何なんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおッッッ!!! ここの刑務官はよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおッッッ!!!
フフフ...。
また俺の出番がきたか...。
今回も、君達にとっておきの情報を教えてあげちゃうよ~。
オリーブオイル国の国民は魔獣の血が入ってるんだ。
言わば人間と魔獣の混血族なんだな~。
特に女の子は肌がとっても白くてみんな瞳が青いのが特徴的なんだよね~。
そんでもって、スタイルが良くて“そういう系の店”も国内で多い...って。
あっ! 待って! 待ってぇ~!!
~謎の男、ジューン~
消灯時間の午後九時を過ぎ、照明を落とされた刑務所内はすっかり真っ暗になっていた。
「...」。
ハリガネは両目を開けたままベットに横たわり、じっと天井を見つめながら考え事をしていた。
(はぁ~、今日は疲れたな...。でも、俺はノンスタンスの活動を支援したわけでも協力したわけでもない。こんな濡れ衣を着せられて黙っていられるかっ!! )。
「...」。
ハリガネは瞼を閉じ、頭の中で再び考え事を始めた。
(今、思うと戦闘の中で敵に話しかけて挑発しながら心身揺さぶる癖が俺にはあったが...。いや、それも立派な心理戦だったわけなんだけど...。アイツと何戦か交えてそれがかえって仇になっちゃったなぁ~。アイツもなかなか口が達者だったから、逆にフランクな感覚になっちまったのかもしれない...。あ~あ、あの時の自分は楽観的に考えてたんだろうなぁ~。何でこうなっちゃったんだろ~? )。
ハリガネは脳内でノンスタンスと交えた過去の戦いを回想していた。
王国配下の兵士として戦い続けてきたハリガネは、今まで敵国軍だけでなく幾多の反逆軍や賊団を討伐してきた。
そして、ハリガネは王国に侵攻してきた部隊の討伐だけでなく過去にも前線部隊として敵軍の領地に侵攻し部隊の壊滅を成し遂げ、王国戦士として母国ポンズ王国に勝利をもたらしてきた。
また、ノンスタンスも凶悪な反逆軍であり、また凶暴なテロリスト集団として諸国に脅威を与えてきた。
ポンズ王国とも血を血で洗う抗争を繰り広げ、ハリガネ自身もノンスタンスが拠点にしていた当時のアジトに攻め入り追い詰めた事もあった。
(ノンスタンスなんて簡単に消滅させられると思ったんだが、予想以上に粘られてデイともある意味好敵手みたいな真柄になってしまったのも事実だ...。あぁ~!! 色々と楽観的に考え過ぎたぁ~!! クッソォ~!! 深追いしてもデイの首だけは獲っておくべきだったぁ~!! 何度かアジトへ乗り込む機会があったし、奴等が逃走してたところを小隊で追走していれば局面が変わってたかもしれないなぁ~!! てか、今回は無理にでもデイとホワイトの首を狩り獲るべきだった...っっ!! 畜ッッ生ッッ...ッッ!! )。
「~~っっ!! 」。
ハリガネは悔しさのあまり布団に潜り込んだ。
そんな時、ハリガネは布団の中で今日ジューンに言われた事を思い出していた。
(“今日の敵は明日の友”なんて...冗談じゃねぇ!! 奴等は敵だッッ!! テロリストだッッ!! 俺はあんな非国民共やクソ野郎とは違うッッ!! )。
コツ...コツ...。
その時、刑務官が床を歩く革靴の足音が鮮明に聞こえてきた。
「...」。
コツ...。
足音が近くを通った時、その音が止んだ。
「...」。
「...」。
しばらく沈黙が周囲の空間を支配する。
「...」。
「お~い! 」。
「...」。
「お~い! 三十番~! 」。
「...? 」。
三十番はハリガネが収容されている部屋番号である。
呼ばれたハリガネは布団から顔を出して扉の方を見た。
暗闇の中、檻式の扉越しから両目を思い切り見開き、電灯を自身の顔に当てている担当刑務官のボックスが立っていた。
その様は幽霊そのものである。
「うわぁぁぁぁあああああああっ!? 怖っ!! 」。
ハリガネは驚いて思わず声を上げた。
「おい! うるさいぞ! あと、布団で顔を隠したらアカン! 顔はちゃんと見せた状態で眠っとけ~! 」。
