魔法陣からいきなり現れた奴に信用しろって言われてもなぁ~
ん? 何や?
え? 俺の事?
いきなりそないな事を言われてもな~。
え? 弁護士の事??
せやな~、相手を弁護する職業や。
え? もっと詳しく??
いやぁ~、そないな事言われてもなぁ~。
え? 裁判の流れ?
ああ、あの~。目の前に裁判官おるやろ。
そんでサイドに弁護士と検察官がおって、裁判官が持ってる木槌でゴング鳴らすと裁判開始や。
それでサイドにいる二人がお互いをしばき合って、最終的にスリーカウントピンフォール決めた人間が勝ちや。
その時、被告人がレフリーを務めるんやな~。
~法律事務所モアーデリシャスコンボ、ジュードー=カシン弁護士~
「...で、堂々と不法侵入までして俺に何の用さ? 」。
噓泣きの演技をしているジューンに対し、ハリガネはうんざりした表情でそう問いかけた。
「んとね...。その前に...」。
ジューンは居室の周りをうろうろと歩きながら何かを確かめていた。
「う~ん、大丈夫そう...かな? 」。
「いや、さっきからアンタ何してんの? 」。
「いやぁ~、憲兵に気づかれたら色々と面倒くさいんでね~。君が午前中に軍の方で取調べを受けていたと聞いてたんで、その間は仲間にお願いして各所に設置してある監視魔法を無効化してもらってたのさ~。だから、そのチェックを...ちょっとね。ちょうど君の担当も席を外しているようだし、今がチャンスかなと思ってね~。いやぁ~、隣室に隠れててよかったぁ~! 」。
「仲間...? え? 何? どういう事だよ? さっきから全然話が見えてこないんだけど」。
話の流れが理解できていないハリガネは眉をひそめながら首をかしげた。
「端的に言えば事情聴取みたいなやつかな~? まぁ、ご飯食べながら気楽に答えてよ~。あっ! かつ丼食べてるの~? 美味しそうだね~! 俺にも分けてよぉ~! 俺ずっとこの建物にいたから飯食べてなくてさぁ~! さっきから腹が鳴りっぱなしなんだよねぇ~! いいなぁ~! 」。
「はっ!? 嫌に決まってんだろっ!! 何でアンタに飯分けなきゃいけないんだよっ!! 」。
「冗談だよぉ~! 冗談! 」。
ジューンはへらへらと笑いながら壁に寄りかかった。
「それで、さっき事情聴取とか言ってたけどオッサンも軍の関係者なの? 」。
ハリガネがそう問うとジューンは自身の前髪をいじりながら両目を閉じ、少しの間黙って考え込んだ。
「ん~、半分そうで...。半分違うかなぁ~? 」。
「なんだよ、そりゃあ」。
「まぁ、立ち位置的にはそう思ってもらっても良いけどねぇ~」。
「何だよ、それ...。いまいち信用できないなぁ~」。
ハリガネは懐疑的な表情を浮かべつつ、かつ丼を頬張りながらジューンを横目で見ていた。
「う~ん、それじゃあ信用してもらいたいという事で...。ハリガネ君にとっておきの情報をあげちゃおうかなぁ~? 」。
「...情報? 」。
ハリガネは怪訝な面持ちでジューンにそう聞き返した。
「そうっ! 君が日雇いで働いてたパブの“PUBオニヤンマ=キャロルズ”は風営法違反で摘発されてオーナーや従業員も逮捕されましたぁ~! 昨日の事だったけどね~ん! 」。
「え? 風営法?? 」。
「実は雇っていた踊り子や女性スタッフが未成年だったんだよ~ん。あと、オーナーや従業員も国外の賊団と関りがあったという疑いが明るみになったんだよねぇ~。まぁ、それは別件として再逮捕される事になるっしょ! 」。
「やっぱり、あのオーナー反社だったかぁ~! うわぁ~! 残りの報酬取り損ねた~! 」。
