教誨って何だっけ?
藪からスティックッッ!!
そう、私こそがポンズ教の神官であるノレー=ティーだ!
トゥギャザーしようぜ~!
神官は王国において聖なるポジションとしてリスペクトされているが、神の下においてピーポーはオールフェアーな存在なのさ~。
まぁ、神官は修道者と共に神を奉仕しながらイベントを執り行う聖なるポジションなわけなんだけどね~。
つまり、神官は神に選ばれた者しか就く事のできないポジションなのさ~。
神に仕えし聖なる魔力は天空よりもハイであれ、大海よりもワイドであれ...なんていう言葉もあるくらいだからね~。
~ポンズ教神官、ノレー=ティー~
「アンビリバボォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! 神の力が効かないだとォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!?!? 」。
「の、ノレー神官ッッ!! お、落ち着いてくださいッッ!! 」。
ボックスや共にいた兵士達が、慌ててノレー神官の下へ駆け寄ってきた。
「シャラァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッップッッッ!!! 」。
ビュォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ...ッッ!!
ノレー神官はすかさず兵士達に掌を向けて強風を巻き起こした。
「なっ...!? ヌワァァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!! 」。
ボックス達はノレー神官の強風に吹き飛ばされた。
(なっっ...!? 何という威力だっっ...!! これが聖職者の魔力かっっ...!? )。
ハリガネはそう思いながら顔を強張らせ、すっかり取り乱しているノレー神官を観察していた。
「ポンズ神は全知全能ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! 天から降り注がれた神のパワーが跳ね返されるなんて事はあり得ないッッッ!!! インポッスィブルゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!! 」。
完全に乱心状態のノレー神官は、自身の掌をハリガネに向けながら魔力で身体を光らせた。
「インッッッ!!! ゴッドッッッ!!! ウィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!! トラストォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! 」。
シュァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!
ノレー神官がそう叫ぶと魔力によって黄色い光を放っている掌が一層輝きを増し、その黄色い光を放つ魔力が滝の様な凄まじい勢いでハリガネ目掛けて飛んできた。
(なっ...!? 魔力が大波みたいにこっちへ向かってくるぞ...っ!? )。
ハリガネは危険を察知し、とっさに両手で自身の顔面をクロスガードした。
「フハハハハハハハハハハハハッッッ!!! ザッツッッッ!!! インポッスィブルゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!! ミスターブレイヴッッッ!!! 神に服従ホワイトォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! 」。
(発言が完全に悪の帝王なんだよなぁ~! この人本当に聖職者かぁ~? あと、観念ホワイトって何? 観念しろって事?? )。
荒れ狂うノレー神官の魔力が、ハリガネの身体の周りで渦を巻く様に絡みついた。
「うっ...!? マズい...っっ!! 魔力に囲まれたぁ...っっ!! 」。
ノレー神官から放たれた大量の魔力は、先程と同様にハリガネを包み込んだのだが...。
ドガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
あえなく凄まじい爆発音と共に飛び散ってしまった。
「ええ~?? 今度は魔力が破裂したぞぉ~?? 」。
「あら~?? 魔力が消し飛ばされたぞぉ~?? 」。
幸い、ノレー神官が放った強風を免れていたミイラ隊長とカッパ副隊長は、倒れた兵士達を助け起こしながら驚いた様子で何度も瞬きを繰り返していた。
「し、信じられへん...。魔力を跳ね返しただけではなく、打ち消しただと...? 」。
吹き飛ばされたボックスもよろめきながら立ち上がり、この事態に唖然としていた。
「...っっ!? 」。
修道女達も動揺してその場であたふたしていた。
「ヌォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! 観念ホワイトォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! 」。
シュァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!
シュィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッ!!
