魔獣による賛美歌
こんにちは~。
私の家族は全員修道院で生活しながら神様に奉仕しているんですよ~。
私も修道女として院内で生活しながら、コブシちゃん達と演劇やコンサートの奉仕活動をしてま~す。
でも、私はあまり魔法が使えないんですよね~。
だって、魔法って面倒...ゴホンゴホン...。
魔法って私にとっては難しいんだも~ん。
~“慈愛の囲い”一員、ポンズ教修道女ブリッジ=ブック~
ハリガネは兵士達と共に、軍の本部内にある大規模なホールの最前席に座っていた。
「う~ん...」。
ハリガネは顔をしかめ、しきりに首を回していた。
「どうしたの? 勇者君? 」。
カッパ副隊長は怪訝そうな面持ちでハリガネを見つめた。
「何か、さっきから首が痛いんですよね~。寝間違えたかな? 」。
「そうか~、じゃあ勇者君が旅立つ前に枕を手配をしておくよ~」。
「いや、追放された後は宿にも泊まれない身分になってしまうんで...。枕をいただいても...その...」。
「大丈夫だよ~、勇者君~。僕もマットレスを手配しておくからさ~。三十過ぎたら前日の疲労が残るようになるからね~。睡眠も大事だよ~」。
意識を取り戻したミイラ隊長は感慨深げに何度も頷きながらそう言った。
「いやいや、これからは屋根の下にも住めなくなるかもしれないんですけど...」。
ハリガネはげんなりした表情を浮かべながら大きな溜息をついた。
「うぅ...グスン...。勇者様...。本当に可哀想...。生活する場所も無くなってしまうなんて...」。
啜り泣く主任がハンカチで涙を拭いながら姿を現した。
「あ、主任。ノレー神官は大丈夫ですか~? 」。
ミイラ隊長が問いかけると、暗い表情の主任は席に着きながら溜息をついた。
「ええ...。でも、精神的ショックが大きいみたいで...。ずっと頭を抱えたままブツブツ何かを呟かれていらっしゃるんです。これは何かの予兆だとか、悪魔からの宣戦布告だとか...」。
「あらま」。
主任の言葉を聞いたハリガネは、やれやれといった様子で肩をすくめた。
「ははは~、お疲れ様でした~」。
「お疲れ様でした~」。
ミイラ隊長とカッパ副隊長ものほほんとした様子で主任や修道女達の労を気遣った。
「あれから別室に引きこもったままなんですよぉ~。困ったわぁ~」。
「重症ですね~。でも、今まであんな事はなかったからな~。まさか歩兵出身の勇者君に魔力の適性があったとはね~」。
ミイラ隊長の言葉に、ハリガネは腑に落ちない様子で小首を傾げた。
「う~ん、どうなんだろう~? 実際、王国軍に仕えてた時に魔術部隊の人間から杖を借りて遊び半分な感覚で振ったりしてましたけど、魔力も魔法も出てきた試しが無いんですよね~」。
ハリガネがそう答えた時、会場の照明が落ちて舞台幕が上がった。
「始まるみたいだね~。...あっ! ごめんっ! ちょっとお手洗い行きたくなっちゃった~! 」。
「あ、僕も~」。
ミイラ隊長とカッパ副隊長はそう言いながら、そそくさと会場から席を外した。
(え...? 二人共、このタイミングで?? まぁ、いいけど...)。
ハリガネは立ち去っていく二人の背中を見て不審に思いながらも、幕が上がったステージに視線を向けた。
ステージ上には修道女達が立っており、中央には一際目立つ大柄な修道女のコブシが存在感...というか違和感を放っていた。
「これから王国を旅立つ我が友、ハリガネ=ポップに我々の賛美歌を送りたいと思いま~す。ハリガネ君は十代の頃から、このポンズ王国のために身を挺し戦い続けてきました。神様は貴方がしてきた行いの全てを覚えています。貴方がこの国を旅立っても、神様は貴方の事をいつまでも見守っています」。
(すっかり、コブシのやつ。修道女の立場が板についたみたいだな...)。
ハリガネは感慨深げにコブシのスピーチを聞いていた。
「それでは、旅立つ“勇者”ことハリガネ=ポップに神のご加護があらんことを~。それでは歌いま~す。“永遠の命”聴いてくださ~い」。
コブシはそう言い終えると、バキュームのごとく大きく息を吸い始めた。
スゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ...ッッ!!
