教誨室でトゥギャザーしようぜっ!
どうも~。
“慈愛の囲い”っていう組織の隊長してます~。
ミイラと申します~。
前作でも登場してたんだけど、みんなは知ってるかな~。
あのクソ...ゴリラ隊長にボコボコにされたから、このまま死んじゃったんじゃないかって思った読者もいたかもしれないけど、僕はなんとか生きてるよ~。
でも、本当に死ぬかと思ったよ...。
三途の川も見ちゃったからね~。
~“慈愛の囲い”ミイラ隊長~
一通り書類が書き終わり、ハリガネはお茶をしながら周囲の人間と談笑していた。
「そうかぁ~、二人はハリガネさんと馴染みがあったんかぁ~」。
ボックスはミイラ隊長とカッパ副隊長の二人に話しかけていた。
「はい~、僕等は後方部隊として戦場基地で前線部隊の勇者君達をサポートしてたんですよ~」。
「ほう~、兵站か~。戦時中は俺も防衛部隊の方やったんや~。今は軍事刑務所の方に回されてるけどな~」。
「そうなんですかぁ~? 」。
和やかなムードの中、ハリガネ達は軍の話に花を咲かせていた。
その一方で、湿っぽい雰囲気を漂わせている修道女が一人。
「グス...ひっくっ...。皆さん、どうしてそんなに明るく振舞えるんですかぁ~? これから“勇者”様は王国に見捨てられて追い出されて大変なのに...うぅ...」。
主任は感極まって再び両手で顔を覆ってしまった。
(あ、主任さんの中で俺はすっかり“勇者”が定着しちゃってるのね)。
当人のハリガネはそう思いながら呑気な様子で提供された菓子を頬張っていた。
「すいませ~ん! “慈愛の囲い”で~す! 」。
扉の向こうからノック音と共に、野太い女性の声が聞こえてきた。
「お、またか? はぁ~い!! どうぞぉ~!! 」。
ボックスが応対すると、主任と同じく黒い修道服を着た数人の修道女達が室内へ入ってきた。
その修道女達の中でも一段と目立つ大柄で体格の良い女性は、ハリガネの事をよく知る人物であった。
「ハリガネ君~! 元気ぃ~? 」。
「おっ! コブシじゃないか~! 」。
コブシはハリガネに軽く手を挙げながら歩み寄ってきた。
「ハリガネ君、ご愁傷様~。ホンマえらい事になってもうたなぁ~」。
コブシがそう言うと、ハリガネは笑みを浮かべながら首を小さく横に振った。
「ありがとう、俺は大丈夫だよ。もう、腹は括ってるし。死刑になるよりは追い出された方が断然マシだな」。
「ホンマかぁ~、一応メガネにも会えるのは最後になるだろうから、会いに行こうって声かけたんやけどな~。そしたら、『俺、ノンスタンスの件で軍から聴収を受けてて、ある事無い事ハリガネに不利な証言しちゃってるから会いに行けない。行ったら確実に殺される』って言うてなぁ~」。
呆れ顔で首を小さく横に振るコブシに、ハリガネは苦笑した。
「そもそもメガネはゴリラ隊長に無理矢理現場へ連れて行かれたわけだし、俺も凶悪な反逆者と軍から決めつけられていたからな。おそらく、軍からの圧力があったんだろうし、俺は怒ってないし気にしてないよ。軍事会議もかなり不利だったし、正直死刑にならずに済んでよかったなっていうのが俺の心境だね」。
「ホンマかぁ~。とりあえず、私はムカついたからしばいたったわ~」。
「は、ははは...」。
ハリガネはコブシの言葉に再び苦笑した。
「“勇者”様...なんて可哀想なんでしょう...」。
「神様...。何故この様な試練を“勇者”様に...グスン」。
「こんなの...あんまりだわ...。ひっくっ...」。
「ああ...。この世に救いは無いのかしら...」。
主任と同様、他の修道女達も眼を真っ赤にしてハリガネを憐れんでいた。
(みんな黒い服装だし、なんか俺が今から死刑になるみたいな雰囲気だな...。出国前に何か士気が下がるなぁ~。あと、“勇者”は主任さんだけじゃなくて、修道院の中でも定着されちゃってるのね...)。
ハリガネは愛想笑いをしつつ、冷めた気持ちで涙を流す修道女を見ていた。
