野良として生きていく
あ~あ、遂に王国追い出されちまった~い。
え?? 前作に“大型魔獣乗用免許証”っていう身分証明書を持ってたけど、あれって何なのかだって?
ああ~!
前作の『何事にも資格なり証明なり、自分の職業を説明することがこんなに難しいとは』の場面で見せたあの免許の事か!
この世の中では、魔獣は戦闘や仕事とかで重宝されているんだけど操縦限らず大型,中型魔獣に乗る際は魔獣の乗用免許証が必要なのさ。
俺も戦時中、騎兵隊のポジションで戦闘に参加する機会があったから訓練の末に免許を取得したんだ。
実技試験と筆記試験に合格すればその免許を取得できるよ。
墜落とか事故を起こしたら大変だからね。
ちなみに操縦関わらず免許を所持してないで魔獣に乗ってると、無免許という事で厳しい罰則が科されるよ。
え? ブリッジ=ブックさん?
ああ、“ヒスイ”は中型魔獣だからな~。
でも、さすがに免許持ってるんじゃないかな~?
普通に乗りこなしていたみたいだし。
~元ポンズ王国配下歩兵隊兵士、ハリガネ=ポップ元受刑者~
ポンズ王国の外には荒れ果てた荒野が広がっており、人間も魔獣もおらず辺りは閑散としていた。
砂埃が舞う荒野の中で、ハリガネは辺りを警戒しながら敬礼の姿勢を保っていた。
キィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ...ッッ!!
ガゴォォォォオオオオオオオオオオオオオオン...ッッ!!
門扉の締まった音が聞こえると、王国内からラッパの演奏音がハリガネの耳に入ってきた。
ラッパで演奏されている音楽はポンズ王国の国歌であり、王国内では定刻に流れるようになっている。
国歌が流れる時間は一般的な出勤時間である九時と正午を伝える十二時、そして一般的な退勤時間である十八時と決まっている。
しかしながら、今回はケースが異なりハリガネの刑が執行された事を民に知らせる演奏であった。
(さて...。ラッパの演奏が聞こえるという事は...もう動いても良いよなぁッ!? )。
敬礼の姿勢を保っていたハリガネは後方にいる兵士達に射撃される事を想定し、素早くサイドステップを踏んで射線を逃れる様に真正面の出入口から離れた。
そして、ハリガネは横に移動しながら素早く身構えて後方を振り向いた。
後方には兵士達の姿はなく、閉ざされた巨大な黒い門扉が立ち塞がっていた。
(よしッ...!! 閉まってるッ!! あとはさっきから気になっていた後方の気配ッッ...!! 兵士かッ!? )。
出国した瞬間に人の気配を感じ取っていたハリガネは、門扉の周辺を素早く見回しつつ気配の正体を己の視覚で追い求めた。
「...っっ!? 」。
そして、気配の正体はハリガネがよく知る人物であった。
困惑しているハリガネを余所に、その男は動じた様子を見せる事なく門扉の横で静かに佇んでいた。
「よぉ、遅かったじゃねぇか。あまりにも遅いから一箱空にしちまったぜ」。
そこには鎧と兜を着用し口には煙草をくわえ、ライフルを肩にかけている完全武装のゴリラ隊長が塀に寄りかかっていた。
「えっ!? ゴリラ隊長ぉ!? な、何で~!? 」。
「話は後だッ!! とっとと武具を着用しろッ!! お前は丸腰なんだからよぉッ!! 」。
「はッ!! はいッ!! 」。
ハリガネは急いでゴリラ隊長の隣に配置してある荷車の方へ向かった。
「急げッ!! 急げッ!! 王国の領域内で襲われて殺されたなんて事になったら一生笑い者だぞッ!? 」。
「はッ!! はいッ!! 」。
ゴリラ隊長に急かされるハリガネは、木製の大型荷車に積まれていた武具を慌てて装備し始めた。
「いいか? ただでさえ、二人しかいねぇのに標的は“アルマンダイト”だ。心してかかれよ? 」。
「え? 隊長も“アルマンダイト”討伐へ向かわれるんですか? 」。
ハリガネは長剣を背中にかけながらゴリラ隊長にそう問いかけた。
「あ? お前、自分一人であの怪物仕留められるっつうのか?? 」。
「いや...それはちょっと...」。
ゴリラ隊長にそう返されたハリガネは表情を曇らせた。
「まぁ、俺も獄中でやる事なんかないしな~。禁錮三百年なんて実質終身刑だし、だったら獄中で死ぬより身体が動くうちに戦って死ねたら本望ってもんよ。戦士であるならば獄死より戦死を取るわ」。
