刑務所に入っても面会は続く
は~い! どうもどうも~!
ユズポン軍事刑務所で刑務官をしているボックスです~。
軍事刑務所っていう施設は、軍人や国家反逆者の疑いがかけられている者,国家が脅威的な人物であると認定した者等を収容する施設なんですわ~。
他にも、軍法会議で懲役や禁固刑等の判決を受けた者がここで服役をしたりするなぁ~。
それで、俺はその軍事刑務所の刑務官なんやけど、立ち位置としては王国軍の兵士なんやわ。
そこは留置場や警察署などに勤務する憲兵という存在とは異なる部分やな。
ただ、留置場に勤務している憲兵もそうなんやけど、刑務所に勤務している兵士も魔術を習得していることが必要なんやな。
兵士にも罪を犯した中には魔法が使える魔術部隊もいるからな。
そうなると、そう言う人間には剣や杖を没収して済む話ではないからな~。
もちろん、ただ魔法が使えるだけやなくて、より専門的な魔術が使える必要があるんやな。
まぁ、強力な魔法が使いこなせると出世も早うなるで~。
~ポンズ王国ユズポン軍事刑務所、軍曹ボックス=シニア刑務官~
留置場から軍事刑務所に移送されたハリガネ。
午前中は刑務官である兵士から刑務所での生活に関する話を聞き、昼頃には自身が大半をここで過ごすことになる単独室で昼食をとっていた。
ポンズ王国では、軍法会議にかけられる者は王国下の軍事刑務所に勾留される事となっている。
軍事刑務所は王国の各所に存在するが、ハリガネは都市ユズポンの軍事刑務所に勾留されていた。
午後の昼下がり、ハリガネは刑務官に連れられて面会室にいた。
「おう! 元気にしとったか? 」。
ハリガネの弁護士の翻訳を任されているジュードーが、手を振りながら室内に入ってきた。
そのジュードーの後ろからハリガネの弁護を担当するギャグも姿を現した。
ギャグは初めて会った時と変わらない黒タイツにサングラスの出で立ち。
ジュードーもジーパン姿にTシャツという相変わらずのラフな服装で、やはり二人共弁護士とは思えない格好であった。
むしろ、友人が面会に来たと表現した方がしっくりくる。
ギャグに至っては変質者にしか見えないが...。
初めて会った時と変わっていた部分を強いて挙げるとすれば、この日のジュードーは黒いキャップ帽子を被っている事くらいである。
「まぁ、一応元気ですけど」。
「そうか、そうか。そいつは良かった」。
二人は椅子に腰を下ろし、アクリル板越しからハリガネに話しかけた。
「えぇぇぇえええええええええええええええええええええ...っっ!? クオカードそんな集めてどうするのぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお...っっ!? 」。
突然、ギャグが身を乗り出してハリガネに向かって叫び始めた。
「うわぁぁぁぁああああああ...っっ!? 」。
ギャグがいきなり大声を上げたため、ハリガネは身を反らして驚いた。
「『軍が早いうちに取調べを済ませて移管させる事はだいたい予想できていました。しかし、他の関係者の取調べも終わってない中で、早々に軍事刑務所に移送されていたとは...。ただ、王国内も混乱の最中だったので逮捕から留置場への流れは緊急的対処だったかもしれないね』、と言っとるわ」。
ジュードーはギャグの言葉を訳してそう説明した。
「は、はぁ...」。
「まぁ、こういうクーデターやゲリラとかの内乱の場合は、刑の確定関わらずストレートに軍事裁判所の方へ拘束するからな~。今回がちょっと変則的だっただけの話や。最初が留置場やったからな~」。
「銀杏って何であんなに臭いん!? 何でっ!? ねぇっ!! 何でっ!? 」。
「『王国軍も早い段階で君を本部下の中で拘束しておきたかったのだろう。まぁ、いずれにせよ急いで裁判の準備に取り掛かりましょう! さて、逮捕状に書かれていた反逆軍首謀者との内通,内戦教唆の件なんだけど...。これはノンスタンスとの関わりの有無についてを聞かれるだろうから、ここはかなり重要だね』、と言っとるな。そんで、コイツが資料なんやが...」。
ジュードーはそう言いながら一枚の写真を出した。