「あの~」。
そんな時、コブシの後ろからヒョコっと小柄な修道女が顔を出した。
「あ、確か...。広場のステージで歌ってた...えと...。あ~」。
その修道女の名前がなかなか出てこなく、ハリガネは助け舟を求めてミイラ隊長の方に視線を向けた。
「隊長...うおっっ!? 」。
ハリガネはミイラ隊長を見て、思い切りのけ反った。
「ブッ!! ブブブブブブブブブブブリッジ=ブックちゃんッッ!? 」。
ミイラ隊長は目を大きく見開いてブリッジを直視していた。
(うわぁ...スゲー顔...。広場で見た時と同じ顔してらぁ~。まるでゾンビみたいだぁ~)。
殺害現場の光景を目の当たりにしている様な表情といい、全身包帯でグルグル巻きにされているミイラ隊長の姿はまさにゾンビそのものであった。
「きゃあっ!? 」。
ゾンビの様なミイラ隊長の姿を目にしたブリッジは、怖気づいてコブシの後ろに再び隠れてしまった。
「隊長~、怖いわぁ~。みんな怖がってますって~」。
「...はっ!? いけない、いけない...これは失礼」。
コブシに注意されたミイラ隊長は正気を取り戻すと、咳払いをして自身を落ち着かせた。
「これは失礼、失礼...。淑女の前でお見苦しいところを見せてしまった...」。
ミイラ隊長は露骨に低く渋い声を出して、手際良く席をテーブルの近くに並べ始めた。
「ミ、ミイラ隊長...? ど、どうしたんですか...? そんなダンディズムっぽい声なんか出したりして...。クールに装ったりもしちゃって...。何か口調まで変わっちゃってるじゃないですかぁ~? 」。
「ハッハッハッハ~! 何を言ってるんだ~い? 勇者君~? 僕はいつもこんな感じだったじゃないかぁ~!! 勇者君には、本当にまいっちんぐマチダゼルビアだねぇ~!! アハッハッハッハ~!! 」。
(ま、マチダゼルビアっ...!? )。
テンションの激変にドン引きして言葉を失っていたハリガネを余所に、ミイラ隊長はドヤ顔で人数分のカップを風のごとく高速で用意し始めた。
「さぁさぁ~、レディー達~! ずっと立っていては疲れてしまうでしょう~? お菓子もありますよ~? さぁ、座って座って~! ティータイムをトゥギャザーしましょう~! 」。
(トゥッ!! トゥギャザーッッ!? )。
ハリガネは唖然としてミイラ隊長を見つめていた。
(ど、どうしちゃったの隊長...? 何でそんなにカッコつけてるの?? 何でそんな高い位置から紅茶をカップに注いでんのっ!? )。
「ははは~、隊長はファンのブリッジ=ブックちゃんがいるから凄い斜に構えてるね~」。
カッパ副隊長は修道女のためにしゃかりきと紅茶を注ぐミイラ隊長を笑いながら眺めていた。
「隊長さんもすっかりノレー神官様の話し方が板についてきたみたいですね~」。
「ノレー神官?? 」。
涙をハンカチで拭う主任の言葉に、ハリガネが怪訝な表情を浮かべながらそう聞き返した。
「君の教誨を担当する神官様や。そろそろ到着されるはずやと思うねんけど...」。
ボックスがハリガネにそう答えた時...。
バァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
大きな爆発音と同時に勢いよく扉が開かれた。
「藪からスティックッッ!! 」。
男は白い歯を輝かせ、颯爽と教誨室に現れた。
姿を現したその男は白い祭服を纏い、紫のストラを首に掛けていた。
「勇者様、あの方が神官のノレー=ティー様ですよ~」。
主任がそう言うと修道女達と共に立ち上がり、両手を組んで祈る姿勢になった。
「ヘ~イ! レディー達! ご機嫌いかが~? エンジョイしてるかい~? トゥギャザーしようぜ~! 」。
ノレー神官はそう言うと、再び白い歯を輝かせて修道女達に微笑みかけた。
(えぇ~!? こんな変な人が神官なのぉ~!? )。
ハリガネは怪訝な表情を浮かべながらノレー神官を見つめ、ただその場で呆然とするしかなかった。




