ハリガネ=ポップ容疑者
王国兵士を除隊し傭兵や狩猟士として活動するも、魔術の発展による時代の変化に適応できず...。
本職の戦士では生計が立てられず、定職にも就けず日雇い労働で生活を耐えしのぐ毎日...。
バーの用心棒としての仕事で、何とか貯蓄できるかと思った矢先に内戦勃発...。
奉仕活動の一環として久々に傭兵として出兵を命じられるも、王国軍に反旗を翻した元上官の兵士による圧力で部隊に参加させられ...。
気づけば有る事無い事を突っつかれて、反逆者として逮捕されてしまいました...。
幼少期から戦士として教育されて王国兵士から無所属の戦士、言わば傭兵を経て成り行きでフリーターとなってしまい...。
遂には、最終的には反逆者の疑いをかけられるという凄まじい墜ちっぷり...。
もし、国家反逆罪の刑が確定したら死刑は免れない...。
はぁ...。
もうダメかもしれんね...。
~元ポンズ王国配下歩兵隊兵士、ハリガネ=ポップ容疑者~
魔術と神への信仰が国家を発展させているポンズ王国。
そんなポンズ王国は、反逆勢力軍団“ノンスタンス”の侵攻により国家危機に瀕していた。
ノンスタンスがポンズ王国に侵攻している最中、王国兵士時代の上官であるゴリラ隊長が自身の独断で部隊を編成して対抗するという暴挙に及びながらも最終的には事態の鎮圧に成功した。
そしてポンズ王国の危機から一夜明けて元王国兵士であり傭兵のハリガネは、その場に居合わせた王国兵士達に国家反逆罪の容疑をかけられて逮捕されてしまった。
その後、フリーターから被疑者という立場になってしまったハリガネは、都市ユズポン管轄警察署内の留置場に勾留されていた。
「だからっ!! 何度も言ってるだろぉ!? 俺はノンスタンスのデイとの親交はないしっ!! 侵攻の打ち合わせなんかしてないってのっ!! 」。
昼前、ハリガネは警察署の室内で刑事からの取調べを受けている最中であった。
「往生際が悪いぞぉッ!! 白状しろぉいッ!! 」。
「うっ!? やめろっ!! 眩しっ!! 」。
上下デニムという斬新な出で立ちである若い男の刑事は、デスクライトの照明をハリガネの顔に向けて白状を迫った。
「...」。
もう一人の刑事はスーツ姿に七三分けの中年男性で取り調べが始まってからハリガネ達に背を向け、ブラインドの隙間を指で開いて外の景色をずっと眺めていた。
「もう証言も上がってんだッッ!! お前はノンスタンスと国家転覆のために共謀しているとなッッ!! 」。
「どこからの証言だよっ!! それにそんなことしても、俺自身に何のメリットもないだろうがよっ!? そもそも何で上下デニムジーンズと黒シャツインでキメてんだよっ!? 何で天パーなんだよっ!? いつの時代のロックミュージシャンだよっ!? つーか、クソだせぇんだよっ!! 」。
「うるせぇぇぇぇえええええええええええええええええええッッッ!!! 俺の服装にケチつけんじゃねぇぇぇぇえええええええええええええええええええええッッッ!!! 」。
ガッシャァァァアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
ハリガネに自身のファッションのダサさを指摘されて激高した若い刑事は、踵落としで机を真っ二つに破壊してしまった。
「...」。
「...」。
若い刑事の行動に、ハリガネと取調べを記録している取調官はドン引きした様子で真っ二つになった机を見つめていた。
「...」。
それを見かねた中年の刑事は眉間にしわを寄せて若い刑事に歩み寄った。
「もういい...。後は俺に任せろ...」。
中年の刑事は厳かな口調でそう言うと若い刑事の肩を叩き、傍に置かれていた椅子に腰を下ろした。
「...っっ!! 」。
若い刑事は腑に落ちない様子であったが中年の刑事に退室を促され、困惑しながらも取調室から出て行った。
一方、ハリガネ達から離れた席で取調べの記録をしていた取調官は、呆れた様子で壊れた机をさっさと片付けて新しい机を目の前に配置した。
そして、用事が済むと定位置の場所へ戻り、ペンを掴み直して本来の業務に戻っていった。
「さて...」。
中年の刑事は机に灰皿を置くと、ジャケットの内ポケットから煙草の箱を取り出した。
「お前さん...。お袋さんは...どうしてる? 」。
中年の刑事はハリガネを見つめながらそう問いかけ、手に持っているライターで煙草に火をつけた。
「いや、母親は小さい頃、戦争の際に敵陣が王国内に侵攻した混乱で行方が分からなくなりましたけど...。今も何処にいるか分かりません」。
怪訝な面持ちでハリガネがそう答えると中年の刑事は深く頷きながら煙草を勢い良く吸い、天井に向かって煙を一気に吐き出した。
「親父さんは...? 」。
中年の刑事がそう問いかけると、ハリガネは眉をひそめながら呆れた様子で溜息をついた。
「アンタは知ってるはずだと思うけど? 俺の父はハリボテ=ポップだよ? ...認めたくないけどさ。てか、そもそも自分達で調べれば俺の身元くらいすぐ分かるだろうがよ。つーか、そんな事聞いて俺に関する取調べの役に立つのかよ? 俺は微塵も感じねぇけどな。...ったく、憲兵のやってる事っつーのはホント訳分かんねぇ...」。
「...アンタじゃない。ボスと呼べ」。
悪態をつくハリガネに、中年の刑事は険しい表情でピシャリとそう言い放った。
「はぁ~? 」。
眉をひそめるハリガネを余所に、中年の刑事はそのまま話を続けた。
「いいか...? 親子はお互いの距離が近い分、仲が良いものだという偏見がまとわりつくものだ...。しかし有る事によって親と子は各々の心情の狭間で憎しみ合い、争い合う...。時には相見える事も拒絶し合う場合もあり得る...。最悪、お互いを手にかける事例も起こっている...。そして、負の出来事が重なり続ければ関係の修復も難しくなる...。誠に嘆かわしい事だ...」。
中年の刑事はそう言いつつ、再び煙草の煙を吐き出しながら更に話を続けた。
「それを解決するのは時間...。あるいは歳を重ねて成長した己達だけだ」。
「いや、アンタさぁ~。これは俺の取調べなんじゃ...」。
「アンタじゃない、ボスだ...。何度も言わせるな」。
「...」。
中年の刑事がそう言葉を遮り再度忠告をすると、ハリガネはうんざりした様子で溜息をついた。
そんなフワフワしたやり取りの最中...。
ジリリリリリリリリ...ッッ!!
突如、取調室に置かれていた電話が鳴り出した。
「...? 誰からだ? 」。
中年の刑事は怪訝な面持ちで手に取った受話器を自身の耳に近づけた。
「...」。
中年の刑事は何かを悟った様子で黙り込んだまま、受話器から聞こえる声に耳を傾けながら地面を見下ろしていた。
「シンコ...」。
中年の刑事はその一言を発し、悲愴感に満ち溢れた表情で受話器を見つめた。
「...」。
しばらくして、見つめていた受話器を静かに元の位置へ戻した。
「...」。
「...」。
沈黙が流れる中で怪訝そうな表情を浮かべるハリガネの方に、神妙な面持ちの中年の刑事は向き直って重々しく口を開いた。
「...飯の時間だ」。
「いや、シンコって何だよっ!! 」
その日、ハリガネは取調べらしい取調べを受ける事はなかった。
ただ、時間だけが悪戯に過ぎていくだけだったという...。