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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

留学生を婚約破棄&国外追放したら国が滅びた件

作者: 北風甘

初投稿です。

拙い文章ですがよろしくお願いします。


「お前の様な得体の知れぬ他国の者を、歴史あるこの国の王妃にする訳にはいかない!!今ここでお前との婚約を破棄する!!」


それは突然の出来事だった。

記念すべき王立学園の卒業パーティー会場。

その中央では複数の男女が何やら揉めている様である。

 

一人はこの国の王太子であり、卒業と同時に王に即位する事が決まっているオズワルド・ノーブルである。金髪碧眼の誰もが認める美青年ではあるものの、今のその表情は憎悪に染まっていた。

また、彼の傍らには宰相の子息と騎士団長の子息もいたが、彼らも同じく険しい顔で前を見据えている。


そして彼らの後ろには、ショッキングピンクの派手な髪をツインテールにし、これまた派手なドレスとアクセサリーで着飾ったヴィッチ・ヴィエラヴィッチ男爵令嬢が、何やら怯えた様子で控えていた。


そんな彼らと相対するは、他国からの留学生であり王太子の婚約者でもあるマオ・サターンだ。


腰まで伸ばした黒髪に、陶器の様な白い肌、少し釣り上がった深紅の瞳と人間離れした美貌を持ち、座学だけでなく魔術や剣術の分野においても他の追随を許さない完璧な才女である。


「婚約破棄でしょうか?私に何か落ち度でも?」


「しらばっくれるな。お前が我が愛しのヴィーに嫌がらせをしてきた事は学園の皆が証明している!全く、王太子であるこの私を立てぬ可愛げの無い女だとは常々思っていたが、そこまで性根まで腐っているとはな!」


「はい〜。ヴィーの教科書やドレスをボロボロにしたり、会う度にオズ様には相応しくないって意地悪な事を言ってきて、悲しかったですぅ〜。それに、昨日なんか階段から突き落とされたんですぅ〜。ヴィーとっても怖かったぁ〜」


大袈裟に震え出したヴィッチ。どう見ても下手な演技にしか見えないが、マオ以外の者には酷く痛ましげに見える様であり、周りのみんなは同情的な目でヴィッチを、そして冷ややかな目でマオを見ている。


「大丈夫ですか!?こんなに震えて可哀想に……」


「ヴィーはテメェと違って繊細な淑女なんだよ!!」


宰相子息と騎士団長子息が男爵令嬢の肩や腰に手を添えながら、激しくマオを責め立てる。


しかしマオも言われっぱなしのままではいられない。


「全く身に覚えがありませんし、そもそも私はそちらの方とは初対面です。失礼ですがお名前をお伺いしても?」


「酷いわ!!ヴィーのお家が男爵家だからって馬鹿にしてぇ!貴女には人の心というものがないのね。まるで魔族みたい……」


まるで話が通じない。マオは呆れてものも言えなかった。


「きゃあ!!今睨まれたわ〜。ふえーん、怖いよぉ〜」


とうとうヴィッチは顔覆い泣き出してしまった。

しかしマオは彼女の口元が僅かに弧を描くのを見逃さなかった。


「泣かないでくれ、愛しのヴィーよ。君に涙は似合わない。大丈夫だ、私が必ず君を救ってみせる!」


オズワルドはマオをギロリと睨みつけると高らかにこう宣言した。


「我が国の未来の王妃を傷つける者は何人たりとも許さぬ!マオ・サターンよ、今すぐにこの国を出ていけ!!お前にこの国での居場所など無い!!」


オズワルドの言葉を皮切りに、他の生徒達までもがマオを罵倒し始めた。


「そうだ!勉強が出来るからってお高く止まりやがって」


「ちょっとばかり綺麗な顔だからって調子乗ってんじゃないわよ」


「そもそも礼儀がなってないのよ。どうせ小国の田舎から来たんでしょ」


「性悪」


「血も涙もない冷血女」


「身の程知らず」


心無い言葉が次から次へと繰り出される。


しかし学園の生徒達からの罵声を一身に浴びながらもマオは顔色一つ変えない。

それどころか何か決心した様な凛々しい表情をしていた。


生徒達の罵倒の語彙も尽きかけた頃、マオは鈴を転がすような声でオズワルドに語りかけた。


「分かりました。婚約破棄いたしましょう。そしてお望み通りすぐにでも母国へ帰りますね。もう二度とお会いすることもないでしょうが、皆様、どうか末長くお元気で」


そしてマオは完璧な礼をして会場を後にした。


思っていたよりもあっさりと承諾した事に拍子抜けした一同ではあるものの、オズワルド達の本日のメインイベントはこれからであった。


気持ちを切り替えてオズワルドはヴィッチの前で片膝をついた。


「さあ、邪魔者は消え去った。ヴィー、改めて私と結婚してほしい。共にこの国をより豊かにしていこう!」


「はいっ!ヴィーはオズのお嫁さんになりま〜す。お腹の子もきっとオズに似て素敵な子になると思うわ♪」


二人を称える拍手と喝采が会場に響き渡る。


障害を乗り越え愛し合う新たな王と王妃の誕生に、この国の未来は明るいだろうと誰もが確信していた。


明日にはこの国が滅んでいるとは誰も露知らず……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ただいま戻りました、魔王様」