(もう、ムキになってるじゃねぇかよ...。今は魔力を飛ばしてるだけで済んでるけど...。まさかとは思うけどあの神官、逆上した衝動で魔法攻撃仕掛けてこないよな...? せっかく死刑免れたのに、結果的に死ぬ事になるなんてのは嫌だなぁ~! )。
顔を真っ赤にして魔力を噴射し続けているノレー神官を、ハリガネは呆れた表情を浮かべながら見つめていた。
ドガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
バガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
ノレー神官はハリガネに魔力をぶつけ続けるものの、その魔力は結局跳ね返されるか飛び散りながら消えていった。
光り輝く魔力が飛び散っていく様子は、まさに打ち上げ花火であった。
「わぁ~!! キレ~イ!! 」。
「ホンマやな~、イルミネーションみたいや~」。
予期せぬノレー神官の暴走に困惑し立ち往生している兵士と修道女達を尻目に、コブシとブリッジは飛び散っていく魔力を呑気な様子で鑑賞していた。
「はぁ...はぁ...」。
魔力の放出が途絶えた時、ノレー神官はすっかり疲労困憊の表情を浮かべながら息を切らしていた。
そして、突き出していた両手をだらりと下げると、その場に倒れ込んでしまった。
「の、ノレー神官っ!? 」。
「た、大変っっ!! 魔力を放出し過ぎて脱水症状を起こしているわぁっっ!! 」。
「だ、誰かっっ!! 魔力薬と冷たい水をっっ!! 」。
修道女達は急いで倒れたノレー神官の下へ駆け寄り、手当てを施し始めた。
「聖なるパワーが...神のパワーが...。そんな馬鹿な...。ぐぉぉ...」。
滝の様に頭から汗を流すノレー神官はすっかり憔悴しきっていた。
「...さて、とりあえず教誨は終わったって事で、神官様は別室の方でしばらく休んでいただきましょか」。
見るに見かねたボックスはそう言って、近くにいる兵士達にノレー神官を移動させるよう促した。
「わ、分かりましたっっ!! そ、それじゃあ、私達はこの辺で...。最後なのに慌ただしくてすいません!! 勇者様ぁ~!! いってらっしゃいませ~!! 」。
「あ、こちらこそ。わざわざありがとうございます~」。
ハリガネは主任に会釈しながら、ぐったりとしているノレー神官と慌ただしく退室していく修道女達や兵士達を見送った。
その時、ハリガネは他の修道女と共に教誨室から出ようとしていたブリッジと不意に目が合った。
「...あっ!! そうだったぁ!!」。
ブリッジはハリガネの顔を見て何かを思い出したのか、引き返して足早にハリガネの方へ歩み寄ってきた。
「あの~」。
プリッジがハリガネに声をかけた。
(あ、そういえば何か言いかけてたな。ミイラ隊長がヤバかったから、そのまんま流れちゃったけど...)。
ハリガネはコブシの後ろからブリッジに声をかけられた事を思い出していた。
「あ、はい。何か? 」。
「勇者様は、これから魔獣を狩りに旅立たれるんですよね? 」。
「ええ、まぁ...」。
「あの...」。
ブリッジは不安げな表情を浮かべ、ハリガネを見つめながら話を切り出した。
「...“パール”ちゃんは殺さないでくださいね? 」。
「“パール”...? 」。
ハリガネは眉をひそめてそう聞き返した。
「“パール”って、兎族の真っ白な小魔獣の事やないか? あのすばしっこい...」。
ボックスがそう言うと、ハリガネは目を見開いて納得したように何度も頷いた。
「あ~!! はいはいっ!! “パール”ねっ!! 思い出したっ!! 」。
「私、“パール”ちゃん大好きなんです~! 映像とか画像でしか見た事ないんですけどぉ~! ぴょんぴょん跳んだり~! 耳をピコピコさせたりとかぁ~! 」。
ブリッジは目を爛々させながら声を弾ませて嬉しそうにそう話した。
「確か、ここら辺じゃあ“パール”は獲れへんな~。パルメザンチーズ山脈にはおるんか~? 」。
「え~と、ソイ=ソース国周辺の高原に生息しているみたいですね~」。
「本当ですかぁ~!? 可愛いですよねぇ~!! 」。
ブリッジは両手の指を組んで、嬉々とした様子で目を輝かせていた。
「“パール”かぁ~。“パール”といえば、“勇者”君はアレを捌く《さばく》のが本当に上手かったよね~。狩猟やってるから捌くのが上手いのは当たり前かもしれないけど~。パッパッと処理してたよね~。皮剥ぎとか血抜きとか、手際が本当に良かったのを覚えているよ~」。
「あ~、部隊の先輩達が“パール”大好物だったんですよ~。酒のつまみとしては最高の食料でしたからね~。それでよく“パール”の調達をお願いされてましてね~。特に、戦時中はポンズ王国付近にも“パール”がたくさんいたんで獲ってきては捌いた肉を刺身にして酒と一緒に...あ」。
ハリガネはカッパ副隊長と夢中で言葉を交わしていた時、我に返って恐る恐るブリッジの表情をうかがった。
「...」。
案の定、“パール”愛を抱いているブリッジはしかめっ面で頬を膨らまし、憤っている様子を見せていた。
しかも、涙で溜まっていた琥珀色の瞳はすっかり真っ赤になっており、今にも号泣しそうな勢いであった。
「あ...っ!! い、いやぁ~! 当時は戦争中で食べ物には困ってたんだよぉ~! そ、それで仕方なくね~! 」。
カッパ副隊長は慌てた様子で言葉を付け足した。