(戦士と戦死...。本人は真面目に話してるつもりなんだろうけど、地味にダジャレになってるな。でも、ツッコんだら殴られるだろうし黙っておこう)。
ハリガネはそう思いつつゴリラ隊員に話を合わせる事にした。
「いや、でも良かったですね。自分も言えた身分ではありませんが、僕等は反逆罪の刑が確定してしまったわけですし死刑は免れないと思っていましたから」。
「まぁ、今の境遇で良かったとは言い切れないが...。俺の証人をしてくれた部下や同僚、それに弁護士も結構粘ってくれてな。その甲斐もあって何とか死罪は免れたって感じだな。あと、今更俺がこんな事を言う資格は無いかもしれないが...。悪かったな、お前を巻き込んじまって」。
ゴリラ隊長は険しい表情のまま、人差し指で自身の頬をポリポリと掻きながらハリガネにそう詫びた。
「あ、いや...。僕はあの出動が間違いではなかったと思っています。結果的にノンスタンスを撃退する事ができましたし...。それに、僕もやらかしましたし...」。
「やらかし...? 」。
ゴリラ隊長が眉をひそめて聞き返すと、ハリガネはノンスタンス侵攻前日にデイと会った事を話した。
「...ふんっ、相変わらず奇怪な行動をする連中だな。それで、お前はデイを目撃した事を軍に通報せずに逃がした事を悔やんでいるわけか」。
ゴリラ隊長が横目で見ながらそう言うと、ハリガネは申し訳なさそうにうつむいた。
「は、はぁ...。王国配下の兵士だったのに...一生の不覚です...」。
「アホッ!! 」。
ボカッ!
「あいたっ...!! 」。
ゴリラ隊長はうなだれるハリガネの頭に鉄拳を一発かました。
「馬鹿野郎ッッ!! これから戦場へ向かうっつーのにッ!! そんな辛気臭い顔してんじゃねぇッ!! こっちの士気も下がるだろうがッ!! 」。
「イテテ...。す、すいません...」。
ハリガネは痛みで顔を歪ませながら自身の頭を擦った。
「まぁ、いい...。お互いチョンボした者同士だッ!! 自分のケツは自分で拭くッ!! 今の俺達にできる責任の取り方は戦果をあげる事だッ!! 王国から追い出された俺達は最終的に野良戦士という立場になったんだからなッ!! 」。
「の、野良...? 」。
「当たり前だろ? しばらくの間、俺達はポンズ王国の人間じゃないからな。立場上、俺達は無国籍の犯罪者だが“アルマンダイト”討伐の命を王国から受けたわけだ。その大義のために俺達は戦い続けなければならない」。
「なるほど、何処の国にも属さない無国籍戦士...。だから、野良という事なんですね? 」。
ハリガネがそう問うと、ゴリラ隊長は力強く頷いた。
「ああ...。だから、俺達は野良として生きるために戦い続けていく運命にある。...さてッ!! こんなとこでダラダラしてっと日が暮れちまうぞッ!! オラァッ!! お前も早く準備して山脈の方まで急ぐぞッ!! 」。
「はっ!! はいっ!! 」。
「そういう事で、俺達はもう上官と部下という関係じゃない。同じ野良戦士同士で仲良くやろうや! なぁ? 相棒! 」。
ゴリラ隊長は笑みを浮かべ、武装を済ませたハリガネの背中を強く叩いた。
バシッ!!
「いてっ!! あ、はい...。お願いしま...」。
「声が小せぇぇぇぇええええええええええええッッッ!!! 気合入れんかぁぁぁぁあああああああああああああッッッ!!! 」。
ゴリラ隊長による突然の怒号に、ハリガネは目を丸くしてたじろいだ。
「す、すいませんっ!! よろしくお願いしますっ!! 」。
「う~し!! 気合も入ったところで行くかッ!! 」。
気を良くしたゴリラ隊長は意気揚々とハリガネの前を歩き始めた。
ゴリラ隊長の後に続き、取っ手を掴んで荷車を牽き始めるハリガネの表情が見る見るうちに曇り始めた。
(最初は頼もしいなと思ってたけど...。よくよく考えたら、鬼隊長と恐れられていた“ガレージ”部隊のゴリラ隊長とこれから二人っきりで生活するんだよな...。うわぁ...それはそれで地獄だな...。トホホ...)。
ハリガネは絶望を感じながらもゴリラ隊長と“アルマンダイト”を討伐すべく、パルメザンチーズ山脈を目指す事となった。




