こんな裁判なんかあるわけ無いだろ
おう、また会ったな。
ぶっちゃけ、こう言うのもなんやけど...。
俺達、実はそんなに無罪勝ち取ってないんや...。
何でやろうな...。
~法律事務所モアーデリシャスコンボ、ジュードー=カシン弁護士~
軍法会議当日の朝、ハリガネは都市ユズポンにあるポンズ王国防総省という機関の建物内にいた。
ポンズ王国防総省とはポンズ王国の軍事組織を統括しており、軍における最高機関であって通称“王国軍本部”とも呼ばれている。
また、その機関には法廷が存在し、ハリガネの軍法会議もそこで行われている最中であった。
ハリガネはその法廷の中心にある証言台の前に立たされ、弁護士であるギャグとジュードーはハリガネの両脇に立っていた。
ハリガネと対面にいる裁判官は、高い位置から見下ろす様な格好で着席していた。
裁判に参加する陪審員は証言台にいるハリガネの両脇の席に着いており、全員気難しそうな面持ちで手元にある書類を睨み付けていた。
軍法会議に立ち会う裁判官と陪審員は軍人であり、全員階級章や勲章を装着した紺色の軍服を着用していた。
法廷には被告人であるハリガネと弁護人以外は裁判官一人、陪審員十二人とその他軍事関係者が数人。
軍法会議は完全非公開であり、軍の関係者以外の傍聴者はいない。
つまり、この軍人達によってハリガネは裁かれる事となる。
そんなピリピリとした緊張感が漂っている最中、被告人のハリガネは欠伸を嚙み殺しながら両目を何度も瞬きさせていた。
(昨日はオッサンの長話で一睡もできなかった...。畜生、全然頭が回らねぇ...。それにしても...)。
ハリガネは正面にいる裁判官に視線を向けた。
(まさか、現役の国防長官セタガヤ大将が俺の軍法会議の裁判官を務めるなんてねぇ~)。
モヒカン気味の金髪にひょっとこ顔でフチありメガネをかけているセタガヤ国防長官は、掛けている眼鏡を何度も押し上げながら書類に目を通していた。
「え~と、被告人は石板に描かれた魔法陣に関しては無関係であり、指名手配集団ノンスタンスの侵入や協力は一切していないと...てかさぁ~」。
セタガヤ国防長官は怪訝な面持ちでジュードーに視線を向けた。
「弁護人さぁ~、法廷で覆面被るの止めてくんない? 」。
「意義あり! 私は弁護人の通訳であり、弁護人はギャグという全身黒タイツの方であります! 」。
何故か覆面を被っているジュードーが挙手して異議を唱えると、セタガヤ国防長官は呆れた表情を浮かべながら深い溜息をついた。
「そもそも、何で立会人がプロレスラーのマスクなんか被ってんのよ~。肝心の弁護人に至っては全身黒タイツで出廷するなんて、こんなの前代未聞ですよ...。勘弁してよ! もぉ~! 」。
「意義あり! これはプロレスラーのマスクではなく、ルチャリブレのマスクです! 訂正願います! 」。
「貴方、そんな事を訂正してもしょうがないでしょうが~」。
「裁判官! ルチャドールの覆面は命と同等です! 裁判官の発言はルチャとえなり君へのリスペクトを欠いています! 訂正願います! 」。
「だから、そんな事訂正してどうすんのよ~! 全然話が進まないからそのままでもういいよ...。それで、被告人はノンスタンスと無関係だと? 」。
「はい、あくまでも敵対関係...」。
「いやいや! ちょっと待ってよぉ~! ねぇ~! 裁判官~! 被告人は嘘言ってますよぉ~! ちょっとぉ~!! 」。
一人の陪審員が椅子から立ち上がってハリガネの発言を遮った。
「そうなの? バイキン中佐」。
「いやいやっ! 裁判官っ! これねぇ~! 私はねぇ~! 手に入れてしまったんですぉ~! 」。
バイキン中佐と呼ばれる中年の軍人は、ニタニタと半笑いしながら書類を片手に持って証言を始めた。
「これねぇ~! 完全に被告人とノンスタンスは内通してるんですよぉ~! え~、昨日の話なんですがねぇ~? “ガレージの乱”に参加していたノンスタンス構成員の逮捕者全員が『被告人はハリボテ元兵士の意思を継ぎノンスタンスに支援を続けていた』、という供述をしているわけなんですよぉ~! 供述調書がありますんで、証拠として裁判官に提出しますねぇ~! 」。
(...チッ! 本当にツイてねぇな~。あの皮肉交じりのだみ声といい、人を小馬鹿にした様な態度や顔といい...。最近は民間のメディアに媚びてて報道番組とかにも出演してたりして調子に乗ってたもんな~。無性に腹が立つからチャンネル変えてたけど...。現役兵士やってた時から気に食わねぇ奴だとは思っていたが、まさかバイキン中佐が陪審員なんて...)。
ハリガネはぶすっとした仏頂面で、セタガヤ国防長官に証拠を自信満々な様子で手渡しているバイキン中佐を睨んだ。
「ふ~む...」。
セタガヤ国防長官はバイキン中佐から受け取った書類をしばらく凝視した。
「我が王国の侵入に関しましては被告人を介し、国外へ通じていた通路魔法陣からノンスタンスの侵入を協力していた事が判明致しましたぁ~! 未遂に終わったものの王立図書館で首謀者である“赤髪のデイ”や“白装束のホワイト”と落ち合い、監視魔法除去のために王国軍施設部隊のメガネ伍長を拉致し利用していた事も同兵士の証言で判明しておりますぅ~! 」。
バイキン中佐は半笑いの表情を変えず、ハリガネをおちょくる様にそう証言していた時...。
「バイッッッ!!! キンッッッ!!! マァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!! 」。
