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冬の始まり

 結局、スターレットの話はうやむやになったまま1週間ほどが過ぎた。

 その間も、ダート車のパルサーと、練習車のミラージュの2台の載せ替え車に関する基本整備や、練習なんかでみんな持ちきりだったから、特にスターレットに関する待望論も出てこなかった。


 教師水野も


 「これから本格的に凍結するシーズンに入ると、スターレットのターボはまともに走らせられないぞ」


 と言っていたので、それは間違いない事だろうね。


 今週に入っての大きなニュースは、教師水野がミラージュのジムカーナ用の足回りとタイヤを用意してくれたため、オンロードで本格的な練習走行ができるようになったんだ。

 今までのミラージュの足回りはダートスペシャルなので、使えないわけではないけど特性が違って味付けされているらしいし、タイヤも、明らかにパターンがゴツゴツしたオフロードっぽいタイヤで、まるでサファリのタイヤみたいだったのだ。


 タイヤもオンロード用のを用意したみたいなんだけど、もうすっかり雪が降る季節になってしまったため、当面はスタッドレスでの練習になると言われて、みんなでスタッドレスへと履き替えた。


 履き替えをしている最中


 「そう言えば、燈梨さんはタイヤの交換しました?」


 と、七菜葉ちゃんに訊かれたので


 「うん」


 と答えた。

 まだパルサーの載せ替え作業をやっていた2週間前、休日に沙織さんと、唯花さん達4人が訪ねてきて


 「燈梨。降るより前に履き替えておきなさい」


 と、みんなで交換したのだった。

 私は、北海道で育ったけど、元々自転車すら乗っていなかったため、タイヤの交換に対する知識も関心も皆無で、ニュースで見てから『そんな季節になったんだ……』と思う程度だったのだ。

 だから、降った日の朝に交換すればいいのかと思っていたので、口にしたところ、みんなは爆笑し、ミサキさんから


 「燈梨ちゃん。朝タイヤ交換してから学校行ったら、汗かくし、汚れるわよ。それに、そんな早起きしたいの?」


 と言われてしまったのだ。


 そんな事を思い出していると、私たちの話を聞いた七海ちゃんが


 「いいっスね~車は。私らバイク勢は、タイヤを替えても安心できないっス!」


 と言った。

 それによると、バイクにもスタッドレスタイヤは存在し、みんなは履き替えているのだけど、それでも突然の凍結なんかでスリップすると、あっという間に転んでしまうのだそうだ。


 「一部、冬の間だけバス通学に切り替える生徒もいるっス」


 そうなんだ。

 冬タイヤ談義になったところで、私はこの間、部活動の役職者会議で出た話を思い出したので、その事についてみんなに言った。

 

 「みんな、生徒指導部から話があったのは、冬場に定期的にやってるタイヤチェックに関して、今年から自動車部にも何らかの形で参加して欲しいって事なんだ……」


 すると、みんなの表情が如実に曇り出した。


 「ええ~!? クソ寒いのに、みんなのバイクや車のタイヤを片っ端からチェックするんですか? マジ嫌なんですけど~」

 「今まで通り、生徒指導部と生徒会にやって貰いましょうよー!」


 そして、一斉にブーイングが始まった。

 なるほど、この嫌がりようはよっぽど面倒で嫌な仕事なんだね。

 しかし、この勢いに飲まれてばかりはいられないので、私は七海ちゃんの方をチラッと見ると、七海ちゃんは頷いて


 「静まれぃ! 第二練習場や、部費の追加なんかで学校には色々便宜図って貰ってるんだよ。何もしませんって訳にはいかないの!」


 と、みんなをピシャリと(しず)めた。

 こういうところを見ると、やっぱり七海ちゃんって、格闘系女子生徒に圧倒的な影響力を持ってるんだなって改めて感心しちゃうね。


 そう、この件については、随分前に3年生が生徒指導部や生徒会と話しをつけてくれていて、私は、その後の決定事項を話すつもりだったんだけど、あまりに反発が強かったので、七海ちゃんの出番となったのだ。

 そして、七海ちゃんが私に合図したので、話を代わった。


 「それで、既に3年生が話を纏めてくれたんだけど、月一のタイヤチェック活動は、自動車部が率先してやる事にした代わり、自動車部のチェックは4輪車限定って事にして貰ったから」


 これって、とても有利な条件なんだ。

 高校生なので、私という例外を除けば4輪通学者は3年生に限定される上、誕生日の兼ね合いで免許を持っていなかったり、家の車が借りられないというケースもあるため、3年生全体の4輪通学者の比率は5割程度なのだ。バイク通学者の数に比して桁が違うのだ。


 それを聞いた1年生は途端に喜び出した。


 「そうなんですか!? さっすが先輩方です!」

 「これで、寒い中、時間のかかるバイクのチェックしなくて済みます」

 「マイ先輩に、抱かれたいです!」


 そうと決まれば、役割分担とか、班割りとか決めちゃおう。

 この班割りで、何月のチェックに参加するか決めちゃうから、みんなは必ず1回は出るっていう仕組みになってるからね。


◇◆◇◆◇


 取り敢えず班割りも決まったので、話を戻してミラージュの練習走行に戻ってみよう。

 これから、雪が本格的になると、第二練習場は閉鎖って事になるだろうから、パルサーやミラージュの練習も春まではこっちでやる事になるだろうね。


 「ええー-!? なんでですか?」


 1年生から声が上がった。

 良い質問なんだけどね、理由は雪かきができないからだよ。

 あっちは元々、舗装されてない上に、面積も結構広いからね。コースの雪かきにはみんなでかかって1日くらいの時間が必要なんだよ。

 しかも、その日の夜に降ったら、翌日はもう1回やり直しだよ。

 そんな事するくらいなら、その分練習した方が良くない? こっちならサファリに雪かき機つけて往復させれば使えるようになるんだし。


 「分かりました……」


 1年生からの反論は収まったね。

 確かに、あっちの練習場のコースは結構面白いから、気持ちは分かるんだけどね。

 でも、私も雪かきは経験があるから分かるけど、あっちの練習場が雪で埋まったら、本当に部員全員で丸一日くらいかかっちゃうんだよね。


 私たちは、その日は、そんなまったりした感じで活動を終えたんだ。

 明日は、足回りとタイヤを替えたミラージュが、どの程度変わったのかを見てみよう……なんて。


 まさか、次の日の朝にあんなことになるなんて、その時は誰も予想していなかったんだよ。



 お読み頂きありがとうございます。


 『続きが気になるっ!』『次の日の朝、何が起こったの?』など、少しでも『!』と思いましたら

 【評価、ブックマーク】頂けますと、大変嬉しく思います。

 よろしくお願いします。

 

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