょうど授業を終えた七海ちゃんが戻ってきたんだ。
「ナミ、どうだったの? 莉緒から聞き出せた?」
沙綾ちゃんが横目で七海ちゃんを睨みながら訊くと
「いやぁ~、それが授業中逃げ回られちゃってさ、聞くどころの話じゃなかったよ」
と頭を掻きながら言っていた。
どうやら、莉緒ちゃんは私たちからの質問攻めを嫌って逃げの一手に出てるんだね。授業が終わって七海ちゃんは教室に戻ってきてるのに、莉緒ちゃんは全然戻ってくる気配がないもんね。
結局その日は莉緒ちゃんは部活に来なかった。
恐らく、車が来るまで秘密にしておきたいんだと思うんだけど、そうなると、私たちを驚かせたいんだと思うからフーガとかアルトみたいな典型的な『お下がり』感がバッチリな車じゃないって事なんだろうね。
一体何なんだろうなぁ?
「なんか、秘密にされると知りたくなるっス!」
部活の終盤に七海ちゃんが言った。
「でもって、本人がいないんじゃ知る方法なんてないじゃん」
私がボソッと言うと
「じゃぁ、見に行ってみる?」
と七菜葉ちゃんがニヤニヤしながら言った。
◇◆◇◆◇
結局、私はバイトがあるから参加できなかったんだけど、昨日あれから七菜葉ちゃんの提案に乗った七海ちゃん達は莉緒ちゃんの家まで行ってそれらしい車を探し回ったそうだ。
「見つからなかったっス!」
朝一番にやって来た七海ちゃんが開口一番言ったんだ。
私はそれを聞いてまぁ、そうかもね……と思った。
よく考えてみれば、あんな勿体ぶってみせたところから見て、家に車があるとは思えないんだ。
何故なら七菜葉ちゃんがああいう性格だって事も知ってるだろうから、みんなが知りたがれば、七菜葉ちゃんが調べに来ることくらい容易に想像できるからね。
恐らく、莉緒ちゃんの車がなんなのかを調べる事は、当人の警戒レベルがあれだけしっかりしているのでまず無理だろうから、そこまで勿体つけたがる車って何なのかを考えた方が面白いと思った。
なので、私は言った。
「どうせ、本人の周辺を調べても分からないだろうから、そんな事するよりも、どんな車なのかをみんなで考えてみようよ」
すると、七海ちゃんも
「確かに、あと何日かすればどうせわかる事だし、そんな無駄な労力かけるなら、燈梨さんの言う通り当てっこした方が楽しいっス!」
と言って乗ってきて、それに続いてみんなも私の考えに賛成してくれたんだ。
「ハチロクとシルビアは、燈梨さんと被るから外すとして、他にインパクトのある車ってなんっスかねぇ?」
七海ちゃんが考え込んでいると
「シルビアはシルビアでもイチゴーとかじゃないですか?」
と若菜ちゃんが言った。
確かに、これならだれとも被らないし、インパクトもあると思うんだよね。
しかし
「却下っス! 面白味がないっス!」
と七海ちゃんがバッサリと斬って捨てた。
なーんか、七海ちゃんの採点が厳しいなぁ、それに、七海ちゃんは面白くしたかったんだね。
その後もロードスター、コペン、ビート、カプチーノ……と、色々な意見が出たんだけど、気がつくといつの間にかオープンカー縛りみたいになってきちゃったんだ。
みんなで意見を出し合って、それを採点してみてワイワイと騒ぎながら考えてみるのって正直、とても楽しくて、実際の車を目の当たりにするのよりも楽しく思えてきちゃったんだよ。
実際に若菜ちゃんや志帆ちゃんからも
「なんか、こうやって考えてる時間の方が楽しくないですか?」
なんて声が聞かれたから、きっとこれって最近停滞気味だった部の空気を変えていこうという莉緒ちゃんの作戦だったんだろうね。
そして、その車がベールを脱いだ時、私はその意外な姿に驚きを隠せなかったんだ。
お読み頂きありがとうございます。
『続きが気になるっ!』『燈梨は何に驚いたの?』など、少しでも『!』と思いましたら
【評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。
よろしくお願いします。