「ま、まぁ...。当時は生きるか死ぬかの環境やったからな~」。
ボックスも見かねた様子でハリガネをフォローした。
「...神様はその事を既にお赦しになられています」。
ブリッジはハリガネ達から顔を背け、服の袖で目を擦りながら向き直った。
「でもっ!! もう“パール”ちゃんを殺したり傷つけたりしたらダメなんですからねっ!! 」。
「は、はぁ...」。
ブリッジの勢いに根負けしたハリガネは、頭を搔きながら困惑した様子でそう答えた。
「ブリッジぃ~? 行くよぉ~! 」。
「あ! ちょっと待ってぇ~! 」。
ブリッジは扉の方へ振り向き、同僚の修道女にそう答えた。
(何か、調子狂うなぁ~。雰囲気も独特だし...)。
ブリッジのペースに振り回されているハリガネは、そう思いながら自身の頬を人差し指でポリポリと擦った。
「...とにかくっ!! もう“パール”ちゃんを虐めないでくださいねっ!! 勇者様っ!? 」。
ブリッジは険しい表情を浮かべたまま顔を近づけつつそう念を押すと、ハリガネは勢い負けしてのけ反った。
「は、はぁ...」。
ハリガネは戸惑いながらそう答えると、ブリッジの険しかった表情が満面の笑みに一変した。
「約束ですよっ! それでは“勇者”様に神のご加護があらんことをっ! 」。
「...」。
ハリガネは呆気に取られながら、栗色の長い髪をなびかせて立ち去っていくブリッジの背中を見送った。
「よかったね~、勇者君~」。
カッパ副隊長はニヤニヤしながらハリガネの肩を叩いた。
「...へっ? 何がですか? 」。
ハリガネは目をパチクリさせながらカッパ副隊長に問いかけた。
「ブリッジちゃんは王国でも有名人だから、僕等みたいな修道院の関係者でもなかなか話す機会が無いんだよ~。 今日はハッピーな日だね~。もしかしたら神様であるポンズ神が与えてくださったご褒美かもよ~? 」。
カッパ副隊長がはしゃぎながらそう話している一方で、つまんなそうな表情を浮かべるハリガネはテーブルに自身の肘を乗せて頬杖をついた。
「ご褒美ねぇ~、自分としては恩赦の方が断然良かっ...たぁぁぁぁあああああああああああああっっ!? 」。
「...」。
ハリガネは凄まじい気配を感じ、その気配の先に視線を向けると幽霊の様な雰囲気を醸し出しているミイラ隊長が視界に入ってきた。
「ああ...勇者君...いいよな...。ブリッジちゃんと話せてよかったね...。本当に羨ましいよなぁ...。あ、サイン貰うの忘れてた...。緊張して全然話せなかったし...。あぁ...僕は神に見放された人間なんだ...。この間もお見合いがあったのに...結局...。もういいや...。僕はこれからもブリッジ教の信者として新たな世界で生きて...ブツブツ...」。
今まで黙って後方に立っていたミイラ隊長は、先程のように目を大きく見開きながら殺害現場を目の当たりにしている様な表情でハリガネを睨み付けていた。
周囲に青白く光る魔力を霊魂の様に漂わせているミイラ隊長の様子は、まさに生霊か祈祷師にしか見えなかった。
(またかよぉ~!! ミイラ隊長ぉ~!! マジ、メンドくせーよぉ~!! )。
ハリガネ達が呆れている時、生霊と化したミイラの隊長の背後に立っていたコブシが...。
「男のジェラシーは見苦しいで~」。
ドゴォ...ッッ!!
「ゴハァッッ...!! 」。
ミイラ隊長に後方から左ボディブローを一発見舞った。
「うぉ...っ!? 絶妙な角度でボディが入ったぁ!! 」。
ボックスは感心しながら地面に崩れ落ちていくミイラ隊長を眺めていた。
「さて、私もそろそろ行くわ~。この後はハリガネ君を見送るための賛美歌があるからな~」。
コブシはそう言いながら気を失ってしまったミイラ隊長を肩に軽々と担いだ。
「あ、コブシか? 俺を賛美歌で見送りたいって軍に申し出した元同僚って...」。
ハリガネがそう問いかけるとコブシは頷いた。
「せやで~、私が主任に相談してみたんや~。軍の方にも許可が下りてよかったわ~。みんなも乗り気やったし、ハリガネも楽しみにしてて~なぁ~」。
「おう、ありがと。楽しみにしてるよ」。
「フフフ...。私の美声が遂に轟く時が来たわ...」。
コブシは鼻歌を口ずさみながら気絶したミイラ隊長を背負って退室していった。
(コブシの歌...。ん...? 何か大切な事を忘れているような...。う~ん...)。
ハリガネが難しい顔をして考え込んでいる時、ボックスは不意に教誨室に設置してある置時計に視線を向けた。
「じゃあ、そろそろハリガネさんも会場の方に移動しましょか? 書類の方はもう大丈夫? 書き終わった? 」。
「あ、はい。大丈夫です」。
「じゃあ、自分は君の書類を先に本部の方へ届けていきますわ~。カッパ副隊長、ハリガネさんと会場の方へ先に向かっててもらえませんか? 」。
「分かりました~。それじゃあ勇者君、先行こうか~」。
「あ、はい。それじゃあ、お先に~」。
「おう、済んだら俺も向かうわ~」。
ハリガネはボックスとそう言葉を交わし、カッパ副隊長や他の兵士達と共に教誨室を後にした。
「...」。
ボックスは皆が退室したのを確認すると神妙な表情を浮かべて両腕を組み、教誨室で一人佇んでいた。
「驚いたわ~」。
「う~ん、驚いたねぇ~」。
ボックスがポツリと呟くと、ポンズ神の石像の陰からジューンが微笑を浮かべて姿を現した。