ハリガネは苦虫を嚙み潰したような面持ちで、がっくりとこうべを垂れた。
「いやいや、今の君は金の事をどうこう言ってる場合じゃないでしょうに~。それに、世間や王国から反社としての疑いがかけられてるのは君自身なんだよぉ~? 今の君は世間から何て言われてるのか知ってるのかい? 」。
「...知るかよ。国家反逆罪の疑いがかかってる人間は、他の被疑者と違って留置場での新聞やニュース番組の視聴も禁じられてるんだぞ。世間の動向なんか全然知らねぇよ。つーか、そんな事なんか聞きたくもねぇよ。まぁ、どうせテロリストとか反逆者とか言われてるんだろ~? 」。
ハリガネはぶっきらぼうに言い放つと、ジューンは笑顔のまま頷いた。
「まぁ、だいたいはそんな感じで言われてるけど、インパクトがあるのは“恐戦士二世”とか“呪われし死神一族ポップ家”...。あ、“魔族戦士”ってのもあったな~。どうよ? 世間から自分がそんなふうに言われてて...」。
「なんかニックネームみたい感じで、ちょっとカッコいいって思った」。
ハリガネが他人事のように素っ気なく答えると、ジューンが手を叩いて笑い出した。
「はははっ! 確かにアンダーワールドチックな感じで聞こえはいいよなっ! “勇者”よりはそっちの方がカッコいいかもなっ! 」。
「...え? 」。
ハリガネは怪訝そうな表情で、笑みを浮かべるジューンにそう聞き返した。
「君が王国兵士に仕えていた時に“勇者”と呼ばれていた事は調査済みだよ~ん! 少しは信用してもらえたかね? 」。
ジューンの言葉にハリガネは呆れた表情を浮かべ、溜息をつきながら肩をすくめた。
「まぁ、アンタがただの酔っ払いじゃないのは分かった。正直納得できない部分はあるけど、パブでのアンタが一悶着してた件もあるしな。...それで、俺に何が聞きたいのさ? 」。
「よかったぁ~! 分かってくれて嬉しいよ~! 」。
ジューンはハリガネに微笑んだまま話を続けた。
「それじゃあ、早速本題の方に入らせてもらうよぉ~。君とノンスタンスとの関係性についてなんだけどね~」。
ジューンの問いかけに、ハリガネはまた溜息をついた。
「ここでも軍の方でも答えたけど、俺とノンスタンスは直接的な関りなんて持ってないよ」。
ハリガネがそう答えると、ジューンは懐疑的な表情で首を横に振った。
「直接的な関わりが無いという事はないだろう? 関りの意味合いとしては味方としてだけはなく、敵対関係も該当するんだよ? 」。
「...? どういうこったよ? 」。
ハリガネが眉をひそめて問いかけると、ジューンは天井を見上げて両腕を組んだ。
「ん~、もっと突っ込んで話すとねぇ...。戦時中から国際指名手配集団ノンスタンスとポンズ王国はずっと戦い続けてきたわけじゃん? そして、君も王国兵士として仕えていた時からノンスタンスと戦ってきた。ターゲットにしてきたノンスタンスの頭領である“赤髪のデイ”に関する情報は、戦闘部隊だった君自身も色々と把握はしてたと思う。だから、その経緯を辿れば君がデイを知っていること自体は辻褄が合うんだ」。
「...」。
かつ丼を食べ終えたハリガネは、ジューンの話を黙って聞きながら空の食器が載せられているトレーを机に存在する魔法陣の上に置いた。
「ただ...」。
「リーダーのデイやノンスタンス側の奴等が、何で俺の事を知ってるんだって聞きたいんだろ? 」。
話の途中でハリガネがそう言葉を返すと、ジューンは無言で頷いた。
その時、魔法陣に載せたトレーはゆっくりと沈む様にこの場から消えていった。