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完成と憂鬱

 私は思いついたインパクトのあるブースに関しての案を出したんだ。


 「シルビア・コンバーチブルの幌の開閉ショーをやるんだよ。そうすれば、遠くからでもアイキャッチになるし、それ見たさに足を止める生徒も出てくると思うんだ」


 私の案はこうなんだ。

 この部活勧誘に関しては、新入生全員が一斉に会場になだれ込むと思わぬ事故が起こる懸念から、20分ごとに1クラスを送り出す……という方式が採られているため、アピールタイムは複数回あるのだ。

 だから、電動トップであるシルビア・コンバーチブルの幌の開閉なら、何度もできるために、アイキャッチのためのショーとしては結構効率的に人集めができるんじゃないかと思うんだ。


 「でも、バッテリーを喰うんじゃないっスか?」


 いつもならイケイケの七海ちゃんが珍しく消極的な事を言った。

 確かに、このシルビアは復活させた時にみんなで面白がって幌の開閉を何度もやっていたら、バッテリーが上がっちゃった事があったので、その時の事が記憶に残ってるんだろうね。


 「それに関しては、若菜ちゃんたち新2年生を動員して充電器を稼働させておけば、対応できると思うんだ」


 実は、舞華ちゃん達が、卒業する前にガレージの徹底的な掃除をしてくれて、その際に戸が固着して開かないロッカーを開けてくれたら、中からバッテリーの充電器が出てきたんだ。

 それを使うと、あがったバッテリーも復活するから、それでいくつかのバッテリーをローテーションさせていけば、この勧誘の時くらいは凌げると思うんだ。

 それに、エンジンはかけて良いって言われてるから、バッテリーあがるようなほど、電圧が低下するとも思えないんだよ。


 取り敢えず、展示車は、成果として競技車1台とCR-Xで、それにスターレットとコンバーチブルを加えて決定しちゃったんだけど、あとは、どの車をテーブル車にするかだね。


 「そのまま、シルビアにテーブルもやって貰うってのはどうなの?」

 「人だかりになると大変だから、ダメっスよ!」

 「でも、これ以上、車は増やせないでしょー」


 などと、みんなであれこれと試行錯誤して意見を出し合いながら話を進めていくと、あっという間に時間は過ぎていったんだ。

 結果、競技車の展示は場所を喰わないエッセを展示する事にして、テーブル車は、場所の節約のために、当初の予定通りシルビアでいく事にした。

 ただ、オープンにする際にカバーを開閉させるから、その動作をやった上で干渉しない位置にテーブルを置くために、実験を重ねていく事になったんだ。


 すっかり新入生勧誘ブースの話もまとまって、あとは装飾及び、万一、当日が雨だった際の第2のシミュレーション作りに余念がなかったある日、私の部屋に荷物が届いたんだ。

 とある家電量販店から届いたそれを慎重に開けていくと、そこにはこの数年、品薄で入手困難なゲーム機が入っていたんだ。

 見てみると、全くの未開封品で、間違いなく電器屋さんから私の元へ直に送られてきたものなんだけど、不思議なのは私は全く申し込んでなんかいないのだ。


 身に覚えの無いものが部屋に送られてきて、正直、キツネにつままれたような気分になり、気持ち悪かったので、舞韻さんや沙織さんにLINEしたところ、直後に沙織さんから電話がかかってきた。


 「それ、フォックスの仕業よ」

 「ええっ!?」


 どうやら今は北海道に住んでいるコンさんが申し込んだのだというのだ。

 コンさんや沙織さんの師匠は、滅法ゲームに目が無くて、以前からコンさんに名前貸ししてあちこちの抽選販売に申し込みして欲しいと頼んで申し込んだところ、コンさんの名前で2台、自分の名前で2台当たってしまったそうだ。


 「あたしの所にも、師匠から1台回ってきたから、燈梨のはフォックスが贈ったのよ。せっかくなんだから、有難く貰って遊びなさい」


 沙織さんは何故かニヤニヤしているような声で言った。


 私のイメージするよりもずっとゴツいゲーム機の設置はあっさりと終わり、ソフト同梱版だったので、ソフトのダウンロードに時間がかかったけど、それでも翌朝には遊べるようになっていた。


 私は、子供の頃からあまりゲームで遊んだ記憶が無い。

 母さんは私に関心が無いけれど、生活態度などには厳しかったので、ゲーム機や自転車などは与えて貰えなかったのだ。


 ただ、コンさんと一緒に暮らした半年間の中で、私が免許を取って以降は、運転の感覚を覚える練習としてやってみたり、首都高をよく通るためにその地理と特徴を覚えるためにそういうゲームを始めてみたところ、結構ハマっていた時期があったんだ。


 でも、こっちにやって来る時にどさくさ紛れに持ってきたコンさんの古いゲーム機は、調子が悪くなって読み込まなくなったために、以後はテレビ台のオブジェとしてあるだけの存在になってしまったのだ。


 そんな事を思い出しながら、ゲーム機のスイッチを入れる。

 コントローラーがワイヤレスになっている事に驚きを感じる私は、きっと今時のJKの感覚とは相当にズレているに違いない。


 ソフトが立ち上がって、ゲームが始まっていくんだけど、その独特の世界観に私はすっかり引き込まれていったんだ。

 手持ちの少ないポイントで車を買って、レースに出て、ライセンスを取って、何故かカフェのマスターに出されるミッションをクリアして……というルーティンを繰り返していくものだったんだけど、なんか、限られた予算で車を買って競技に出る感覚は、部の活動に通じるものがあるんだよね。


 予算の関係上、最初に中古車屋さんで買えるのは型落ちのアクアとフィット、更には現行だけど名前が無くなったデミオの3台しかなかったんだ。

 私はこの3台なら、マニュアルの無いアクアとフィットはパス……という以外にも、ジムカーナなどにも参加していて、結構速い事を知っているので、デミオしか選択肢はなく、迷わずに最初のマイカーとして選んだんだ。……あと、個人的に色もブルーで好みだったかな。


 早速レースに出たり、ライセンスにチャレンジしているうちに、私はすっかりハマり込んでいる自分がいる事に気付いたんだ。

 驚いたのは、まるで映像かと思うような綺麗すぎるグラフィックや、デフォルメされている点も感じられるけど、結構、リアルな操縦性とか、なかなか面白いんだよ。

 少しずつ進めていって、ある日中古車屋さんを覗いた私は、そこにある車に釘付けになったんだ。


 「S14……あるんだ」


 そう、そこには私が乗るのと同じS14シルビアがあって、それが前期型だっていうのも、私的にポイント高かったんだ。

 中期型で無いっていうのと、中古なので色が選べないのが残念なんだけど、これがある事に意義があると思った私は、中古の国産車としてはちょっとお高めの値段分、ポイントを貯めてようやく入手に成功したんだ。


 そのS14にはサンルーフとリアワイパーが付いていた事で私は大喜びして、これから、このS14になにをしようかな……と思ってウキウキしていたんだ。


 しかし、その時にふと頭をよぎったのは、実車の自分の車に、ここまでの思いで接していたかという事なんだ……。


 

 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『燈梨はゲームから何を学んだの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。


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