マオは王座に座る男に恭しくひざまずいた。


彼女と同じ深紅の瞳と白い肌を持つその男は、聖書に描かれている天使の様に美しかったが、その額には明らかに人外と分かる禍々しい角が生えていた。


「マオたん、二人っきりの時はパパって呼んでって言ってるでしょ〜」


彼こそが魔王国の王、魔王である。

今は亡き人間の妻との間にできた一人娘のマオを溺愛しており、一見争い事とは無縁の優男に見えるものの、荒くれ者の集まりである魔族を力で捩じ伏せてきた歴戦の猛者である。


「それで急に転移魔法で帰ってくるなんてどうしたんだい?パパはいつでも大歓迎だけど」


「実は先程、婚約破棄をされまして」


「あぁん⁉︎婚約破棄だぁ⁉︎」


穏やかな雰囲気から一転、途端に張り詰めた空気へと変化した。


「ウチのプリティーでラブリーなマオたんの何が不満と言うんじゃあのガキが!!」


「卒業するまでの三年間、必死に耐え忍んできましたが、やはりあの国との和平は無理な様でした。お父様の顔に泥を塗る様な真似をしてしまい申し訳ありません」


「マオたんは悪くないよ。悪いのはママが生まれ育った国だからって譲歩してきたパパに非があるさ。さあ、今日は色々あって疲れているだろう。もうお休み」


優しい父の心遣いに思わず涙ぐみそうになるのを何とか堪え、マオは静かに頭を下げ王の間から退出した。


マオが退出したのを見計らって魔王は憎々しげに呟いた。


「それにしてもたかが小国風情が……大人しくしていれば舐め腐りやがって……」


そしてすぐさま伝達魔法で全配下に命令を下した。


『誇り高き魔族達よ、我が娘を愚弄したあの国を徹底的に潰してこい!!王族貴族の首を取ってきた者には褒美を進ぜよう』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方その頃、マオが退出したパーティー会場では来賓として王と王妃がやって来たところであった。


「皆の者、遅れてすまない」


愚王でも賢王でも無い平凡な王であったが、愛する王妃との間にできた一人息子であるオズワルドをとにかく甘やかした事こそが、この王の一番の過ちであった。


「父上、母上、良いところに」


王と王妃の元にオズワルドとヴィッチが駆け寄って来た。


「オズワルドよ、卒業おめでとう。ところで隣の令嬢は……」


「はじめましてお義父さん、お義母さん。あたしヴィッチって言います。ヴィーって呼んでくださいね♪」


「お、お義母さん!?一体どういう事ですの!?」


「そ、そうだぞオズワルド!マオ殿はどこにいらっしゃるのだ!?」


「ああ、あの女ですか。お二人は何故かあの女を恐れていた様ですが、どうかご安心を。先ほど婚約破棄を突き付けて、この国から追い出してやりましたよ。これからは私とヴィーがこの国の未来を担っていきます」


王はオズワルドの言葉に唖然とし、王妃に至っては泡を吹いてその場に倒れこんだ。


「は、母上!?」


オズワルドが王妃を抱き起こそうとしたその時、会場に衛兵達がなだれ込んできた。


「何事か!王の前で無礼であるぞ!!」


「申し訳ありません。ですが緊急事態です。魔族がこの国に攻め込んできました!!」


「何ぃ!?なぜいきなり!?魔王国はこれ以上、国土を広げないのではなかったのか?」


落ち着きを取り戻した王はオズワルドを忌々しげに見つめながら声を張り上げた。


「魔王国が攻めてくるのも当たり前だ!何せマオ殿は魔王国の王女様であられるぞ!!」


「ま、魔王国の王女!?」


「それってつまり……」


「「魔王の娘!!!?」」


オズワルドとヴィッチの声が見事に重なった。


「父上、なぜ教えてくれなかったのですか!!」


「馬鹿者!!!!私は何度もお前に伝えたはずだ。マオ殿には絶対逆らうな、機嫌を損ねるな、とな。それをお前は聞く耳を持たず、挙げ句の果てには婚約破棄して国を追い出しただと!?」


今更になってマオを糾弾した者達は後悔した。

しかし時すでに遅し。


「ああ、この国はお終いだ……」


誰かがそう呟いた。

だが誰もその言葉を否定しない。


先程のお祝いムードが嘘のように、辺り一体がシーンと静まり返った。


近くで建物が崩れる音が、誰かの悲鳴が、魔物の咆哮が聞こえてくる。


破滅の時は近い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして地図上から一つの国が消滅し、魔王国は国土をさらに広めたのであった。


さらに新たに就任した女王によって魔王国はより発展していった。


それからは、とある亡国から逃げ延びた元王太子と元男爵令嬢が召喚した破壊神を勇者と共に倒したり、勇者と恋に落ちたりするのだがそれはまた別の話である。


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[一言] 国の存亡に関わる重大事を息子に教えたと思ったら聞き流してたとは王様でも思うまい 後の破壊神召喚とか迷惑な方向には行動力あるな
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