留置場では単独居室
...(ブラインドの隙間を指で開いて外の景色を眺めてる)。
...ん? ああ、すまない。
私はユズポン警察署の刑事として、日々起きている事件の解決に向かって奔走している。
世界によっては警察を警察官とか呼ぶ事もあるだろうが、ポンズ王国内での警察という存在は憲兵で構成された組織なのだ。
憲兵は所轄の区域の治安を守る義務があり、公務先には警察署や派出所がある。
憲兵は鎧や防具を装備して街中を巡回する兵士のイメージがあるだろうが、私達のように捜査等を行う私服憲兵といったちょっと変わった憲兵もいる。
これは俗に言われる刑事の事で、ドラマのストーリーとしてもよく利用される役回りだな。
回りくどくなったが、取調べをしている我々も憲兵...すなわち王国兵士であるという事だ。
そして、私の公務先である警察署も王国軍の組織であるという事だな。
~ユズポン警察署捜査第一課捜査第一係、憲兵大尉シャウト=サン係長~
「はぁ...。もぉ~!! 何なんだよぉ~!! あの刑事~!! 滅茶苦茶変な人じゃないかよぉ~!! 」。
取調べも終わり、ハリガネは文句をブツブツ言いながら留置場の居室へ戻ってきた。
「おう! 帰ってきたか! 飯の時間やぞ~! 」。
戻ってきた居室の前には長身でやせ型の留置担当兵がハリガネを待っていた。
「あ、どもども~」。
「食事は机に設置された魔法陣の上にもう出てるからな~」。
「あ、了解っす」。
「しっかし、国家転覆を謀った元王国兵士出身の戦士がこんな小っちゃい男だとは思わんかったな~! 」。
留置担当兵は居室の扉を開かぬよう魔力で封じながらハリガネに話しかけてきた。
「フォートナイトさんっ! 何回その話をするんですかぁ~! もぉ~! 」。
ハリガネは苦笑いしながら支給された弁当を食べ始めた。
「え~? そうやったっけ~? はははっ! いやぁ~! でもやっぱり信じられへんも~ん! 」。
「そんなもんですかねぇ~? まぁ~、フォートナイトさんの方がそれっぽい雰囲気出してますもんね~」。
「せやろ? この間なんか俺が非番の時、普通に街歩いてたら特殊治安部隊の奴等に職質されてもうてなぁ~。いや、俺は憲兵やっちゅうねんってな~! まぁ、強面やし怪しまれても無理はないわな~」。
「あ、僕もこの間されましたよ~。アイツ等、何か偉そうにしてて気に入らないんすよね~」。
「まぁ、しゃあないな~。アイツ等はエリートやし、魔法もある程度は使えるからな~」。
「う~ん、何か全然役に立ってませんでしたけどね~。僕等が前線を強行突破してノンスタンスと戦闘してる最中も、アイツ等全然動いてませんでしたしね~。正直、全然使えませんでしたよ」。
「...ん? 」。
フォートナイトはハリガネの言葉を聞くと、腑に落ちない表情で首を傾げた。
「いや、君は反逆者側やっちゅうのに、どうしてノンスタンスと戦うん? 」。
「違いますよっっ!! 何、さり気なく鎌をかけようとしてるんですかっっ!! 」。
「いや...ちゃうねん。君はどっちの味方やったっけ? ノンスタンスじゃなくて軍を裏切った“ガレージ”部隊の隊長側の方やったっけ? 」。
「言葉っ!! 言葉のチョイスっっ!! 」。
「いや、チョイスって何やねん」。
「だから隊長は軍を裏切ったんじゃなくて、部隊を抜けた後に独断で部隊編成して現場へ行っちゃったんですよっ!! ただの暴走行為ですよっ!! 」。
「いやいやぁ~! それはそれでヤバいやろ~! 軍からしてみれば立派な反逆行為やしなぁ~! 」。
「まぁ...。それはそうかもしれないっすけど...あっ! そういえば、あれでしたっけ? 隊長達は別の留置場に送致されてるんでしたっけ? 」。
「おお~、その部隊に参加してる奴等は固まらないようバラバラに分けられてるんちゃうかな~。この留置場にも何人かは入ってるけどな~。君は一人だけ収容される単独居室やけど、他の奴等は集団の居室に収容されてるんちゃうかな? いやぁ~、やっぱテロリストの首謀者となると扱いが違うなぁ~」。
フォートナイトがそう茶化すとハリガネはばつが悪い表情を浮かべた。
「だから違いますってばっっ!! 」。
「分かった、分かった。まぁ、事が事だから刑の確定も早いかもしれんし、留置場から別の機関に移送されるのも時間の問題かもしれんな。ああ、そうそう。自分、弁護人とかはどないすんねん? 」。
「あ、お願いします」。
「分かった。国選弁護人か? 私選弁護人か? 」。
「国選でお願いします」。
「了解~! じゃあ伝えておくから。短い間かもしれんけど、この周辺の居室は君しか使ってないからストレスも感じなくてええんちゃうか? 俺も仕事が楽になりそうやしなぁ~。まぁ、仲良くやっていこうや~」。
フォートナイトはそう言うとハリガネから背を向け、手を挙げながらその場から去っていった。
「はぁ~、国家反逆罪なんて...。刑が確定したら、即日処刑もあり得る...。いや、遺言書とか色々と身の回りの整理を考えると最長でも五日以下は待機期間くれるんだっけ? どっちにしろ死んじゃうんだけどさ...。王国防衛のために出動したのに、何で軍の奴等に逮捕されなきゃなんねぇんだよ...。おかしいだろ、もう...。はぁ...」。
ハリガネはげんなりとした表情を浮かべながら大きな溜息をつき、がっくりとこうべを垂れた。