その写真には、留置所でジューンがハリガネに見せたあの魔法陣が刻まれた石板が写し出されていた。
「この石板には魔法陣が描かれていて、国外から侵入できるよう通路代わりになっとったらしい。それでな、この魔法陣は国から二キロ離れた荒野の地面に繋がっていたみたいなんや。クロズ市内にも壁とか数か所の場所に同形同式の魔法陣が発見されたらしく、街に描かれたその魔法陣は当日に描かれた事が捜査によって判明した。まず、その石板からノンスタンスの構成員が通った後、通り道をクロズを中心に増やしていったのがほぼ明確や。お前さんはもともと魔力を放出する適性が無いのは知っとるが...」。
「自分がその石板の運搬を助けたかって事ですよね? 」。
ハリガネはそう問うと、ギャグは黙ったまま頷いた。
「まず、その石板に触れた事が無いですよ。それに、僕自身が十年以上もクロズ付近に足を運んでいないわけですし...」。
「柿ピーはピーナツ入ってないのがええんやっ!! ええんじゃぁぁぁぁああああああああああああああああっっ!! それもう柿ピーじゃなくてただの柿の種やんけぇぇぇぇええええええええええええええええええええっっ!! 」。
「『ちなみにその石板は普通の石板と一緒に重ねられていてバレないよう意図的に工作されていたらしいんだ。国外からの荷物は出入国検問所で検査されて、本来はこういう物は絶対に通らないはずなんだよね。まぁ、そこは何か怪しいんだけど今は軍の過失って事として捉えておこう。それで、一応確認しておくけど元兵士だった君は誰か軍関係者にお願いして石板を運ばせて、検問も不正をして通すよう仕向けたというわけではないよね? 』、と言っとる」。
「はい、僕はその件に関しては全く知らないですし、関与もしていません」。
「このキュウリ成長し過ぎやってぇぇぇぇえええええええええええええっっ...!? 」。
「『分かりました。それでノンスタンスとは親交も無いという事なんだけど、これは軍の取調べの時も聞いてるかな? 逃亡中のノンスタンスの首謀者デイが映像を通じて王国軍に対し交渉を行った件なんだけど』、と言っとる」。
「はい、僕が名指しされた事と、父がノンスタンスに支援してた事ですよね? 」。
ハリガネがそう答えると、ジュードーは小さく何度も頷いた。
「そうなると、支援はもちろん今回のノンスタンスの侵入や、内戦時にデイや他の連中を国外へ避難させた事にお前さんが協力していると軍に思われているのが現状や。まぁ、それらの件も踏まえた上で、お前さんはノンスタンスとは関りは一切無いって事やな? 」。
ジュードーの言葉にハリガネは頷きかけたが、“ある出来事”を思い出して表情を曇らせた。
「ちょっと気になった出来事があって...」。
「気になった出来事? 」。
ジュードーは怪訝な面持ちで言うと、ハリガネはその出来事について話し出した。
ノンスタンスとの内戦前日、ハリガネは自身の家でデイと対面していた。
対面とは言ったものの、デイが一方的にハリガネの家に不法侵入していたわけなのだが...。
デイにノンスタンスの活動を阻害しないよう忠告されていた事や、内戦では王立図書館内で側近のホワイトとも出くわした事をハリガネはギャグやジュードーに話した。
「...」。
ハリガネの話を黙って聞いていたジュードーは険しい表情で腕組みをした。
「それはかなり際どい話やな~。特に家に入られたあたりはな~。まず、首謀者のデイは何故お前さんの家に入り込んだんやろうな~? 」。
ジュードがそう問いかけると、ハリガネは表情を曇らせたまま首を横に振った。
「明確な事は分かりませんが、王国軍に属していた時から争い続けてきた自分に対して、忠告の意味も含めて近づいてきたのかもしれません。奴が僕の家の場所を知っていたのは、ノンスタンスと関わっていた父が家に奴等を入れていたのかもしれません。おそらく僕が知らぬ間にね」。
「俺の顔にコッペパン挟んでくれへんっ!? 」
「『その件に関して、詳しく聞かせてくれないかな? 』と言っとるぞ。ここは大事なところやな」。
「はい、分かりました」。
ハリガネは二人にそう答え、面会時間ぎりぎりまでその時の状況を細かく説明した。