弁護人であるギャグが高々とそう叫ぶと、周囲の人間はどよめき声を上げながらギャグの方に視線を向けた。
「弁護人は『意義あり! 現場へ同行したヤマナカ傭兵はノンスタンスのセキュリティを強行突破し、メガネ兵士と共にノンスタンスの確保,撃退に努めていたと証言しています! 』、と申しております! 王立図書館内からメガネ兵士と協力して“赤髪のデイ”や“白装束のホワイト”の発見を軍に報告したのは被告人です! その後も首謀者二人を追跡したという事からノンスタンスとの共犯は考えられません! 」。
ギャグがジュードーを介してハリガネを弁護すると、バイキン中佐はさらに小馬鹿にしたように笑いながら首を横に振った。
「いやいや! そんなアリバイなんていくらでもつけられるじゃなぁ~い? しかもそれって軍の指示を無視して突撃したガレージ側の証言でしょ~? 軍の方はちゃ~んと供述調書を残してあるんだからさぁ~?? 」。
バイキン中佐はそう言いながら、ハリガネ達に向かって見せびらかすように書類をちらつかせた。
「それにさぁ~、供述調書にも書いてあるだけどさぁ~? ノンスタンス襲撃の前日に被告人は自分の家で首謀者デイと会ってるらしいじゃない~? どんな会話してたの~? これも確保されたノンスタンスのメンバーからの供述なんだけどさぁ~?? 」。
(ノンスタンスメンバーからの証言...? デイがあの後メンバーに俺と会った事を伝えたのか...? デイがメンバーと口裏を合わせていたという事か...? そうだとしても、デイが家に侵入してきた理由もよく分かってないし...、いまいち、ノンスタンス側の意図が分からないな...)。
「被告人、そこら辺どうなの~? 」。
セタガヤ国防長官が眉間にしわを寄せて考え込んでいたハリガネに返答を促した。
「会話...というよりは俺達の邪魔するんじゃねぇみたいな忠告を受けましたよ。半ば脅迫気味に」。
ハリガネがそう供述すると、バイキン中佐は腑に落ちない表情で首を傾げた。
「ん~! まぁ、話の内容はそれで良いとしてもさぁ~? ノンスタンスは指名手配集団でしょ~? 軍の方にその旨の通報をしなかったのぉ~? 君が軍に通報したっていう記録が残ってなかったんだけどぉ~?? 」。
(やっぱり、そこ突いてきたか...。今、思い返せば確かにそうなんだよな...。それに関しては完全にイレギュラーだったんだよな...)。
ハリガネはバイキン中佐にそう指摘されると表情を曇らせて返答に躊躇してしまった。
「あれぇ~?? そこ言ったら駄目だったぁ~?? あとさぁ~、君はもともと兵士だったわけじゃ~ん?? 侵入者がいたらまず報告でしょ~?? しかも接触して被害が無かったって事はさぁ~?? 裁判官~! これはもう完全にクロでしょ~?? ねぇ~?? 」。
「このパワハラDV男ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! 」。
奥歯を嚙みしめて険しい表情を保っているハリガネを余所に、ギャグは再び異議を唱えた。
「『異議あり! 被告人は定職に就けず、父親ハリボテ=ポップが遺した多額の賠償金返済のせいで情緒不安定な状態が続いており、危険察知能力が判断出来ない状態でした! 』、と申しております! 被告人は首謀者と戦闘する気力が無く、結果論ですがそれを察した首謀者は侵攻前日という事も考えて忠告で済ませたという事になります! そもそも、ノンスタンスは被告人の自宅を不法侵入したんですよ!? 彼も被害を受けた側の立場です!! 」。
ギャグとジュードーがそう弁護すると、バイキン中佐は首を横に振りながら立ち上がってハリガネを指差した。
「いやいやっ! まず情緒不安定だったら襲撃現場まで行って国防に参加できるわけないじゃ~ん?? なぁ~に言ってんのぉ~?? これどうせ当日の打ち合わせしてたんでしょう~?? 結局、首謀者二人の逃亡も被告人が協力してたんでしょう~?? 現場にいたんだからさぁ~?? そもそも通報があれば、あんな大事にはならなかったと思うんだけどぉ~?? だって敵と遭遇した事態で軍に通報しないなんて、兵士出身の人間としてはとても考えられない事でしょ~?? それじゃあ、疑われてもおかしくないでしょ~?? 」。
バイキン中佐は目を爛々とさせながらハリガネをそう攻め立てた。
「...」。
図星を突かれたハリガネは黙り込んだまま地面を見下ろした。
「あ~、バイキン中佐。書類見てるからさ、ちょっと静かにしてくんない? 」。
セタガヤ国防長官は書類を見つめたまま、バイキン中佐に静粛を促した。
「いやいやっ! 裁判官っ! これはもうアウトでしょ~?? もう、これ以上供述を聞く必要もありませんよぉ~! 完全に反逆行為でしょ~?? もう証拠もここにあるんだからさぁ~?? 」。
「うるせぇッッ!! このスキャンダル男ッッ!! 」。
「『異議あり! 陪審員は被告人を反逆者前提で尋問している悪質な発言が目立ちます! 控えるよう願います! 』、と申しております...てか、ええ加減せえッ!! コラァッ!! 黙って聞いてればさっきからネチネチとッ!! 供述調書なんて軍の方で勝手に改ざんできるやろうがッ!! 」。
ギャグとジュードーはそう抗議しながらバイキン中佐に食ってかかった。
「ちょっとぉ~! 裁判官聞きましたぁ~?? 今の弁護人の乱暴な発言! これって暴言だよねぇ~?? あと、弁護人の言葉アレ完全に本音だよね?? 」。
ハリガネを差し置いて勝手にエキサイトする三人に、見かねたセタガヤ国防長官は呆れた表情で溜息をついた。
