三世代揃って国外追放
え...?
何であんなに飴玉持ってたんだって??
今、禁煙しているんだよね~。
だから口寂しくてね~。
でも、あれだよね~。
煙草止めるとご飯の量も心なしか増えてる気がしてね~。
すっかり太った気がするんだよな~。
~ハリガネの刑執行に立ち会った兵士~
石造された円柱形状のバルサミコス検問所。
その検問所の裏からコッソリと顔だけ出して門扉の方向を覗いている男が二人。
上下の茶色いスーツと白ワイシャツをラフな感じに着こなしたジューンと、浦島太郎の様な格好をしている小柄な男がこっそりと身を潜めて周囲の動向をうかがっていた。
「へへっ!! カッコイイじゃねぇか~! 互いに敬礼を交わしながら国を去っていくなんてよぉ~! 敵地へ乗り込む兵士への見送り方じゃねぇか~! なぁ~? まるで映画みたいじゃ~ん? 」。
「陛下、大声を出さないでくださいよ~。いくら魔力で気配を隠しているとはいえ、あまり目立つ行動されると感付かれてしまいますので。ただでさえ、その浦島太郎コスチュームは目立ちやすいんですから...」。
ジューンは声を押し殺して国王にそう忠告しながら辺りを見回した。
「うるせぇっ!! オイラのポリシーに口出すんじゃねぇっ!! この野郎っ!! 」。
ピコッ!! ピコッ!!
国王は片手に持っているピコピコハンマーでジューンを叩いた。
「ちょっ!? 陛下っ!! 音出さないでくださいよっ!! 」。
「うるせぇっ!! 馬鹿野郎っ!! 」。
ピコッ!! ピコッ!!
「し、しかし...。敬礼しながら去っていくとはドラマチックですな~。それに、目の前に敵が襲ってこないか警戒して出ていく用心深さも、やはり彼は戦士なんだなと感じさせられますな~」。
国王にピコピコハンマーで叩かれ続けるジューンは苦し紛れに話を逸らした。
「へへっ!! 国外へ追放される男の面構えには見えなかったな~! 」。
国王はジューンを叩くのを止め、腕組みをしながら門扉へ視線を戻した。
「しかも、堂々と“アルマンダイト”の討伐宣言して去っていきましたからね~。戦時中の王国兵士だったからか、随分と度胸が据わってましたな~。たしか、父親のハリボテ=ポップは去り際に煙草をくゆらせていたとか。そして、息子の方は飴玉ですか~。なかなかユーモアのある親子ですな~」。
「ジジイの時は饅頭だったな~! 」。
「シジイ...スジガネ=ポップ氏の事ですか? 」。
ジューンは国王を一瞥してそう問いかけた。
「おう、ハリボテの親父も滅茶苦茶強かったぜ~? まぁ、性格も滅茶苦茶だったがな~! 」。
国王はそう答えると、懐かしそうに空を見上げた。
「そういえば、スジガネ=ポップ氏も国内である事件を起こして追放処分になりましたよね~。ほう~、そうなると陛下はこれでポップ家三世代のお見送りをされたという事になるわけなんですね~? 」。
「へへっ!! ハットトリック達成だなっ! ジジイといっても五十年以上も前の話だから、当時はジジイじゃねえけどな~! まぁ、王国を追い出された後はジジイの方も行方知らずだ。さて、兄ちゃんの方はどうなるかな~? 」。
国王は意地の悪い笑みを浮かべ、空から門扉に視線を戻した。
「しかし、陛下も物好きな事で~。ハリガネ=ポップにあんな判決を下しただけでなく、わざわざ本部から跡をつけていくなんて...」。
ピコッ!! ピコッ!!
「うぉっ!? 」。
「お前こそずっと兄ちゃんのストーキングしてたんじゃねぇかっ!! この野郎っ!! 」。
ピコッ!! ピコッ!!
「わ、私は陛下の命令で調査してただけ...」。
ピコッ!! ピコッ!!
「うるせぇっ!! 王様に口答えすんじゃねぇっ!! 馬鹿野郎っ!! 」。
ピコッ!! ピコッ!!