「あ、すんません...。顔があまりにも怖かったもので...」。
「やかましい! よく言われるわ! 」。
「あ、そうですか...。すんません、気を付けます」。
「おう」。
ハリガネはボックスに謝って再び瞳を閉じた。
「...」。
『それに国際指名手配犯のお前が顔出しのためにただ俺に会いに来たわけじゃねぇだろ』。
「...」。
内戦が起こる前日、ハリガネはデイに言い放った言葉を思い出した。
(あの時、デイが俺の家に侵入された事は異常だ...。あの場面で意味深だったと考えても...。あの時の俺には...余裕なんかなかった。王国を考える余裕なんかも...無い。俺は傭兵としての仕事も無くなり、剣や銃も生活上使う必要無くなった世の中で生きていくのが精一杯だった...。だが、俺があの日...軍にデイに存在を知らせなかった事で王国を危機にさらしてしまった...。侵略者、まして国際指名手配犯である赤髪のデイに関する通報を怠った俺は、戦士としても王国民としても失格だ...。本当にどうかしてた)。
ハリガネは大きく溜息をつきながら、デイと出会った時の事を回想しつつ自問自答をしていた。
何故、敵側のデイがただ自分に会いに来たわけじゃないと分かっていながら、より深く物事を考えられなかったのか。
そして、家でデイに見せてしまった無防備で無警戒な姿勢の中でのあの体たらく。
もしかしたら、デイがあの時に言っていた通り、平和ボケで戦士としての感覚が鈍っていたのかもしれない。
実際に本格的な実戦から二年も遠ざかっており、その間にも傭兵らしい仕事は依頼も無く戦士職らしい活動はほとんどしていなかった。
その後は剣術や武術の鍛錬も修行も特にせず、日雇い労働の日々...。
土木作業,薬草探索,建設現場の交通整備,迷子の魔物探し...。
気づけば一日,一年が淡々と過ぎ去っていく。
三十を越えたハリガネは、戦士が必要とされなくなっていく時代の中で生きていく事にただ必死であった。
戦いが無くなっていく時代の中で普段から剣を携帯していたのは戦士としての誇りを忘れないためか、はたまた単なる強がりなのか。
今となってはフリーターの身であるハリガネにとって、ノンスタンスの野望に拘わっている暇などなかった。
...というよりは、そこまで頭が回らなかった。
ハリガネ自身は王国兵士として王国軍に従事にしていたが、その後に父ハリボテのトラブルに巻き込まれる形で軍人をリタイアした。
そして、ハリガネは狩猟や傭兵で何とか生計を立てていたものの、大半をハリボテの賠償金の返済に当て充て贅沢らしい贅沢をしてこなかった。
日々、戦っていた人生。
戦う必要が無くなると、仕事も無くなり金もない。
王国で魔術が発展していく中で、魔力の使いこなせない戦士の需要は余計無くなってきた。
近年は色々と切り詰めて生活を送る日々。
戦士として生計の立てられない定職就かずの不安定な男。
そんな時代に取り残されてしまった戦士も、三十二歳で未だに一人暮らしの独身。
そんな境遇の中、久々の依頼で傭兵とはいえ国家の防衛のために現場に出動したその矢先、元上官の厄介事に巻き込まれ...。
気付けば反逆者として世間から指を差され、今は軍事刑務所で裁判を待つ踏んだり蹴ったりな被告人。
(もう、滅茶苦茶だよ...。賠償金がそれでチャラになるんだったら、もう一層俺のことを殺してくれ...ん? 賠償金? )。
今までの苦い過去を振り返って悲観的になっていたハリガネであったが、“賠償金”というキーワードが引っ掛かかると一気に怒りが湧き上がっていた。
(そうじゃねぇかッッ!! 何で生まれてから俺はアイツの尻拭いばっかしなきゃいけなかったんだッッ!! 幼少期から父親らしい振る舞いどころか人を奴隷みたいに使ってきた畜生だぞッッ!? 軍人の時だってアイツが任務を無視して俺が部隊でどんなにフォローしてきたかッッ!! しかも、何で俺が生きてるか死んでるかも分からない奴の賠償金を半生返済し続けなきゃなんねぇんだよッッ!! 何でアイツとノンスタンス関連で当事者じゃない俺が反逆者として処刑されなきゃなんねぇんだよッッ!! おかしいだろッッ!! こんなのッッ!! )。
ギギギッ...!!
