運命の判決前日にとんでもない事を当人の前で話す畜生共
あ~あ、最初前書き任された時は容疑者だったけど、遂に刑が確定して被告人になっちまったよ。
はぁ~、本当に幼少期から良い思い出が無いな...。
え? 人生において良い思い出?
そうだな...。
友人のミドルと出会えた事が人生においての救いだったかもな...。
ミドルと初めて出会ったのはお互い七歳の時で、アイツの両親が経営してる道具屋で包帯を買った時だったかな...。
それに王国軍の歩兵隊の先輩達も怖かったけど、人情に厚かったし結構良くしてもらってたんだよな~。
そんな人達といたから、今の俺がいるし救われた。
みんなには本当に感謝してる。
“奴”を除いてな...。
~元ポンズ王国配下歩兵隊兵士、ハリガネ=ポップ被告人~
時を飛ばして三週間後、ハリガネは自分の運命を分ける軍法会議前日を迎えていた。
「...」。
収監されている刑務所の消灯時間を過ぎ、ベッドに横たわるハリガネは目を開けたまま暗闇の中で天井を見つめていた。
(あ~あ、明日遂に裁判か...。しかし、こんな早くに軍法会議の日が来るなんてな~。軍はそんなに俺を早く消したいのか...。三週間経ったとはいえ、“ガレージの乱”の関連人物達の事情聴収や情報収集だって一通り終わってないはずだ。それでも俺の軍法会議は明日開廷される...。王国軍組織下の査問委員会で選考された軍人を陪審員として、最終的に裁判官が俺に判決が下す...)。
「はぁ~」。
ハリガネは大きな溜息をついて寝返りを打った。
(反乱側に加担したと思われてる俺には圧倒的に不利だ...。こうなる事は想定していたが、弁護士と打ち合わせしても何も活路が見出せない...。明日は軍の連中が俺にどんな罵り方をするのやら...。あの変な弁護士達は王国内で国民とノンスタンスみたいな反社会的勢力団体の癒着が深刻化していて、軍がその団体の撲滅強化運動に取り組んでいる最中に起こった事件だったって話してたな。そうなると、散々王国で不祥事やらかしてノンスタンスと関係持ってた“奴”の息子で兵士時代の部下だった俺は大分軍に心証が悪いぞ~? てか、俺マジ無実だし。マジ何にもしてないんだけど。はぁ~、ずっと日雇い労働頼りと求職活動のフリーター生活で毎日しんどいのに、ポンズ神はそんなに俺の事が嫌いなのかね~? まぁ、労働せずにご飯食べられるという点は嬉しいけど...)。
ハリガネが頭の中でそう考えを巡らせていた時、眩い光を放つ魔法陣が突然壁に現れた。
「...チッ! 眩しいな...。何もこんな時間に来なくていいだろう? 」。
ハリガネは手をかざしながら眩しそうに魔法陣を見ると、ジューンが手を振りながら姿を現した。
「ハリガネ君~! 久しぶりに会ってそのコメントはないだろう~? 酷いなぁ~! 」。
ジューンは相変わらずへらへら笑いながら壁に寄りかかった。
「会わなくて三週間ちょいくらいか...。もう会う事はないだろうと思って安心してたんだがな~」。
「え?? 会ってない期間数えてくれてたの?? 嬉しっ!! 」。
皮肉を交えたハリガネの言葉を余所に、ジューンは嬉しそうに両拳を握って口元まで近づけ可愛い子ぶった様子を見せた。
「キモい、やめろ。それに消灯時間はいくら魔力で気配隠しているとはいえ、魔力を使える刑務官が辺りを巡回して...」。
ハリガネがベッドから起き上がってそう言いかけた時...。
「おっ...!? 何だ? 何だ? 」。
驚くジューンの身体が突然パァッと青白く光り出した。
「 俺の魔力を押さえつけられたぞッ!! ...勘づかれたかッ!? 」。
ジューンとハリガネが入口を見ると、いつの間にか刑務官のボックスが神妙な表情を浮かべ扉の前に立っていた。
「やはり、気づかれたかッ!! 」。
ボックスに掌を向けられたジューンが顔を強張らせてそう言った瞬間...。
パァァァァアアアアアアアアアアアン...ッッ!!