「し、しかし...。ここへ向かう途中、カノー大尉が率いる騎士団達とユズポン大聖堂の中へ入っていきましたが、何をしてたんでしょうかね~? 」。
国王に再びピコピコハンマーで叩かれ続けるジューンは、またしても苦し紛れに話を逸らした。
「ん~?? あ~! 便所にしては長かったしなぁ~! さすがに教団の敷地内に入るのはオイラも...ちょっとなぁ~! 」。
「はははっ! 気配を隠しているとはいえ、神官達に魔力を感づかれたら厄介ですしね~。しかも、今日はアングリー神官長がいらっしゃられていたとか」。
ジューンがそう言うと、国王はばつが悪い表情を浮かべた。
「あ~? あのタコ頭ジジイ来てたのかよぉ~? 」。
「た、タコ頭ジジイって...」。
「なぁ~んだ! アイツいたのかよぉ~! 良かったぜ~! もし聖堂に潜り込んだら余計ややこしくなるところだったなぁ~! この間もあの輩どもと一騒ぎ起こしちゃったしな~! 」。
国王がそう言って溜息をつくと、ジューンは苦笑して口を開いた。
「存じ上げています...。アングリー神官長や教団関係者が王様のお城へ向かわれて、直々に抗議を行われた件ですよね~? たしか、教団に対する増税への抗議でしたっけ? かなりエキサイトしていたんだとか...」。
ジューンがそう言うと、国王は反発の意なのか鼻をフンッと鳴らしてしかめ面をした。
「へんっ!! あんなの抗議じゃねぇよっ! ただのカチコミだっ! オイラはただ洗脳集団やカルト教団って反論しただけなのにあんなにブチギレやがって...! 」。
国王の言い分にジューンは苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。
「はははっ...。それはキレても仕方ないですよ~」。
「へぇぇぇぇえええええええええっっ!? そうなのぉっっ!? 」。
国王はそう声を上げながら露骨に驚いた様子を見せた。
「ちょっ!? 陛下っ!! 大声出さないでくださいよっ!! 」。
困惑するジューンは感付かれていないか周囲を再び見回していた。
「それは良いとしてもよぉ~」。
(全然良くねぇよっ!! )。
国王に散々振り回されたジューンは心底からうんざりしていた。
「本部の教誨室で起こった件は本当なのかい? さっきまで身を潜めながらお前と一緒に兄ちゃんの跡をつけてたから、ゆっくり話を聞く時間が無かったんだけどさ~」。
「...」。
国王が突然そう話を振ると、ジューンは神妙な面持ちで腕を組みながら門扉を見つめた。
「ええ、彼の身体が拒んで教誨担当の神官が放出した魔力を跳ね飛ばした時、首の後ろに小さな魔法陣が赤く発光していたのを確認しました」。
「へぇ~。つまり、誰かが魔力を受け入れないように魔法陣で対策を施したいう事かい? あるいは、兄ちゃんに宿っている魔力を魔法陣で封じているのか...。そうでない限り、わざわざ魔力を受け入れないように魔法陣を体内に刻み込む必要なんて無いもんな~。だって適性の無い人間に魔力を注入したとしても、ただ体内に吸い込まれて終わりだもんよぉ~。それに、魔法が出せねぇんだしよぉ~」。
国王は門扉から離れていく兵士達を眺めながらジューンにそう言った。
「...確証はありませんが私もその方向で考えています。ただ、当の本人はどうも魔法陣の存在を知らないみたいです」。
「つまり、本人にも分からねぇって事だな」。
国王は神妙な表情を浮かべて地面を見下ろした。
「...」。
ジューンは組んでいた両腕をだらりと下げて国王を見つめた。
「陛下...一つ...。質問...宜しいでしょうか? 」。
「おう、いいぞ」。
国王は顔を上げてジューンに問いかけに答えた。
「何故、ハリガネ=ポップを魔獣討伐のためにパルメザンチーズ山脈へ向かわせたのですか? しかも炎の守護神と恐れられている“アルマンダイト”の討伐だなんて...」。
「へへっ!! しらばっくれやがってよぉ~! 何言ってんだよぉ~! お前が一番知ってんじゃねぇかよぉ~! ...って言っても、俺がお前に調査するよう依頼したから何もへったくれもないんだけどよぉ~! 」。
