あのオッサンは...たしか...
君達ぃ! しいのみ知ってる? しいのみ!
(う~ん、俺の説明はそんなに要らない気がするなぁ~)。
コンデンスミルクはチューブやない!! 缶や!! 缶でないとワイは認めん!!
(自分は弁護士として法律事務所に勤務しています)。
オォォォォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! パンの中に納豆入れ過ぎやろぉぉぉぉおおおおおおおおおッッッ!!! コレェェェェエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!
(え? 軍法会議? あぁ~、軍事裁判とも呼ばれていて軍人や軍機関等に関した刑事裁判を扱うちょっと特殊な裁判所の事なんだ。更にざっくりと言うと軍に関係した裁判の事だね)。
レーズンと干しブドウどっちが強いかワイに教えて!!
(ただ、ポンズ王国には国王や王国に危機を及ぼす罪を犯した場合、国家反逆罪という罪に問われるんだ。国家反逆罪に問われるケースとしてはテロやクーデター行為が多いね。この刑が確定した場合は、国を揺るがす極めて凶悪な犯罪と位置付けられているから王国軍下の軍人によって裁判が行われる。判決は高確率で死刑か終身刑になる)。
土臭い!! 何か土臭くない!?
(つまり、国家反逆罪の刑が確定されると軍人,一般国民,外国人問わず、この軍法会議で裁判が開始される事になる。ただ、裁判は軍人で執り行われているから偏りもあって、被告人側はかなり不利なんだよね~。てか、国家反逆罪の刑が確定したら九十パーセントの確率で死刑判決だし~)。
~法律事務所モアーデリシャスコンボ、ギャグ=ライフ弁護士~
「あ~、疲れた~」。
ハリガネは疲れた表情で両腕をだらんと下げつつ自身の居室へ戻った。
「おう、お疲れ~。机にある魔法陣から夕飯がもうすぐ出るからな~。あと、預かってた差し入れも一緒に出てくるからな~」。
ハリガネの担当兵であるフォートナイトが扉を閉めながらそう伝えてきた。
「ありがとうございます~! さぁ~て! ようやく飯だ~! 」。
元気を少し取り戻したハリガネが鼻歌を歌いながら机の方へ近づくと、揚げ物の香ばしい香りが室内に漂ってきた。
机上に設置された魔法陣から出てきたのは、トレーに載せられていた出来立てのかつ丼とお吸い物であった。
「ほう、美味そうやな~」。
フォートナイトは部屋を囲う檻の隙間から湯気が立ち上っているかつ丼を、興味深しげな表情で見ていた。
「あれ? 今日の夕飯はやけに豪華ですね~? しかも、かつ丼好きなんすよね~! よっしゃ! よっしゃ! 」。
ハリガネはそう言いながら上機嫌な様子で箸を掴んだ。
「ちゃうぞ、捜査課のシャウトさんが君のために出前を頼んだらしい。てか、君がシャウトさんに出前頼んだんちゃうの~? 」。
フォートナイトが怪訝そうに問うと、ハリガネは首を横に振って否定した。
「いやいやっ!! 出前なんか頼んでませんよっ!! シャウトって、あのハードボイルド気取ってる刑事のオッサン? そもそも、今日はずっと軍の機関で取調べがあったし、それが終わった後も弁護士との面会があったし...。会う機会なんか全然なかったですも~ん! 」。
ハリガネがそう答えるとフォートナイトは神妙な面持ちで天井を見上げた。
「せやな~、普通に考えたら変な話やな~。...まぁ、せっかくやし...食べたら? 残りの人生少ないんやから」。
「もう食べてま...てっ!! 僕は無実ですって!! 絶対に冤罪ですっ!! 」。
「はいはい。分かった、分かった」。
かつ丼を勢い良く掻き込みながらそう主張するハリガネにフォートナイトは苦笑しながらそう答えた。
「あ、そうそう。留置場以外の弁当とか出前は、自費購入やから金払ってもらわなアカンで~。後で徴収するからな~」。