(ん...? 何かを思い出しそうな...? すっごく胸騒ぎがする...。何でだろう?? )。
ハリガネの脳裏にそんな不安がよぎった時...。
「オオオオオオオオオオオオォォォォォォオォォォオオォォォォォォオォォォォォォオオオオオオォォォォォォッッッ!!! 」。
デスヴォイスの様な叫び声が地鳴りのごとく会場中に響き渡り、地震も同時に巻き起こった。
もはや、歌ではなく耐え難い騒音でしかなかった。
「ウオオオオオオオオオオオオォォォォォオォウゥウウウウゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウァァァァァアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
「グア...ッッ!? 」。
席についていたハリガネ達は予期せぬコブシの騒音に、苦悶の表情を浮かべながら自身の耳穴を指で塞いで耐え忍いでいた。
「フォオオオオオオオオオェェェェェェェエエエエエエエヴァァァァァァアアアアアラァァァァァァァアアアァァァアアアアアラァァァァァァァアアアアアアヴゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウゥゥゥゥッッッ!!! 」。
コブシと同じステージに立っていた修道女達はその騒音をまともに受け、その場に倒れ込み気絶してしまった。
(そ、そうだった...っっ!! コブシの咆哮は“兵器”だった...っっ!! 軍の打ち上げの余興で一回だけ歌を披露した時があったんだけど、その場に居合わせていた兵士の鼓膜が敗れたり脳震盪を起こしたり負傷者が出て以降は飲み会とか出禁になったんだよな、アイツ...。やべぇ、すっかり忘れてた...。そ、そうか...。隊長達は避難したのかぁ...)。
「ボヘェェェェェェェエエエエェエエェェェェェェェエエエエエェェェエェェェェェェェエエエエエェエエエエエエエエエッッッ!!! 」。
さらにテンションの上がったコブシは、握っている拳をスウィングしながら気持ちよく叫び続けていた。
(の、脳が揺れるぅぅぅぅうううううううううううううううううううううう...っっ!! た、助けてくれぇぇぇぇええええええええええええええええええええええ...っっ!! )。
ハリガネと共にいた兵士達はコブシの騒音に耐えきれず、泡を吹きながらその場に崩れ落ちてしまった。
その場に居合わせていた主任も気を失ってしまった。
「グォォォォォオオオオオオオォオォォォォォォオオオォォオォオォォォォオオオオオオオオオオォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! 」。
(も、もうやめてくれぇぇぇぇええええええええええええええええええええええッッッ!!! こ、殺されるぅぅぅぅううううううううううううううううううううううううううッッッ!!! )。
視界がぼやけていく中で、ハリガネは必死にコブシの騒音に耐え続けていた。
「エタァァアァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアナァァァァァァアアアアアアアアルゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウラァァァァァァアアアアアァァァァァァアアアアアアアアイイイイィィィィィィィイイイイイイフゥゥゥゥゥゥゥゥゥウゥウウゥゥゥッッッ!!! 」。
(な、何が“永遠の命”だっっ...!! 確実に俺達を殺しにきてるじゃねぇか...っっ!! )。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああッッッ!!! 自由のたぁぁぁぁぁぁぁああああめぇぇぇぇぇぇぇええにぃぃぃぃぃぃぃぃいいいッッッ!!! 」。
(うぎゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! もういい...っっ!! 早く俺をこの王国から追い出してくれぇぇぇぇええええええええええええええええええッッッ!!! 一刻も早く俺を自由にしてくれぇぇぇぇええええええええええええええええええええええッッッ!!! )。
遂にハリガネも限界を迎え、地面に両膝をついてしまった。
「わぁぁぁああああああああたぁぁあぁああああああぁぁああしぃぃぃぃぃいいいいはぁぁぁぁぁあああ旅ぃぃぃぃぃいいいい立ぁぁぁぁぁあああああつぅぅぅぅぅぅぅうううううッッッ!!! うぉぉおおぉおぉぉおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。
(あ...あの世へ旅立ちそうだ...。あ、死ぬ...)。
ハリガネがそう思った瞬間、目の前が突然真っ暗になってしまった。




