決戦前日
あれから、10日ほどが経った。
遂に耐久レースへと出発することになったんだ。
事前に2泊すると言われていたので、準備をして、当日は午前10時の出発との事だったので、待ち合わせの場所で七海ちゃんと沙綾ちゃん、陽菜ちゃんを乗せると、学校に向かった。
みんなバイクがあるからそれで行くと言ったのだが、それは無駄が多いと思ったのと、バラバラに行って事故が起こる事を懸念して、私の車と、3年生が3台車を出してくれるので、それに分乗して向かう事で話し合ったんだ。
学校に到着すると、既に学校のバスと、エッセを積んだトラックが既にスタンバイしていた。
生徒用の駐車場に車を置いて、そちらの方へみんなで向かっていると、舞華ちゃんが
「おっはよ~! 燈梨ぃ、今日から楽しい旅行……じゃなかった、レースを楽しもうねぇ~!」
と言って抱きつくと同時に頬を擦りつけてきた。
私は、不安でもあるが、それよりもワクワクする気持ちの方が大きかったので、ニッコリすると
「うんっ! おはよっ、私たちも頑張るね」
と言った。
すると舞華ちゃんは、なんか顔をしかめて合図をしたので、私は瞬時に背後に意識を集中した。
すると
「諸君、今日から待ちに待った、耐久レースが始まる。本番は明日からだから、気負うことなく今日はリラックスしてくれたまえ」
と言う声とともに教師水野が現れた。
あぁ、やっぱりだ。私以外の2年生は唐突に現れたもんだから、みんなびっくりしちゃってるよ。
この間、舞華ちゃん達とも話して、私と七海ちゃんと沙綾ちゃんでお願いした時は『了解した。自分でも気を付けているつもりっだったが、善処する』って、言ってたのになぁ……。
私たちは学校のバスに乗り込む。
運転は……運転手さんがいるんだ。
「燈梨ぃ、私の隣に来なよぉ~……なんだ柚月め! しっしっ!」
舞華ちゃんは、私を連れて後ろの席にそそくさと移動すると、やって来た柚月ちゃんを追い払おうとしている。
私は
「可哀想だよ。みんなで一緒に座ろうよ」
と言うと、舞華ちゃんが言った。
「燈梨は優しいね。でも、柚月になんか情けをかけても後で仇で返されるのがオチだよ。今夜宿でパンツ脱がされるかもしれないよ」
「パンツ脱がすのはマイだろ~!」
「なんだと柚月、やるのかぁ! このっ! このっ!」
と、いつの間にか舞華ちゃんと柚月ちゃんが掴み合いになってしまった。
その間に、私の後ろから手が伸びてきて
「燈梨さんっ! 今ですっ!!」
と言う声と共に、一気に前方の席まで連れていかれた。
私を捕まえているのは沙綾ちゃんと陽菜ちゃんだった。
「3年生と一緒にいると、マイ先輩とズッキー先輩の掛け合いに巻き込まれるから危ないですよ」
陽菜ちゃんが声を低くして言った。
そうこうしているうちにバスは出発した。
私は車内を見回して、陽菜ちゃんに聞いた。
「先生がいないんだけど、どこにいるか知らない?」
「水野は、後続のトラックに乗ってますよ」
と陽菜ちゃんが答えた。
話によると、私が転校してくる前から決まっていた事みたいで、車載用のトラックは、全長も長めで、車を積んでいるためにブレーキの効きや、アクセルの反応も良くないため、運転歴が1年未満の生徒が運転するのはさすがに危険だという判断になって、先生が運転手役を買って出たそうだ。
ナビゲーターは、2、3年生で交代になっていて、今は3年生の結衣ちゃんが担当してるらしい。
私は、疑問に思った事を口にした。
「あのトラックって、学校にあったの?」
「あれはレンタカーですよ。本当は学校でもあったらいいなっていうのはあったみたいっスよ」
と、後ろの席から七海ちゃんが言った。
どうやら、学校でも除雪車なんかを整備に学校外に持ち出す時とかに、ああいうのがあったら……とは思ってたけど、そのためだけに買うのは勿体ないって話だったんだって。
でも、自動車部が部員も増えて、今後、成績も残していくんだったら、合同って事で買うのも良いんじゃないかって話が出てるらしい。
◇◆◇◆◇
高速のサービスエリアでお昼にすると、沙綾ちゃんが教師水野のトラックの助手に行ったため、2年生エリアは少し寂しくなった。
ふと後ろの3年生エリアを見ると、なんかみんなの表情が死んでるような気がするんだよ。
「フッフッフッ……ほとんどの3年生は部の大会とかで学校のバスに乗ったことが無いから、地獄エリアへと足を踏み入れたっス」
と、七海ちゃんが不敵な笑みを浮かべながら言った。
「どういう事?」
「このバスの最後列の席は、歴代運動部の猛者どもが指定席として使っていたため、汗が染みこんでメッチャ臭いんです。しかも、エンジンの真上だから蒸れて据えた臭いがこみ上げてくるんです!」
それじゃぁ、知らせに行ってあげなくちゃ……と思って立ち上がろうとした私の腕を七海ちゃんが掴んだ。
「燈梨さん、ダメっス! あそこからマイ先輩とズッキー先輩を脱出させると、また暴れ出すっス! このまま現地まで無力化させておくっス!」
「そんなぁ~」
私は、舞華ちゃん達にこの事を伝えようと、口で息を吸いこんだところ、七菜葉ちゃんに持っていたお菓子を詰め込まれた。
「むぅぅぅ~」
「さぁ、燈梨さんもおやつにしましょうねぇ~」
「燈梨さんでもそれは許さないっス。ズッキー先輩たちには、到着まで大人しくしてもらうっス!」
七海ちゃん達に囲まれたまま、次のサービスエリアまで行くと休憩になった。
あーあ、バスから降りるなり、七海ちゃんが舞華ちゃんと柚月ちゃんに捕まってどこかに連れて行かれちゃったよ。
七海ちゃんったら、あんなことするからだよ。
トイレに行ってからバスに戻ろうとした時、隣に止まっているトラックに目が行った。
荷台に載ったエッセは、外観はさほど変化していないにもかかわらず、すっかりレースカーの雰囲気を出している。
私は、この部の楽しさが凄く分かった。
なに変哲ない車を、みんなの手でレースカーに仕立てていく事によって、作業の達成感と、車に対する愛情、自分が仕上げに関わったという誇りも同時に芽生えてきて、自分達は運転しなくても頑張ろうという気分になってくるのだ。
今、こうして止まっている姿を見ているだけでもそう思うのだから、明日、実際に走ったとしたら、その感動はもっと大きくなるのだろう。
私は、思わず武者震いしてしまった自分に気がついて、恥ずかしくなって周りを見回してしまった。
バスの中に戻って外を見ていると、周囲の人たちが、荷台に積まれたエッセに注目しているのが見えて、私のプライドが満たされていくのを感じてしまった。
明日が待ち遠しいなぁ……心からそう思った。