ハリガネはやり場のない怒りを鎮めるように歯を食いしばった。
(クソッッ!! こんなの死んでも死にきれねぇぞ!? 冗談じゃねぇッッ!! あのクソ親父ッッ!! もし、奴が生きてるのであれば俺が亡霊と化して地獄へ道連れにしてやるッッ!! )。
ギリギリッッ…!!
そして、歯軋りをするハリガネ。
怒りと復讐が入り混じった感情に支配されたハリガネは、閉じていた目をカッと大きく見開いた。
(おかしいッッ!! こんなの絶ッッ対ッッ!! おかしいッッ!! 俺だってゴリラ隊長の暴走に巻き込まれた側だぞッッ!? 成り行きとはいえ王国を防衛するために現場へ乗り込んだんだぞッッ!? それなのにッッ!! 何で王国軍に逮捕されて裁判を受けなきゃならんのだッッ!! 何で刑務所にいなきゃなんねぇんだよッッ!! クッソォ~!! こうなりゃあッッ!! 徹底抗戦だッッ!! )。
ハリガネは反骨心を湧き上がらせ、王国や世間に抗う決心を固めるのであった。
「お~い! 」。
そんな時、扉の向こう側から刑務官であるボックスがハリガネに呼びかけた。
「...何すか? 」。
ふと我に返ったハリガネは、扉の奥から覗き込むボックスに視線を向けた。
「怖いわ」。
「え? 」。
「自分の顔」。
「あ、すんません」。
ハリガネはボックスに謝り、再び瞳を閉じた。
(とりあえず、今日はもう色々と疲れたから何も考えずに眠ろう...)。
そう思ったハリガネは寝る事に専念した。
「…」。
「…」。
しかし、ボックスはその場から離れない。
「…」。
「…」。
ずっとハリガネを凝視している。
「…」。
「…」。
ボックスはまだ離れない。
「…」。
「…」。
視線を感じていたハリガネは、堪らず目を開けてボックスの方に視線を向けた。
「あの...。まだ何か? 」。
「つまらん」。
「...は? 」。
ハリガネはボックスの言葉に眉をひそめた。
「退屈や」。
「いや、そんな事を僕に言われても...」。
「付き合え」。
「え?? 」。
「話に付き合え」。
「いや、もう眠い...」。
ガンガンガンッッ!!
突然、ボックスが扉を叩き始めた。
「ちょっ!? 何してるんですかっ!? 」。
「ホンマこの時間帯退屈やもん~!! 気が狂いそうやぁ~!! 」。
ガンガンガンッッ!!
「そんな大きな音立てないでくれ...っっ!! 俺はアンタの睡眠妨害に気が狂いそうだ...っっ!! 」
ガンガンガンッッ!!
ガンガンガンッッ!!
ガンガンガンッッ!!
ガンガンガンッッ!!
ガンガンガンッッ!!
ガンガンガンッッ!!
ガンガンガンッッ!!
「ああぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああッッッ!!! もうやめてくれぇぇぇぇぇえええええええええええええええええッッッ!!! 話聞くだけだったらぁぁぁぁああああああああああああああああッッッ!!! いっっくらでも聞くからさぁぁぁぁああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。
こうして、ハリガネはボックスの話を夜通し聞くハメになってしまった。