フォートナイトの言葉を聞いたハリガネは、驚愕した様子で目を丸くしたまま視線をどんぶりから彼に移した。
「えぇ...っっ!? 金取るのぉ...っっ!? 」。
「そりゃ、そうなるやろ~。留置場が配給してる食事ちゃうもん~。まぁ、ええんちゃうか? 今日は差し入れと一緒に現金も送られてきたんやろ? 」。
「え? あぁ...そうか。でも、自分の意思で注文したんじゃないのに自費なんて...。なんか、しっくりこないなぁ...ん? 」。
ハリガネがシャウトに対する愚痴をこぼしていた時、魔法陣から一枚の茶色い封筒と畳まれた衣服数着が浮かび上がってきた。
(ミドルからの差し入れだ。封筒の中は一回の差し入れで受け取れる上限額の三万ゴールド。おそらく、パブで預けてた現金を送ってくれたのかもな。しかも、衣服まで差し入れしてくれたのはありがたい。大きな借りができちまったな...)。
ハリガネはミドルから受け取った恩を心の中で噛みしめ、神妙な面持ちで何度も小さく頷いていた。
「そうそう、自分が弁護士以外接見禁止なのは知ってると思うが、こっちから外部に物を送るのも特別な事情が無い限り原則禁止やぞ~」。
「文通もダメでしたよね? 」。
ハリガネがそう問うと、フォートナイトは頷いた。
「弁護士以外はな。だから、特別な事情とかがあったら弁護士を通して請求してくれ。もちろん、請求したからといって警察署や留置場の許可が下りなかったら送れないから、そこは注意してな~」。
「了解っす~」。
ハリガネとフォートナイトが手続きの話をしている時、同じ留置兵が慌ただしそうに姿を現してきた。
「フォートナイトさんっ!! ちょっと...」。
「ん? なんやねん」。
留置兵が耳打ちすると、フォートナイトはハリガネを一瞥して小さく頷いた。
「...分かった。すぐに向かう」。
「何かあったんっすか? 」。
ハリガネはお吸い物を啜りながらフォートナイトに問いかけた。
「他の場所に入れられている被疑者同士が喧嘩を始めてしまったらしい。止めるのに大分手こずってるっぽいから、ちょっと見てくるわ」。
「行ってらっしゃ~い」。
フォートナイトは留置兵と共に、慌ただしく室内から去っていった。
「ふ~ん、留置兵も大変だな...ん? 」。
ハリガネは、居室の壁に黄色く光っている大きな魔法陣の存在に気が付いた。
「あれ? こんな魔法陣なんかなかったよな~? 何だこりゃ? 」。
ハリガネは怪訝そうな表情で魔法陣を見ていると、その魔法陣から一人の男が突然姿を現した。
「...なっ!? 」。
驚愕しているハリガネを余所に、男は興味津々で周りを見回していた。
「ふ~ん、留置場の部屋ってこんな感じになってるんだ~。...おぉっ!? 」。
男はハリガネと目が合うと手を振って微笑んだ。
(な、何だ一体っ!? ...ん? でも、どっかで...)。
魔法陣から出てきた男は長身で金髪に無精髭を生やしており、茶色のスーツをラフに着こなしていた。
「君はこの先会う事がないと言ってたけど、思ったより再会が早かったね~! また会えてうれしいよ~! ハリガネ君! 」。
「あっ...!! 」。
ハリガネは目を見開いて声を上げ、何度も頷きながら男を指差して当時の事を思い出していた。
「あの時、パブにいた酔っ払いのオッサンっ!! 」。
ハリガネがそう言うと、ジューンは少し悲しげな表情を浮かべてうなだれた。
「オッサンじゃなくて、ジューンだよ...。顔は覚えていても名前は覚えてくれてなかったの...? そんなに日が経ってたわけじゃないにのさ...。悲しい...グスン」。
ジューンはそう言って自身の顔を両手で覆い、泣いてる素振りをハリガネに見せた。
「泣きたいのはこっちだよっ!! こっちは王国に濡れ衣を着せられて死刑になるかもしれないのにっ!! 」。
ハリガネはそんなジューンの仕草に対し、しかめっ面で不満を露わにしていた。