国王はそう言って悪戯っぽく笑うと、ジューンは再び苦笑して肩をすくめた。
「まぁ、私は陛下の仰せのままに調査してただけですからね~。それと、ノンスタンスの近況ですが...。今回の侵攻に失敗した後に首謀者のデイは魔法陣を通じて国外へ移動し、そこで待機していた他のメンバーと共にパルメザンチーズ山脈へ逃亡していったと考えられています」。
「ほほ~ん、よくそんな事が分かったな~! 」。
「パルメザンチーズ山脈付近の領域内を巡回をしていたソイ=ソース国の兵士からの証言です。侵攻のあった翌日、ノンスタンスのメンバーらしき若者達がソイ=ソースの領域内に目撃されたとの事です。どうやらノンスタンスはソイ=ソース国の領域内を拠点としていたらしく、当国の兵士が残っていたノンスタンスのメンバー達を追跡したところ山脈へ逃走したらしいです。その後、“赤髪のデイ”と“白装束のホワイト”を含めたメンバー達も山脈で合流し、現在はパルメザンチーズ山脈内に潜伏していると考えられます。山脈の域内では魔獣や潜んでいる賊団に襲われるリスクが大いにありますが、危険区域なので諸国の兵士達が山脈に立ち入る事はできません。命の保障は無いでしょうが、諸国に拘束されないために山脈へ逃げ込んだのでしょう」。
「ソイ=ソースねぇ~」。
国王は苦虫を嚙み潰したような表情で自身の頭を掻いた。
ジューンはそんな国王の様子を見て苦笑した。
「ははは! 今回のノンスタンスの侵攻を許した件で友好国の首席からかなり手厳しい苦言を呈されたみたいでっ! 友好国軍の応援要請に関してはポンズ王国の軍事力の低下を露呈したとか、特にソイ=ソース国からはノンスタンスを領域付近へ寄せてしまった事で我がポンズ王国軍の機動力の無さを猛烈に批判してましたね~」。
「へんっ!! 国の協力を要請したのはオイラじゃねぇっ!! セタガヤが勝手にやった事だっ!! 」。
国王は不貞腐れた様子でジューンからそっぽを向いてしまった。
「...それで陛下は“アルマンダイト”討伐を口実に、ハリガネ=ポップに対してノンスタンスの討伐を間接的に命じた...という事ですか? 」。
ジューンがそう問うと、国王は小さく首を振った。
「オイラはそんな回りくどい命令なんかしねぇよ。ただ、魔獣討伐しようがノンスタンス討伐しようが、俺は兄ちゃんに“ちり紙”を渡しただけの話よ」。
「“ちり紙”...ですか? 」。
ジューンは眉をひそめて国王にそう聞き返した。
「そうか、お前は国外で調査してたから兄ちゃんの軍法会議の場に居合わせてなかったもんな。まぁ、自分のケツは自分で拭きたいって言ったから“ちり紙”を渡しただけよ」。
「その“ちり紙”が“アルマンダイト”討伐...ですか」。
ジューンは神妙な面持ちでそう呟いた。
「分かんねー。もしかしたら渡した物がトイレットペーパーだったのかもしれねぇし~」。
「ト、トイレットペーパー...? ど、どういう事で...? 」。
ジューンは困惑して国王にそう問いかけた。
「まぁ、何はともあれ分からねぇ事は、まだまだあるってこったぁ~! 」。
そう答えて呑気に欠伸をしている国王にジューンは苦笑した。
「は、はぁ...。それで、この後いかがなさいましょうか? 尾行を続けますか? 」。
ジューンがそう問いかけると、国王は神妙な面持ちで門扉に視線を戻した。
「いや、王国に留まっててくれ。国内に何か動きがありそうだから、そっちを手伝ってくれ」。
「...陛下の仰せのままに」。
ジューンが静かな口調でそう答えると、国王は頷いて空を見上げた。
「パルメザンチーズ山脈で波乱が起こりそうだな...。さて、兄ちゃんはどうなるかね...って!! 」。
国王は不意に後ろを振り返ると、ジューンが壁に描かれた魔法陣の中へ入っていくところであった。
「おっ!? おいっ!! こらっ!! 王様置き去りにすんじゃねぇっ!! この野郎っ!! 不敬罪だぞっ!! 馬鹿野郎っ!! 」。
国王も慌てて魔法陣の方へ駆け込んでいった。




