備えあれば憂いなし
皆さん、ごきげんよう~。
実は私も前作に登場しているのですが、脇役だったので著者にすっかり忘れられてたんです~。
だから、前作は前書きに登場していないのよ~。
私は修道女として修道院やユズポン大聖堂で活動しております。
修道女では主任として、修道院長の補佐や修道女としての活動しているの~。
え? 演劇? 賛美歌?
ええ、もちろんそういう慈善活動も行っているわ~。
ただ、修道女は普段神様への祈りを捧げたり、生活困窮者のために各地で炊き出しや援助を行ったりしているのよ~。
その時は“慈愛の囲い”という名で、修道女や修道士が外で慈善活動を行っているわ~。
~“慈愛の囲い”、ポンズ教修道女セブンス主任~
カノーの後をついていくハリガネ達は、聖堂内にある地下階段を降りていた。
「この階段は地下へと繋がっているんだ~」。
「でも、この先は長らく使われていない避難施設でしたよね~? 」。
カノーはそう問いかける主任に白い歯を見せて微笑んだ。
「ハッハッハッハ~!! その通りさ~! 淑女~! 」。
「レ、レディ...? 」。
主任はカノー言葉に顔を引きつらせて困惑した。
(クッソうぜーなぁ~! どうにかなんねぇのかよぉ~! コイツのイカれたテンションはよぉ~! )。
ハリガネはカノーの存在を鬱陶しく感じながらも皆と共に薄暗い階段を降りていると、頑丈そうな黒い鉄製の扉が目の前に姿を現した。
「さて、ハリガネ=ポップ氏へのプレゼントはこの扉の先にあるわけさ~。さてさて~」。
カノーが人差し指でその扉に触れると、青白く光る魔法陣が浮かんできた。
「出入口扉はこの魔法陣で施錠されていてね~。え~と...」。
カノーは魔法陣で施錠されている扉を、自身の指から放出されている魔力を利用して解錠し始めた。
「お、開いたぞ。さあ、入りたまえ~」。
カノーが扉を開けた先の世界は、ハリガネ達が進んでいる薄暗くて狭い通路とは全く真逆で壮大な空間が広がっていた。
周囲は白く光る壁と天井が辺りを照らし、地中からは鮮やかな淡い青色の水が湧き出ていた。
そして、その湧き出ている水によって一面は青い泉が広がっており、その空間の中心には白亜の宮殿らしき建築物が水面上に設置されていた。
その建築物を白い石造の柱と台座が囲んでおり、台座の上からは紫の炎が上がっている。
それ等が円を描く様に囲んでいる建築物の中心には、石碑らしい物が置かれている事がハリガネには確認できた。
「もともと、この空間は敵軍に侵攻された時に使用していた避難所だったんだ~。終戦して以降は放置されっぱなしだったから、改良前の空間は酷い有様だったのさ~。それで、君が王国から出ていくという事もあって教会の関係者にも協力してもらい、朝早くから急ピッチでこの空間をリフォームしたのさ~」。
「早朝に...ですか? それで、僕に見せたかった物ってこの広大な地下施設なんですか? ...あっ! なるほどっ! ここに隠れたら国外追放を免れ...」。
「君に見せたい物は泉の中心に設置されたスペースにあるのさ~」。
カノーはそう言いながら建築物を指差した。
(ムカつく...。簡単に話を流されちゃったよ...)。
ハリガネはムスッとした表情でカノーの指差す建築物を見つめた。
「さて、真正面にあるこの橋を渡っていくとしようか~」。
カノーは正面にある橋を一瞥した後、後方へ歯を輝かせながら手を差し出した。
「麗しき修道女よ...。僕がエスコートしてあげよう...。橋に落ちてしまったら水浸しになってしま...」。
「わぁ~い!! コブシちゃ~ん!! 行ってみようよ~!! 」。
「せやな~! 」。
ブリッジはそんなカノーの横を通り過ぎていき、コブシの手を取って橋の上を駆け出していった。
「サクラダ卿...。お目当ての修道女は先に行ってしまいましたが...」。