「ちょっと~、静かにしてって言ったじゃん! 三人共退廷させちゃうよ~! 」。
カァン...ッッ!! カァン...ッッ!!
セタガヤ国防長官はそう言って木槌を叩き、再び静粛を促した時...。
「よっしゃあぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああッッ!! ゴングが鳴ったでぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええッッ!! 」。
「令和維新軍ッッ!! 」。
セタガヤ国防長官が木槌を叩いた瞬間、ギャグとジュードーはバイキン中佐に飛びかかった。
「うわぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああッッ!? 何をする貴様ッッ!! 」。
陪審員の席は暴れている三人と止めに入った者達で揉みくちゃになっていた。
「おらぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! バトルロワイアルじゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 喰らぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええッッッ!!! ツームストンパイルドライバァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 」。
「アックスボンバァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
ガッシァァァァアアアアアアアアアンッッッ!!!
「ギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!? 」。
「こいつらぁぁぁぁあああああああああああああああああああああッッッ!!! 捕まえろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! 」。
「団体交渉だぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? コラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!? 」。
「ナニコラタココラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
「ベルトよこせコラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
「こいやコラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! オラェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!?!? 」
「...」。
法廷内は砂埃と椅子が舞い上がり、混乱状態にある陪審員席をハリガネはただ啞然として見つめる事しかできなかった。
「ちょっと! ちょっと~! 本当にみんな退廷させちゃうよ~! 」。
セタガヤ国防長官は肩をすくめてそう忠告した時...。
ドガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
凄まじい音と共に爆風と火薬の匂いが室内に舞い込んできた。
「な、何だッッ!? て、敵襲かッッ!? 」。
「部隊は何してるんだッッ!? 」。
「ノンスタンスの生き残りかッッ!? 」。
「すぐに応援を呼べッッ!! 」。
(い、一体なんだ...っっ!? デイがまた襲撃しにきたのか...っっ!? )。
ハリガネが目を細めて爆音先を凝視すると煙の中で壊した壁穴の奥から、一人の男が法廷に入ってくる姿が確認できた。
その男は奇妙な格好をしており、おかっぱヘアーに金色の字で“金”と書かれた赤色の腹掛けという金太郎のコスプレをしていた。
さらに、その男の顔には泥棒髭や頬に二重丸といった落書きが施しており、片手にはピコピコハンマーを持っていた。
「何だっ!! お前達っ!! オイラがいねぇところで勝手に盛り上がってるんじゃねぇっ!! この野郎っ!! 」。
男はそう叫びながら、もう片方の手に持っていたロケットランチャーを放り投げた。
恐らく、そのロケットランチャーで壁に穴を開けたのだろう。
その男の後ろに続き、鎧を纏った数十人の兵士達が慌ただしい様子で法廷に入ってきた。
「テンポ=ジャイアン国王陛下の御前であるぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッッ!! 控ぇぇぇぇえええええええええええええええいッッ!! 」。
法廷内にいた軍人達は即座に片膝をつき、深々と身をかがめた。
「お前もだッッ!! 頭が高いぞッッ!! 控えんかッッ!! 」。
「ぐ...っっ!? わ、分かった...っっ!! 分かったから...っっ!! 」。
ハリガネは兵士に無理矢理跪かされた。
(てか、ポンズ国王が何でここに...? )。
ハリガネは頭を下げながら、横を通り過ぎていく国王をコッソリと下から見上げていた。
「へへへっ! コイツは面白くなりそうだっ! 」。
国王はそう呟きながらハリガネに微笑を浮かべ、その場を通り過ぎていった。