「...ッッ!! 」。
ジューンの身体を包んでいた青白い光が四方八方に飛び散ったと共に、風船が割れた様な乾いた破裂音が部屋内に響き渡った。
(魔力が吹き飛んだ...!! )。
ハリガネは驚いて魔力を操っているボックスを見つめた。
「チッ...!! “サイレント”に使ってた魔力を弾き飛ばされちまったぁ~い!! 」。
「おお~、魔法の効力が消えて侵入者の顔がよく見えるわ~。しっかし、迂闊やったな~。まぁ、裁判は明日やし今日来るだろうと思ってな~。しばらくここら辺を張ってたわ~。やっぱり来たか~」。
ボックスはそう言いながら魔法陣で施錠された扉を開けて部屋に入ってきた。
「ありゃりゃ! マークされてたのね~! 」。
ジューンは肩をすくめて大袈裟に驚く仕草をした。
「ユズポン留置場にいるフォートナイトから話がこっちに入ってんねんぞ~? 」。
「それは彼も言ってたよ。あっちも俺の事は伝えておくって。まぁ~、話を通したのは俺の方だけどね~ん! 」。
「まぁ、今日限りにしといてくれや~。バレたら厄介やからな」。
「ありがとさーん! 監視とかの方は大丈夫?? 」。
「侵入しといて今更やな~。まぁ、大丈夫や。ここら辺は消してあるからな~。それに、このエリア付近には誰も収容されてないから怪しまれんと思うわ」。
「サンキュ~!! 助かるよ~!! 」。
「誠意は言葉よりも“こっち”やぞ~」。
ジャラジャラ...。
ボックスはそう言ってポケットに入った小銭の音を鳴らした。
「分かった、分かったって!! 状況が落ち着いたら、ちゃんとやっておくから! 」。
「約束やぞ~? 忘れたらアカンで~」。
「え...? どういう事?? 」。
状況が呑み込めていないハリガネは、やり取りをする二人を見つめながら怪訝な表情を浮かべて困惑していた。
「君の監視を担当をしてた憲兵のフォートナイトと刑務官の彼とは昔から馴染みでね~。今回は君の調査とかもあったし、ちょっと協力してもらってたのさ~」。
ジューンがそう答えると、ハリガネは苦笑しながら肩をすくめた。
「何だ、やっぱり軍側の人間だったのかよ~。まぁ、どうでもいいけど。ところで、今までずっと言葉を濁してたみたいだけどさ~。結局、俺を調査してどうするのよ? 」。
「う~ん、そうね~」。
ハリガネの言葉にジューンは自身の顎を撫でながら考え込んだ。
「もう、判決受けるの明日なんやし。もう教えてあげてもええんちゃう?? 供花代わりって事で」。
「ちょっとっ!! 死ぬ前提みたいなのやめてくれませんっ!? 不謹慎にも程がありますってっ!! 」。
「せやけど、国家反逆罪やしな~」。
「よし! 決めたっ! 勝負しよう! 明日の判決で君が無罪になったら教えてあげるよ~! それでいいだろう? 」。
「よくねぇよっ!! 人の命と何を賭けようとしてんだよっ!! 」
「その勝負乗ったわ~! 俺、死刑に百万ゴールド賭けるで~! 」。
「人の命でギャンブルすんじゃねえッッ!! この不謹慎野郎共ッッ!! 」。
ハリガネは乗り気な二人に対し、しかめっ面をして不快感を露わにした。
「ん...」。
ジューンは険しい表情で地面を見下ろした。
「ん? 何か気配でも感じるか? 近くに人の気配でも感じ取ったか? 」。
ボックスは怪訝な面持ちで小声でジューンに問いかけると...。
ガサ...。
ジューンは懐から分厚い紙幣の束を取り出し...。
「俺は終身刑を選ぶぜっ! 今回は判決が変わると見たっ!! 三百万ゴールドでいくぜっ!! 」。
「よぉ~し!! 成立やな!! 明日が楽しみや~!! 」。
ガシ...ッッ!!
ジューンとボックスは固い握手を交わした。
「...ッッッ!!! 」。
そんな意気揚々としている二人を見て、こめかみに青筋を立てて憤るハリガネ。
(この畜生共ォ...ッッ!! 人の命で悠長にギャンブルしやがって...ッッ!! もし、明日死刑判決になっても即行で再審査請求してやるからな...ッッ!! )。
ご満悦な二人とは対照的に、怒りで身体を震わせるハリガネであった。