ハリガネが淡々とした口調でそう言うと、カノーは咳払いをしてその場を取り繕った。
「これは失礼...。それでは行こうか」。
「...」。
ハリガネは呆れた表情を浮かべながらも、カノーの後をついていく事にした。
その石畳の橋はアーチを描くように、中心に存在している建築物と繋がっていた。
「しかし、閣下~。わざわざ聖堂の地下にまで何で水を引いてきたんですか~? 結構お金かかったんじゃないですか~? 」。
ボックスは橋の上から泉を眺めながらカノーにそう問いかけた。
「ノン、ノ~ン。もともと聖堂周辺下には帯水層が存在していたらしくてね~。戦時中に教団が避難場所として地下を工事したらしいんだが、地下の水漏れが深刻でほとんど使い物にならなかったようだ。だから、その地下水を利用してこのような泉を作ったのだよ~」。
「まぁ~! 聖堂の下に地下水が~! 」。
主任も興味津々で泉を眺めていた。
「それにしても、この泉の水は普通の水と違って淡く青っぽい色だし、心なしか魔力を感じますなぁ~」。
ボックスがそう言うと、カノーは待ってましたと言わんばかりで高らかに笑い始めた。
「ハッハッハッハ~!! 良い所に気がついたね~! 君~! そうさぁ~! この水は普通の水ではないのさ~! 水の中をよく見たまえ~! 」。
「...? 」。
カノーにそう促され、皆は目を凝らして水の中を見た。
(...ん? 複数の魚が泳いでいるぞ...? )。
泉の色と同様に、淡い青色の鱗を纏った魚がハリガネの視界に入り込んできた。
「この魚は...“ラリマー”...ですか? 」。
「ハッハッハッハ~!! その通りだよ~! ハリガネ=ポップ氏~! 魚族の魔獣である“ラリマー”は、我々のような魔法を操る者達に必要不可欠な魔力を体内に秘めているからね~! それで、どうもその地下水に“ラリマー”が生息していたらしく、湧き出た水と一緒に流れ込んできたのさ~! 」。
「それに“ラリマー”は美味しいですもんね~。僕は“ラリマー”のムニエルが好きだな~」。
「僕は“ラリマー”のエキスを使ったハーブティーが好きだな~。飲むと身体がリフレッシュされるんだよな~」。
ミイラ隊長とカッパ副隊長はその場でお互い軽く言葉を交わしていた。
「直接食しても魔力を吸収する事ができる点は“ラリマー”の優れているところだね~。もちろん、ここで管理していれば“こういう事”もできるわけだしね~」。
カノーは皆にそう言うと、水面上に自身の手をかざした。
すると、泉の周辺を霧の様に漂っていた青白い光がカノーの体内に入り込んだ。
「“ラリマー”は自身で魔力を放出する事もできるんだ~。その“ラリマー”の効力を活かし食料としてだけではなく、飼育し魔力を放出させてヒーリングとして利用するという手段もあるんだ~。それに湧き出てくる水は良質だから“ラリマー”の魔力とも相性が良いのさ~」。
「おお~、泉が青色っぽいのは“ラリマー”がエキスを放出しているからなんやな~。それによく見ると水面から“ラリマー”が放出している魔力が漂ってますなぁ~」。
ボックスはカノーの言葉に頷きながら泉を眺めていた。
ハリガネ達は橋を渡り、泉の中心にある建築物に足を踏み入れた。
その建築物の柱や台座を通りすぎると、目の前には色とりどりの花が咲いた花畑が広がっていた。
そして、先に到着していたブリッジとコブシはその場に咲いている花で花冠を作っていた。
「さて、ハリガネ=ポップ氏~、中心にある石碑を見たまえ~」。
「石碑...? どういうこ...ん?? 」。
皆が石碑の置いてある中心部へ歩いていくと、ハリガネは石碑の前にある物に気が付いた。
「あっ!! これっ!! もしかしてっ!! 」。
それはノンスタンスを討伐する際にハリガネが装備していた長剣であり、石台の上に突き刺さっていた。
「いやぁ~! すまないね~! 時間に余裕が無いから押収された長剣を突き立てておいたけどね~! 」。
「いや、サクラダ卿...。これは一体...ん?? 」。
ハリガネは剣の後ろに置かれている石碑を見つめた。
その石碑には文字が刻まれている。
「戦士一族ポップ家“勇者”、ハリガネ=ポップ...? 何だこりゃあ?? しかもポップ家の紋章まで刻まれてるし...」。
「ハリガネ=ポップ氏~、剣が突き刺さっている石台の手前を見てみたまえ~」。
「石台の前...? 一体...あぁっっ!! 」。
カノーにそう促されたハリガネは、石台の手前を見下ろすと声を上げて愕然とした。
「ん? 何だ~? 」。
他の人達もハリガネの後方から覗き込んだ。
石台の手前には文字の刻まれた銅板プレートが設置されており、そのプレートには『ポンズ王国戦士“勇者”ハリガネ=ポップ、安らかにここに眠る』と刻まれていた。
「旅立たれる前に、君にお見せする事ができて良かったよ~! 正直、間に合うかどうか心配でね~! それで、君は剣使いの戦士だったからね~! ちゃ~んと君をリスペクトして剣も突き立てておいたのさ~! ハッハッハッハ~! どうせ、もう会う事は無いだろうからね~! ハッハッハッハ~! 」 。
カノーはそう言って高らかに笑い出した。
「...」。
状況が飲み込めず、自身のために建てられた墓地を呆然としながら見続けるハリガネ。
「勇者様...。良かったですね...グスン。この神聖なユズポン大聖堂の地下に、このような素晴らしいお墓を騎士様からいただけたなんて...うぅ」。
カノーの“慈悲深い”行いに感極まって涙する主任と修道女達。
「アハッハッハッハ~!! これハリガネさんの墓地かいな~!! ガハッハッハッハ~!! メッチャ豪華でええやんけ~!! 」。
「あはは~、ちゃんと“勇者”って彫ってあるよ~」。
「あはは~、ホントだね~」。
墓地を指差しながら大笑いする兵士達。
「わぁ~い! コブシちゃ~ん! “勇者”様のお墓に花冠飾ろ~う! 」。
「せやな~」。
そして、突き立っている剣に花冠の飾り付けを始めるブリッジとコブシ。
「...え? 見せたい物が墓...? え? これ、生前葬?? 」。
「生前葬って言うほど大それたものでもないんだけどもね~。まぁ、僕なりのささやかなプレゼントさ~。受け取ってくれたまえ~。」。
(これのどこがささやかなプレゼントなんだよ。この野郎...俺が死ぬの前提で見送るつもりだったのかよ。そうか、尉官の貴族なのに俺の誘導を買って出たのも、わざわざ俺にコイツを見せるためだったのかよ。スッゲームカつく...。両手縛られてなかったら台に刺さってる剣抜いて、さっさとぶった斬ってるのにな~)。
憤るハリガネは仏頂面で両方の手首を拘束している白い光輪を睨みつけた。
「しかし、本当に立派な墓ですなぁ~。羨ましいわ~」。
ボックスは羨ましげな表情を浮かべて墓地を眺めていた。
「まぁ、兵士の君達も今のうちに墓地は購入しといた方が良いよ~。王国内の地価も年々高くなっているからね~」。
「はぁ~、耳が痛いですなぁ~。しかし、閣下は実に慈悲深いお方ですな~。この教会の地下にこんな立派な施設を工事されるとは...。ところで、ここの工事費は騎士団の方で出されたんですか? 」。
ボックスがそう言うと、カノーは微笑を浮かべながら首を小さく横に振った。
「いや、確かに私は慈悲深い高貴な騎士だが軍はもちろんの事、騎士団の方でも資金の援助はしていないよ」。
「え...? 」。
ボックスが怪訝な表情を浮かべた。
「...墓地や施設の費用は全てポンズ教団側が工面した」。
「...え? 」。
ハリガネも怪訝な表情を浮かべてカノーに視線を移した。
「...」。
カノーは神妙な面持ちで泉を泳いでいる“ラリマー”を眺めていた。




